第51話 帰還


その日の夜に嫌々だけど帰る事にした。

いつものように重い足取りで、階段を音を立てて上がって行く。


ガチャっ!!

直ぐにドアが開いた。


「 おじさん! 何処行ってたのよ!?

心配したんだからね?? 」


いきなり開けられるとは思ってなかったので、呆気に取られてしまう。


「 お…… う、悪いな。

ちょっとパチンコ行ったりギャンブル行ってきた。

寒い、寒い…… 。 」


そう言い話から逃げるように中へ。

萌はまだ聞きたい事が山程あるのに、逃げられてしまった。



「 絶対に…… 嘘。

おじさんが顔を見ずに話すときは、恥ずかしい時と嘘つくときのどっちか何だから。 」


萌の鋭い勘は相変わらず。

そう簡単には騙せなかった。


直ぐにお風呂に入って、これからの事を考えていた。


( このままあの男の事を黙っていようか?

そうすればなかった事に出来る。

でも待てよ…… あいつは父親だ。

俺なんかが隠して良い訳あるか。

多分話したら動揺させてしまうし…… 。

いやいや! 意外にも直ぐに出て行ってしまうのではないだろうか? )


湯船に顔を沈めながら考えていた。

全くまとまる気配はなかった。


( 絶対何か変だ…… 。

突き止めてやるんだから。 )


おじさんの脱ぎ捨てられたずぼらから、レシートが出てきた。

漫画喫茶のレシートが一枚。

コンビニのレシートが二枚。


( 漫画喫茶は昨日の滞在した場所ね。

ここから少し離れてる…… 。

コンビニは適当にご飯はコンビニにしたって感じかな? )


探偵のような推理が始まっていた。

釣り堀のレシートが一枚。


( 釣り堀?? こんな冬に?

絶対怪しい…… 。 )


そして…… いつもは行かないような、離れた場所のレシートが一枚出てきた。


( 喫茶店…… しかも嫌いだって言ってた、チェーン店じゃない。

しかもコーヒーだけ…… 。

ん? この時間帯って仕事を抜け出した時間帯じゃない。

ここにわざわざ行った訳?? )


直ぐに工藤さんと会った一枚のレシートに辿り着く。

恐ろしい推理力。


「 気持ち良かったぁ…… 。

ご飯、ご飯っと。 」


上がってリビングに行くと、テーブルにはレシートが乗せられていた。


( 萌の野郎…… 何処からあのレシートを!? )


気にしないように座ってテレビをつける。

萌は隣に座り…… 。


「 このレシートはなんですか?

一体今まで何やってきたの? 」


浮気した旦那の尋問をするように、殺気だちながら追求していく。

当然怖いのもあり目を合わせられない。


「 あぁ…… それ?

昔のレシートなんじゃないのかな? 」


「 また嘘ついてる!!

レシートって日にちと時間が載ってるのよ?

無頓着過ぎて知らないんだろうけど! 」


また直ぐにバレた。

またどうにか乗り切る嘘を探す。


「 女…… そうだ!

女が出来たのよ、だから色々あってだな。 」


見苦しい嘘をつく。

直ぐに萌が手を出して来た。


「 スマホ、スマホ貸して?

その女性からの通話履歴見るから! 」


( この野郎…… どんだけ疑うんだよ。

この尋問にいつまで耐えられるか。 )


おじさんは仕方なくスマホを差し出した。

直ぐに通話履歴を見る。

そこには通話履歴は一つもなかった。


「 恥ずかしいから消してしまった…… 。 」


明らかに怪しい。

やましいことがあるから、全ての着信履歴を消したとしか言いようがなかった。


でもこんな分かりやすい事は想定内。

萌が見たかったのは、かかって来た履歴ではなくてかけた履歴が見たかった。

見ると全部残ったまま…… 。


「 えっと…… 昨日の昼頃に…… 工藤?

誰この工藤って? 」


何度かかけたあとが見つかってしまう。

おじさんは黙ってテレビを見ている。

萌はおじさんの返答を待っている。


「 お前の…… 本当の親父だってよ。

お前と話したいって。 」


観念して真実を話す。

動揺した萌を想像するだけで言い出せなかった。

恐る恐る見てみると?


