第47話 きまぐれ


「 ん…… っん! うわぁっ! ここは? 」


朝倉が目覚めるとそこは保健室。

校門前に来てからの記憶は一切なかった。


( どんだけメンタル弱いんだ…… 俺は。 )


あまりの情けなさに腹が立っていた。


そこに保健の先生がやってきた。


「 あら朝倉くん、もう起きても大丈夫? 」


まだ若々しくも大人の先生。

いつも生徒の相談に乗ったりしている。


「 ったり前だ…… ちょっとふらっとしただけだから何の問題もねぇよ。 」


起き上がろうとすると先生に止められる。


「 ダメよ、今は安静にしなさい。

睡眠不足とちゃんとご飯食べてなかったでしょ? 」


言われてみると原因はその2つと、萌が避けるように行ってしまったせい。


「 朝倉くんはゆっくり休みなさい。

私はちょっと職員室へ行くから。 」


そう言い出て行きました。

仕方なくもう少し横になる。


教室では授業が行われている。


( もう…… 何で倒れるのよ。

まるで私のせいじゃない…… 。

仕方ないじゃない、いきなり現れてびっくりしたんだからさ。 )


「 藤堂さん、ここの答えは分かる?」


「 えっ!? はい! 」


急に先生に問題の答えを当てられてしまう。

慌てて立ち上がるも何処の問題かも分からない。


「 藤堂さん…… ちゃんと授業聞きなさいよね。

座って良いわよ。 」


周りから笑い声が聞こえて来る。

いつもは真面目で勉強熱心なのに、上の空なのが珍しくて笑われてしまう。

顔を赤くして縮こまる。


休み時間になると彩芽がやって来る。

当然授業中の事を笑いに来た。


「 萌ちゃんダメじゃないの。

余計な事ばかり考えては。 」


「 考えてないよ。

全部あのバカのせいなんだから! 」


萌は朝の朝倉の話をした。

恥ずかしいのでおじさんの予想していた、朝倉からの大切な話の事は話さなかった。


「 ふむふむのふむ。

単純に友達としてではなく、男として意識しちゃったって訳ね? 」


簡単に解釈されてしまう。

慌てて否定すると。


「 萌ちゃんはいつも男見る目はないと思ってたんだよね。

吉良君なんか好きになるし。

でも…… 朝倉君は私は嫌いじゃないよ? 」


彩芽はそう言い席に戻って行った。

また授業が始まり授業に集中する。


( 何よ勝手な事ばっか言って。

吉良君の何処がダメなのよ。

見る目ないのは彩芽じゃない!

おじさんみたいな年上好きになって。 )


頭の中で彩芽への不満でいっぱいに。

そして一つ決心した。


( そうよ…… 気持ちを伝えなきゃ。

やっぱりこのままだと前に進めない。

当たって砕けろよ、吉良君に告白する! )


萌は一大決心をした。

もう彼女が居る吉良に想いを伝える事に。

断られると分かっていても、このままモヤモヤしてるのが嫌だった。

何故か自分に正直になりたくなった。


放課後吉良に勇気を振り絞り、近くの噴水公園に呼び出しました。

吉良は快く来てくれる事になった。


( よぉーーしっ! 遂にこの時が…… 。

心臓が爆発しそう…… 。 )


萌は一人ベンチに座り待っていると、吉良がゆっくりやって来る。


「 お待たせ、何だい? 話したい事って。 」


相変わらずのキラースマイルに心臓が高鳴る。

深呼吸して冷静に話せるように整える。


「 吉良君…… 実はね…… 前から私…… 。

吉良君の事が好きでした。

顔は勿論カッコいいけど、誰にでも優しくて笑ってる所とかも大好き。

今彼女さん居るの知ってるけど、どうしても気持ちだけは伝えたくて。 」


勇気を振り絞り伝えられた。

緊張していても目を見て想いを真っ直ぐぶつけた。

吉良は嬉しそうに笑っている。


「 そうだったのか。

それはとても嬉しいな。

藤堂さんみたいな綺麗で知的な人に、好意を持たれていたなんて光栄だなぁ。 」


フラれるのは分かっていてもドキドキしてしまう。


「 藤堂さん…… 僕はキミの気持ちに答える事が出来ないんだ。

ごめんなさい…… 。 」


分かっていてもそのショックは大きかった。


「 そうだよね、分かってる分かってる!

