第53話 萌の未来


おじさんは帰るなり横になっていた。

不機嫌そうに何か考え事をしている。


「 おじさん! さっきの態度は何?

凄い不機嫌そうで宮本さん帰っちゃったじゃない。

何がそんなに嫌だったの? 」


「 別に…… あそこのご飯が美味くなかった。 」


そう言いこたつに入り丸くなっている。

絶対に何か嫌な事があったと思う。


部屋に行きふすまを閉めて電話をかける。


「 恵? 私…… 今大丈夫? 」


恵って聞くと誰? と思う人は多いと思いますが、朝倉の下の名前は恵。

皆名字でしか呼ばないので、下の名前を聞くのは珍しい。

付き合い始めてから名前で呼ぶようになった。


「 大丈夫、どうかした? 」


「 実は…… 。 」


今日の事を出来るだけ細かく、正確に話した。

朝倉は最後まで聞くと。


「 そうなのか…… 俺には分からないな。

まぁ、今はそっとしといてあげたらどうだ? 」


萌も朝倉の言う通りだと思いその案で行く事にした。

そして電話を切った。


朝倉は分からないと言ったけど、一つだけ心当たりがあった。


( もしかして…… その人と赤沼さんって。

本当に友達なのか?

元々自分の話は全然しないけど、そんな知り合いの陰は一度もなかった。 )


朝倉は何となく違和感に気付いていた。

でも無駄に困らせないように、萌にはあえて言わなかった。


次の日仕事でも不機嫌なおじさん。

仕事は適当で周りの仲間も話しかけずらいオーラ全開だった。


「 赤沼さんお疲れさまっす。 」


朝倉がバイトにやってきた。

おじさんは聞こえてるのに返事すらしない。


( これは相当だな…… 。

他の人が嫌がるのが良く分かる。 )


それでもめげずに近づいて行く。


「 赤沼さん…… 何かあったんですか?

俺で良ければ聞きますよ? 」


気を利かせて言うと手を止めた。


「 ガキの癖して偉そうに…… 。

大したことないって。 」


明らかに悩んでいてイライラしている。


「 萌もすげぇ心配してますよ?

この前会った男の人って友人じゃないんでしょ?

それが原因なんじゃないんですか?? 」


負けずに追及していくと、おじさんはやっと振り向いて話をする事にした。

どうせいつかバレるのだから。


「 実は…… ごにょごにょ。 」


全てを話した。

朝倉を信用してるからこそだ。

まだ子供でも同じく萌を心配しているだから、話すに値すると思った。


「 そんな…… 本当親父って。

でもそんなの居たからって、萌は赤沼さんと暮らすのが一番だと思います。

今更現れたからって何なんですか? 」


「 萌も父親が居るって言ったら、同じ事言ってたな。 」


萌や朝倉にそう言って貰えても、おじさんは工藤さんの言い分も良く分かっていた。


「 バイキングで目の前に現れたとき、萌は工藤さんに夢中だった…… 。

しかもあんな高そうなホテルに、顔パスでいきなり入れるんだ。

その地位や名声があれば、間違いなく萌に不自由なく暮らせるだろう。 」


おじさんは自分の気持ちより、萌の未来を考えてこのままで良いのだろうか?

と色々考えていた。

朝倉も悔しそうにしている。


「 朝倉…… 元々俺と萌の親子関係はな?

偽装しての親子関係なんだ。 」


「 え…… ? 」


誰にも話してこなかった秘密を、遂に話してしまう。


「 あいつはおばさんの家には、どうしても行きたくなかったんだ。

だから俺のようなダメ男に頼んで、1000万で俺に家に置いてもらう契約をしたんだ。」


赤の他人が聞いたらびっくりしてしまう。

お金だけの関係から始まった家族。


「 難しい事良く分かんないですけど、赤沼さんと萌はお金だけの関係には全く見えませんでしたよ?

俺にはそこら辺に居る親子と、なんも変わらない。」


おじさんは朝倉の言葉が嬉しかった。


「 ありがとう…… な。 」


そう言い何処かへ行こうとする。


「 一つだけ約束しろ。

絶対にどんな事があっても、萌を守ってやってくれ。

傷つたりしたら俺が許さんからな。 」


朝倉を指さして分かったな?

