第52話 二人の親父


ある日の日曜日…… 。

おじさんはショッピングセンターに居た。

アウトレットの服を求めて、服屋を回りに回っていた。

椅子に座って沢山の荷物を隣に置いて、萌の買い物に付き合っていた。


「 はぁ…… 長い…… 。 」


この前の無断外泊に部屋に侵入した罪により、貰ったばかりの給料で服を買わされている。


( それにしても…… 嬉しそうならそれで良いのかも知れないな。 )


ニコニコしながら鏡で服を見る姿を見て、ホッコリしてしまうのだった。

休みは無駄にされてしまっても、萌の為ならたまには良いと思ってしまう。


「 本当に嬉しそうですね。 」


いきなり声をかけられる。

直ぐに隣を見るとそこには工藤さんが居た。


「 あなた…… いきなりどうして? 」


「 すみません…… どうしても遠くからでも娘の顔を見たくて。

安心して下さい…… まだ会おうとは思いません。」


工藤さんは萌の気持ちを第一に考え、会いたくなるまで待つつもりだ。

大人な対応だった。


「 萌に…… あなたの事話しました。 」


先日の事を全て話した。

工藤さんは残念そうにうつ向く。


「 それは仕方ないですね。

いきなり現れて父親面しても、正直受け入れようがありません。 」


ショックは受けていても、全然諦めたとは思えない。


「 萌は赤沼さんにとても懐いていますね。

遠くから見ていても良く分かります。

彼女は本当に桜にそっくりです。 」


桜と萌を比べて懐かしくなっていた。

面影は確かにあるのはおじさんにも分かっていた。


「 ここでは今、アウトレットセール?