「 そうなんだ…… それだけ? 」


「 ふぇっ?? 」


全く表情一つ変えずに返して来た。

動揺してない訳がない!

直ぐにおじさんの追及が行われる。


「 待て待て待て!

それだけ? …… じゃない!

本当の親父だぞ? そんな言い方あるかよ。

こっちがどんだけ悩んだか。 」


必死に話すと気にせず萌はご飯を装う。


「 そりゃ何処で生きてるんだろうけど、探そうとも思った事ないよ。

だって今まで居なかったんだから、今更現れたって…… で? って感じかな。 」


思っていた反応と違う…… 。

自分が黄昏たそがれて考えていたのがバカらしく思えて来る。


「 お前の存在事態知らなかったんだって。

だから仕方ないんだよ!

最近知って俺にコンタクト取ってきたんだ。

話だけでもしたらどうだ? 」


「 絶対ありえない!!

どっかに行ってたと思えば、そんな時間の無断な事してたの?

心配して損した気分。

こっちは怪我したんじゃないか?

って思って病院とかにかけたりとか大変だったんだからね? 」


「 ごめん…… 。 」


沢山心配させてしまい、反省するしかなかった。


「 早く食べよう!

この話はおしまい。 」


テーブルには大好物ばかりが並んでいる。

ビールを軽く飲む。


「 あっ! 仕事先の先輩のおじいさん?

から伝言で有給なんて残ってないだろ!

だってさ。 」


明日仕事に行ったら怒られるのを覚悟した。

萌は精神的に周りよりも大人だったのもあり、全く動揺する事はなかった。

それだけに何故か嬉しさと悲しさが交差する。


( 全く…… 見つかったんだから、会って話だけでもしてこいよな。

一緒に暮らすかはまた考えれば良いんだし。 )


工藤さんの事を考えると、会いたい気持ちに応えたくなる。


「 それと…… このアルバム勝手に見た?

逆さまに入ってたから直ぐに分かったよ。 」


相変わらず整理整頓されていて、勝手に見たのが直ぐにバレてしまう。


「 私の部屋に勝手に入ったら、言うこと聞くって約束だよね?

今度の土日は服を買いに行こうっと! 」


嬉しそうに笑いながらご飯を食べる。

相変わらず萌の方が一枚も二枚も上手だ。


萌が眠ってからこっそり外に出る。

また一人ビールを飲んでいた。


「 あんたまたバカやったんだって?

さっき萌ちゃんからメール貰ったよ。

ご迷惑かけましたって。 」


大家の鶴ちゃんだった。

ゆっくりと階段を上がって来る。


「 ババアも余計なお世話だ。

人の家庭に入って来んな! 」


生意気な事を言うと頭を叩かれる。


「 ババアじゃない! 鶴ちゃんと呼びな。

何があったんだい?

あんたが何も言わずに帰って来なかった事なんか、一度もなかったじゃない。 」


鶴ちゃんには隠せなくて全て話した。


「 そうかい…… それは大変だったね。 」


「 萌には言ってないけど、工藤の言う通りだと思った。

頭良さそうだしカッコいいしお金持ちで、俺が勝てる要素はギャンブルとケンカくらい。

自分の制服姿を鏡で見て笑っちまったよ。 」


悲しげに話ながらも呆れて笑ってしまう。


「 そうだね…… あんたはろくでなしでだらしなくて、大して稼ぎもないね。

だからなんだい?

あの子引き取ってバカなりに一緒に生きてきたじゃない!

私は知ってるからね。 」


おじさんは黙ってビールを飲む。

恥ずかしそうに夜空を眺める。


「 ババアに話した俺がバカだった。

早く寝ろ!! 風邪引くぞ…… 。 」


そう言い部屋に帰ってしまう。

鶴ちゃんはニッコリと笑う。


「 本当バカなんだから…… もっと堂々としろって。

あんたはちゃんとした父親だって。 」


鶴ちゃんもゆっくりと部屋に戻った。

大きな問題は解決したかのように思ったが、また問題は大きくなる事をまだ誰も知らなかった。

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