第48話 ゆっくりと


夜の事…… 。

部屋で萌は机に置いた手紙を見ながらニコニコしている。

それを隣の部屋から覗いていた。


「 何ニヤニヤしてんだ? 」


「 別に…… 何でもないよ!

お…… お風呂行ってこよっと。 」


そう言ってお風呂に行った。

気になりこっそりと部屋へ入る。

そして机の上の手紙を見つける。


「 手紙かぁ…… 。 」


おじさんはクスりと笑い、居間に戻った。

本棚にしまってあるアルバムを手に取る。

それは学生の時のアルバムだった。


「 懐かしいな…… 。 」


高校生の頃のアルバムを懐かしみながら見る。

当時は不良でまともに撮れてる写真はほとんどない。

ただ一枚だけ自分が写っている写真が。

それは萌のお母さんと二人で写った写真。

萌のお母さんが無理矢理に、恥ずかしそうなおじさんをカメラマンの人に撮らせた。

一緒に写っている桜は満面の笑み。


「 洋介君ダメじゃない!

アルバムに載せる写真全然ないんだってよ?

カメラマンさんお願いしまぁーーす! 」


思い出が頭を過る。


「 これでもう大丈夫。

一枚もないなんて寂しいじゃない? 」


思い出の写真を笑いながら見ている。


「 早すぎなんだよ…… 。

もっと話しとけば良かったな…… 。 」


早すぎる死を未だに悲しんでいた。

もっと積極的になれていればと後悔しかなかった。

アルバムの最後のページに、一つの寄せ書きを見つける。


( 本当は優しい人!

私の大好きな親友。 藤堂桜より。 )


悲しげにその寄せ書きを見る。


「 気持ち良かったぁーーっ。 」


萌がお風呂から上がって来て、慌ててアルバムを本棚にしまう。

急いでいたので向きが逆さまで、一つだけ飛び出した形でしまわれる。

直ぐに何事もなかったように座る。


「 テレビもつけずに何してんの? 」


「 たまには良いだろ静かなのも。

風呂入って来る。 」


直ぐにお風呂へ行ってしまう。

違和感のある行動を怪しんでいる。


次の日に学校ではいつものように授業が行われていた。

朝倉は紛失した下書きの手紙の行方が気になり、そわそわしている。


放課後に萌が帰るのを見てから、先回りして待ち伏せする。

偶然を装い来たのを見てから、横の道から現れる。


「 あっ…… 朝倉。 」


「 よっ…… 奇遇だな。 」


あまりにも分かりやすい現れ方で、直ぐに待ち伏せしていたのが分かる。


「 あの…… あのぅ…… 。

そうだ、変な手紙見つけなかったか?

お前へのラブレターみたいな変なの! 」


朝倉は恥ずかしそうに言った。


「 手紙? …… どんな? 」


知らないふりをして朝倉の反応を見る。


「 何かあれだよ…… お前の事が好きとか、本当しょうもない事を沢山書いてあるんだ。

見てないなら良かった。

誰かのイタズラだな、見つけても気にすんなよ。 」


どうにか自分ではない事にした。

もし告白するにしても、あんな下書きは絶対に自分のとは言えなかった。


「 そうなんだね。 」


「 そうそう…… ふぅ。

それじゃ気をつけて帰れよ? 」


自分ではないと誤魔化して帰ろうとする。


「 私は! あの手紙嫌いじゃなかったよ? 」


「 えっ? 」


急に言われて立ち止まってしまう。


「 凄いバカだけど真っ直ぐな人が書いたのかな?

って直ぐに思っちゃった。 」


萌が言うと朝倉は恥ずかしそうに頭をかいた。


「 …… 今からラーメン食いに行くけど行く? 」


「 行く! 」


恥ずかしそうに誘った朝倉に、喜んで一緒に行く事にした。


「 当然朝倉のおごりでしょ? 」


「 バカ言うなよ、割り勘だ。 」


二人の距離感は前よりもぐっと縮まっていた。

照れながらも誘った朝倉を、やっぱり好きなんだと思う。

まだまだお互い知らない事ばかりでも、ゆっくりと知れば良いこと。


その頃恋する萌の心境を知り、少し寂しそうに遠くを見ている。


「 洋介今度はどうした? 」


仕事場のおじいさんが話をかけてきた。


「 おいっ! バイトが偉そうにタメ口聞くな!