とか言うのをやってるみたいですね。

もう少し良いとこに連れて行けば良いのに。 」


「 萌が来たいと行ったので。

それに私の稼ぎでは高いブランドとかは、そんなに沢山買う事は難しくて。 」


相変わらずおじさんの稼ぎでは、萌とは似合わないと遠回しに言っている。


「 ならこれで少し買ってあげて下さい。

少ないですが少しはマシになるでしょう。 」


封筒を手渡される。

中を見ると10から30万くらい入っている分厚さ。

直ぐに工藤さんに返す事に。


「 これはいらないです。

あなたのお金には頼れないので。 」


「 失礼しました…… 。

当然ですね、出過ぎた真似をしてしまいました。 」


二人はベンチから萌を見ていた。


少しすると萌が服を決めたようだ。

直ぐに会計しに店に行き、外に戻ると工藤さんの姿はもうなかった。


「 おじさん? 誰探してるの? 」


「 べ…… 別に! 誰も探してない。 」


そう言い歩き始めた。

たまの休みだから何処かで外食に行くことに。


「 おじさん! ここにしない?? 」


そこは高級ホテル。

お昼にはバイキングが行わているのだ。

少し高そうなホテル…… 。


「 ま、任せろ! 行こう。 」


たまには無理してもカッコいい所を見せたい、親心が芽生えていた。


「 もしもし…… 私だ。

ホテルのバイキングの予約の件なんだが…… 。 」


隠れた工藤さんが何処かに電話をかけていた。


中に入ると広いエントランスに、光輝くロビー。

その光景は素晴らしいとしか言いようがなかった。


「 おじさん、こっちこっち。 」


バイキングの所まで行くと店内は満員に。

人気なバイキングなので予約制だった。


「 ごめんね…… 全然知らなくて。 」


「 全然気にするな、他の店に行こうか。 」


そう言い帰ろうとする。

すると会場から一人の男が出てきた。


「 あれ? 赤沼さんじゃないですか? 」


その声の方に振り向くと、そこには工藤さんが立っていた。


「 お久しぶりです、私一人でここで食べていたんですよ。

良ければ御一緒しませんか? 」


実はここのホテルは工藤さんの良く利用する場所。

かなりのお得意様なので、簡単に予約が取れてしまう。

他人のふりをして合流する作戦だった。


「 お久しぶりです…… 。

迷惑なので今日はこれで。 」


腹が立つやり方に帰ろうとする。

すると萌が腕を掴んできた。


「 おじさん、折角だし。

御一緒させてもらいましょうよ! 」


萌はバイキングに行ってみたくて、その誘いに乗りたくて仕方がない。

工藤さんは嬉しそうにしている。

そして萌の前に来た。


「 ありがとう萌ちゃん。 」


「 あれ? 名前言いました? 」


咄嗟に名前を言ってしまう。

おじさんは動揺してしまう。

逆に工藤さんは全く動じる事はなかった。


「 お父さんに前に聞いていたんですよ。 」


咄嗟の対応力もさすがとしか言えなかった。


「 そうなんですね。

私はおじさんの娘の萌です。 」


「 お父さんの友達の宮本です。

宜しくお願いしますね。

さぁ、中へどうぞ。 」


流されるまま中へと誘導されてしまう。

会場は沢山の料理に目を奪われるほとに綺麗。

プロのシェフが目の前で調理までしている。


「 おじさん凄いね。

こんな凄いとこ初めて見た。 」


萌は凄い興奮している。

おじさんは不満そうにしてしまう。


「 こんなとこ良くあるだろ。

焼肉屋とあんま変わんないだろ。 」


ハッキリ言って全然違っていた。

明らかに自分の食べている料理とは懸け離れていて、小バカにされてる気分になっていた。

そんな気持ちと裏腹に、萌は高級なホテルのバイキングは初めてで、興奮しながら列に並んでいた。


「 これと…… これと。 」


フルーツやローストビーフ。

ラザニアなどの美味しい料理が沢山。

萌はお皿に色々乗せていく。

工藤さんはそれを嬉しそうに見つめていた。


( この野郎…… わざとらしく現れて。

萌の気を引こうとこんなとこ予約しやがって。)


イライラしながらもお皿に沢山乗せていく。

山盛りに乗せた皿を持って席に向かう。


「 すげぇ…… 景色…… 。 」


ここはホテルの最上階。

綺麗な景色を堪能しながら食事を楽しめる。

来ている人達も少しリッチな人達が多かった。


「 おじさん、そんなに乗せて子供みたい! 」


おじさんの料理を乗せたお皿を見て、萌は笑ってからかって来る。

工藤さんも笑っていた。


「 赤沼さんは本当にお茶目ですよね。 」


工藤さんまでからかってきた。

おじさんはイライラが溜まっていく。


( 工藤…… 何笑ってんだ?

このままお前の事親父だってバラすぞ!?

どんだけ図々しいんだぁっ?? )


おじさんは構わずにバクバクと食べる。


「 宮本さんって凄い格好いいですね。

スーツとか凄いビシッ! と決まってるし、料理の食べ方もとても綺麗で。 」


萌は工藤さんを誉めている。

親子だから引かれ会うのだろうか?


「 私なんか全然。

少しだけ人より蓄えがあるだけですよ。

萌ちゃんだってとても料理マナー出来ているよ。 」


その話を横目におじさんは沢山食べている。


( バクバク…… ごくん!

何が…… 蓄えがあるだけですよだ!

カッコつけやがって。 )


口の周りにパスタソースをつけながら、二人を羨ましそうに見ていた。


「 あはは、何よそれ!

口の周りがソースだらけじゃない。

ほらほら仕方ないなぁ。 」


萌は笑っておじさんの口の周りをハンカチで拭く。

おじさんは嫌そうにしながら、萌の手を払ってしまう。


「 良いんだよ! 大人なんだから。

お前らは綺麗にでも食ってろ!! 」


ズルズルーーっ! パスタを下品にすする。

周りの人達からも注目されてしまう。


「 何怒ってんのよ…… 。 」


「 すみません…… 私のせいです。

急に誘って厚かましくしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。

後は二人で楽しんで下さいね。 」


工藤さんはそう言い帰ってしまう。

萌が引き止めようとしても遅かった。


「 はぁ…… あ。

折角楽しく食べてたのに台無し。

何イライラしてるのよ。 」


おじさんは何も言わずに食べ続ける。


「 あぁ、私だ…… 。

思ってたより順調に進んでいる。

遠くない内に私の元に来るだろう。 」


工藤さんは何処かに電話しながら、怪しく歩い行くのだった。

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