第56話 工藤の目的


工藤亮二…… 何もかも完璧な男。

仕事場でもかなり階級が高く、誰からも尊敬されている。

綺麗な奥さんも居る。

理想的な人でした。

ビッグバンコーポレーションの専務。

次の社長候補と呼ばれている。


社長候補は実は沢山いる。

実の血縁の息子に同じく仕事が出来る者。

数えだしたらキリがない。


工藤はある日の社長との食事での出来事が頭を過る。


「 工藤君、仕事にプライベート。

かなり充実してるじゃないか! 」


社長にはかなり気に入ってもらっている。

次の社長は自分に違いない。

そう思っていた。


「 でも工藤君…… 子供は居ないのかね? 」


「 えっ? …… はい。

まだ良いのかなと思いまして。 」


「 そうか…… それは残念だ。 」


工藤さんはその歯切れの悪い話に、色々考えてしまっていた。

社長は昔ながらの人。

家族は旦那と奥さん、子供が居て当たり前。

それが理想的な家族だと思っている。


ある日仕事終えて帰ろうとしていた時。

女子社員の話が聞こえてくる。


「 知ってる? 社長は次の候補には理想的な人を社長にするんだってさ。

だから絶対独り身はNG!

理想的な家族を持ってる人にするって噂よ? 」


噂…… 気にする事なんかない。

一つだけ気がかりが。

「 子供 」 これだけが引っかかる。

奥さんと仲良くないのか?

関係は良好で問題ない。


なのに何故子供が居ないのか?

奥さんは子供が出来ない事に不信感を持ち、病院で検査してもらう。

幸さんは子供が出来ない体でした。

その診断に幸さんは落胆していた。

工藤さんは悲しかったけど、全く気にしてはいなかった。


「 二人で居れば良いじゃないか!

キミは全く気にしなくて良い。 良いね? 」


その言葉に嘘や偽りはなかった。

幸さんは泣きながら工藤さんに抱きついた。


社長の理想的な家族像に絶対自分は当てはまらない。

自分の妻は子供が出来ないのだから。

工藤さんは怒りの感情が溢れた。

それだけはどうにもならない。



幸さんは怒ってはいない。

本当に仕方がないのだから…… 。


ある日の事…… 。

自分の元カノの桜さんが亡くなった事を耳にする。

そして一人で子供を育てていた事…… 。

その子供が出来た年数を逆算すると、自分と付き合ってた頃に生まれていた事が分かる。

工藤さんはその時思った。


「 これだ…… この子供さえ居れば。

俺にはまだ希望がある。

絶対諦めてたまるか…… 。 」


その日に工藤さんに大きな野望が生まれた。


そして現在…… 。

目が覚めるとそこは会社のソファの上。

少し前の事を夢で見ていた。

仕事で疲れて眠ってしまっていたのだ。


「 俺が社長になる…… 。

それがどんな手を使ってもだ。 」


また社長になる為にまた立ち上がる。

野望の為に…… 。


意味もなく街中を萌は歩いていた。

勉強も手につかず、ただひたすら歩いていた。


「 藤堂さん、こんにちは。

辛そうな顔してどうした? 」


吉良に偶然会ってしまう。

萌は頭をかきながら気まずそうにしている。


「 良かったらそのスイーツ店行かないかい?

男性一人で入るには気まずくてね。 」


そう言って二人はスイーツ店へ。

相変わらず気さくで優しい。

萌を気遣ってくれていた。


「 どうしたんだい?

最近元気ないじゃないか? 」


吉良とは仲良しの友達。

今の現状を全て話した。

吉良は真剣に聞いてくれていた。


「 そうか…… 大変だったね。

おじ…… 失礼。

赤沼さんは仕方なく身を引いたと僕は思うよ? 」


萌はまだ酷い事を言って傷つけた事を気にしていた。

全て自分のせいなのだと思っていた。

吉良は全力で励ましてくれる。

萌の気持ちは少し楽になっていた。


話を終えて別れると、吉良は言えとは真逆の方へ向かっていた。

そして目的地のチャイムを鳴らす。


「 はぁーーい。 」


扉が開くとそこには朝倉がいた。

来た場所は朝倉の家だった。


「 吉良!? 何しに来たんだ! 」


動揺してあたふたしている。


「 一人暮らしってどんなもんなのか?

少し興味があってね。

ちょっと見学にね。 」


朝倉は直ぐに外に出て扉を閉める。

何かを隠すように…… 。


「 これは違うからな!

浮気とか絶対にしてないからな?

勘違いするなよ? 」


その動揺ぶりを見て笑ってしまう。

吉良は逆に嬉しく思う。


「 朝倉は相変わらず正直だね。

何処かで座って話さないかい?

中の人の事についてね。 」


二人は近くの公園のベンチで話すことに。


「 キミが浮気するほどモテないのは知ってる。

藤堂さんは勘が鋭いから、嘘の下手なキミなら直ぐにバレるだろうし。 」


「 なんだと!? 」


相変わらず敬遠の仲…… 。

仲良く話せる訳もなく。


「 単刀直入に言うと…… 中に居るのは藤堂さんのおじさんじゃない? 」


吉良はおじさんと朝倉が、同じ職場で働いていた事を知っていた。

だからもしかしたら?

と思いアポ無しで突撃したのだ。


「 萌には…… 言うなよ。 」


仕方なくこれまでの経緯を話す。

吉良は聞き終わり少し考え込む。


「 少し考えて思ったんだけど。

工藤って男は本当に父親なのかな? 」


「 そうだろうな…… 。

萌のお母さんと最後に付き合ってたのは、工藤って人らしいからな。

アルバムには工藤と写った写真もあったらしいし。」


疑うだけ時間の無駄な事。

朝倉は自分に言い聞かせていた。


「 僕はね…… 頭の悪いやつと、口の上手いやつが嫌いなんだ。

だからこの話を聞いて、工藤は僕には怪しさしか感じられない。

藤堂さんには分からなかったみたいだけど。 」


吉良は髪を指でくるくると巻き付けるようにし、不適な笑みを浮かべている。


「 はっ?? 怪しいって…… 。

本当の父親なんだから怪しくもないだろ。

お前みたいな奴が来ると面倒しかない。

早く帰れよ! 」


「 僕には何か目的があって突然現れたようにしか思えなくてね。

その目的の為に藤堂さんが必要だったんじゃないかな?

僕はお葬式の日にクラスを代表して参列していたが、工藤は顔すら出していなかった。

そんな奴が父親と呼べるのか? 」


朝倉も吉良の話を聞いたら、少し不自然な点がいくつか感じてしまう。


「 藤堂さんを利用したいだけだとしたら、このまま黙ってはいられない。

朝倉…… 彼女が好きなら僕と手を組まないか? 」


吉良からの提案に朝倉も状況が全く飲み込めないでいる。


「 …… 分かった、やろう。

その代わり萌には内緒でやろう。

これ以上傷ついて欲しくないから。 」


「 同感だね。 」


ここに今、限定的で仲間になって熱い握手をする。

同じ女性を好きになった男同士、何か共通するモノがあるのかもしれない。


「 まずキミにやってもらいたいのは…… 。

藤堂さんの髪の毛を手に入れてくれ。

DNAを採取するんだ。 」


「 なにいぃーーっ!? 」


小さな可能性を信じ、二人は動き出すのだった。

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