俺は社員なんだから敬語を使え!! 」


社員になったから偉そうにおじいさんに言うと、当然おじいさんのげんこつを貰う。


「 たくっ…… 相変わらずだな。

どんなに階級が変わってもお前は、私の後輩なんだよ。」


痛そうに頭をさすっている。


「 ウチの娘がさ…… 彼氏が出来そう。

どんどん成長して離れてくんだなって思ってさ。 」


分かっていても少し悲しそうにしている。

成長する嬉しさもあるから複雑だ。


「 そう思うようになったのも成長した証さ。

彼氏の顔見てみたいけどな。

どんな男なんだろうな! 」


「 まぁイケメン好きだからイケメンかな?

多分頭の良い育ちの良い人かも。 」


イケメンかは分からないが、それ以外は正反対の男だった。

妄想を膨らませ楽しんでいる。


そこに同僚の一人がやって来た。


「 赤沼さん聞いてくださいよ。

さっき街中で朝倉を見たんですけど、彼女連れて歩いてました。 」


萌と二人で歩いてる所を見たようだ。


「 朝倉ねぇ…… どんな女なんだか。 」


「 それが凄い可愛かったですよ。

楽しそうにどっかに向かってました。 」


萌は可愛く見られていた。

おじさんは鼻で笑う。


「 どうせ頭の悪い柄の悪いやつだよ。

お前の目は絶対悪いからな。 」


朝倉の印象から一緒に居る女の子なんかは、どうせ大した事ないと思った。

まさか自分の家の娘だとは思いもしない。


「 そうすっかね…… 。

俺は凄い可愛いと思ったすけどね。 」


そう言い少しテンションが下がって行ってしまう。


「 朝倉に彼女かぁ…… 意外にお前さんの娘さんだったりしてな。 」


おじいさんが言うとおじさんは大きく笑う。


「 じいさんよしてくてよ。

ウチ娘はイケメン好きだって。

あいつだけは絶対にない。

たまに悪口だって言ってるし! 」


「 そんなもんかね。 」


おじいさんの勘の方が正しかった。


「 こんなつまんない話してないで、ぼちぼち帰りますかね。 」


そう言いながら荷物をまとめる。

夕方の定時にしっかり帰るおじさん。


「 本当に今の生活が好きなんだな。

気をつけて帰れよ。 」


おじさんがスキップしながら帰ると、側に居た同僚がおじいさんの所へ近寄ってくる。


「 赤沼さん…… 変わりましたよね。

社員にいきなりなったし、周りの人と話すようになったし。

一体何があったんですかね? 」


同僚が気になり聞いた。

おじいさんは笑いながら。


「 どうしてだろうな。 」


なんだかおじいさんも嬉しそうだった。


嬉しそうにビールを買って家に帰って来た。


「 ただいまぁーーっ!! 」


部屋は暗くまだ帰って来ていない。


「 何だよ…… 帰って来てないのかよ。

折角買って来たのになぁ。 」


少し寂しそうにビールを冷蔵庫に入れる。

直ぐに服を着替えて一休み。


( ピンポーーンッ!! )


家のチャイムが鳴る。


「 やっと帰って来たか? 」


直ぐに扉を開ける。

そこに居たのは彩芽だった。


「 和牛多く手に入ったのでお裾分けに。 」


そう言い見せて来たのは、霜降りが乗りまくった美味しそうな和牛。


「 さぁお入りなさい。

キミならいつでも大歓迎だよ。 」


食べ物に釣られてよだれが出そうになる。

本当に単純な性格だ。


「 お言葉に甘えて失礼します。 」


( やったぁ! 萌ちゃん居ないから二人きり!

二人を楽しんじゃおっ。 )


彩芽は嬉しそうに入っていく。

バイト代で買ったかいがあったようだ。

二人は仲良く焼き肉をするのだった。

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