と言わんばかりに釘を刺す。


「 絶対に大丈夫ですよ!

任せて下さい。 」


おじさんはそれを聞くと手を振り仕事に戻る。

朝倉も相変わらずの心配性なおじさんに、良いお父さんだなぁ、と思う。


( あれ…… 。 少し気になる。

ちょっと赤沼さんが悲しそうに見えた。

気のせいだと思うけど…… 。 )


嫌な予感がしていた。

でも気のせいだと思うようにした。


萌は本屋を一人で探索していた。

別に何が見たいかとかはなかったが、色々気持ちがモヤモヤすると本屋に来るのだ。

心の落ち着く場所。


「 本って良いですよね。

心が落ち着くと言うか。 」


萌にいきなり話をかけて来たのは、萌の父親の工藤さんがそこに立っていた。


「 宮本さん!? どうしてここに? 」


「 私も本が好きでね。

良く悩んでいるときとかは、本屋に来るだけで心が落ち着くんですよ。 」


萌と似ている考え方をしていた。

おじさんとは正反対の性格。

おじさんは漫画見たりとかしても、小説みたいな文字だけのは絶対に見れない。


( 宮本さんって格好いいなぁ…… 。

おじさんとは全然違う。

顔も小さくて髪型も凄い決まってて、香水なのか良い匂いもする。

こう言う人が理想の男性なんだろうなぁ。 )


何処から見ても欠点のないパーフェクト人間。

ぐぅたらなだらしないおじさんとイチイチ比べてしまう。


「 良ければ少しお話でもしませんか?

近くにオススメのコールドブリューがある店があるので、良ければ御一緒に。」


コールドブリュー?

初めて聞く名前…… 。

でも聞くのは恥ずかしいので。


「 はい! 喜んで。

コールドブリュー? 大好物です。 」


知ったかぶりをして一緒にお店へ。

着いたのはおしゃれなカフェだった。

そして何となくコールドブリューの正体は、コーヒーか何かなのだと分かる。


「 すみません、コールドブリューを2つ。 」


メニューを見ずに頼む。

そしてスイーツを適当に頼んでいた。


「 宮本さん…… おじさんとはどういう知り合いですか?

年齢だって離れてそうで、それに別次元の世界と言うか…… 人種すら同じか疑ってしまうくらい違うなぁって。 」


当然関係が気になっていた。

工藤さんは軽く鼻で笑ってしまう。


「 失礼、やっぱりそう見えてしまいますよね。

年齢はタメですよ。 」


「 えぇーーーーっ!!? 」


同じ40代でもここまで違う。

食べてる物も着ている物も何もかも。


「 遠回しに話すのはやめにしますね。

私は萌ちゃんのお母さん…… 桜さんとお付き合いしてた者です。」


いきなりの告白に萌はびっくりする。


「 えっ? お母さんの…… 。 」


「 はい…… とても綺麗な人だったな…… 。 」


工藤さんは思い出して少し涙目になっている。

萌は突然の事に驚いてしまう。


「 ん? もしかして…… 宮本さんって。

私のお父さん…… ですか? 」


萌の勘は鋭かった。

最近のおじさんの変化。

いきなり本当の父親に会いたいか?

の理由も良く分かる。

全ての違和感が工藤さんが父親だったらつじつまがあうのだ。


「 さすがだね…… 。

隠しても無駄か。

私は萌ちゃんの正真正銘の父親。

宮本は偽名で工藤亮二が本当の名前です。 」


おじさんに本当の父親の話をされたとき、会わないから適当に答えたけど、今目の前に立っているのが本当の父親。


「 どうして…… ママと別れたんですか? 」


「 仕事が忙しくてすれ違いで…… 。

まさか私との子を身籠ってるとは。

本当に申し訳なく思ってる。 」


萌は頭の中がごちゃごちゃになっていた。


「 いきなりなんだが、父親らしい事をさせてくれないか?

一緒に暮らさないか? 」


「 えっ…… 。 」


爆弾発言の連発…… 。

萌の頭の中はぐるぐると回っている。


「 蓄えもあるし私の妻も喜んで迎えてくれる。

どうだろうか?

萌ちゃんの生活に不自由ないようにする。 」


金持ち紳士の父親。

萌はどうするのだろうか?

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