やっぱり彼女さんは綺麗な人だしお似合いだよ。

どうしても気持ち伝えたかったの。

本当にごめんね!! 」


恥ずかしくなり顔を見ずに自己完結して、どうにかここから立ち去ろうとする。

そんな萌に吉良は。


「 藤堂さん…… 僕はキミが思ってるほど良い人何かじゃないんだよ? 」


いきなり吉良は自分の話をしてきた。


「 頭が良いのは家での英才教育。

誰だってお金かけて家庭教師付けたりしたら、これくらい普通だよ。

内申書の為に学校では皆に良い顔して、好感度上げで必死さ。

今の彼女だって親の許嫁みたいなものさ。

だから全然良い人じゃないんだ。 」


吉良は自分の話をあまりしないのに、今日は珍しいくらい話してくれた。

しかも好感度が下がるような本音を沢山。


「 本当に悪い人なら誰かに話したりしないよ?

吉良君は本当に優しい人だよ。 」


萌は笑って言った。

吉良も釣られて笑う。


「 ありがとう…… 僕はね。

誰にでも平等に優しくしている藤堂さんが、いつも遠くから見ていて良いなと思っていたよ。

それはそう簡単に出来る事ではない。

素の自分で居られるのが羨ましくも感じた。

だから凄い嬉しかったんだ。 」


吉良は清々しい顔で想いを伝えてきた。

萌にだけはどうしても言いたかったのだ。

萌もその気持ちだけで嬉しかった。


「 ありがとう…… 。

そう言って貰えて嬉しいなぁ。 」


萌は嬉しそうに笑っていた。


「 一つだけアドバイスしても良いかい? 」


「 えっ? アドバイス?? 」


吉良は立ち上がり。


「 藤堂さんには僕何かよりもっと相応しい人が居るよ。

いつもキミを良く見ていて、いつでも味方でいるような人が。 」


そう言われてもしっくりこない。

誰の事を言ってるのか分からない。


「 正直言うと僕はそいつが好きになれない。

だって僕にない物を沢山そいつが持っているからね。

嫉妬しか感じないのかもね。

とんでもなく不器用だけどね。 」


そう言いながら一枚の手紙を渡す。


「 えっ…… ? これって何? 」


吉良は笑いながら言った。


「 なんだろうね? 偶然拾ったラブレター。

もう少し周りに目を向けた方が良いよ。

意外にも近くに居るかもね。 」


吉良はそう言い帰って行った。

一人残されて手紙を持っていた。


「 ってえっ?? これ私に?

一体誰から? 身近な人?? 」


気になってしまい開けようにも開けられない。

一人ベンチに座り考え込んでいた。


( ありがとう…… 僕の初めて好きになった人。 )


吉良は悲しそうに歩いて行った。

吉良にとっても萌は特別な人だった。


吉良は朝倉の事が嫌いだったのに、どうして手紙を捨てたり皆の前に晒したりしなかったのか?

それは自分のように決められた人生より、自由に好きな人同士幸せになって欲しかった。

朝倉の為なのか? それとも萌の為なのか?

単なるきまぐれなのかもしれない。


「 後は二人の気持ち次第かな。

僕も…… 楽しんで生きてみよ。

決まっていたとしても、存分に楽しもうっと。 」


吉良も吹っ切れたのか、足取りは軽く帰って行った。


萌は一人で手紙を読み始める。


「 …… これって…… 下書き!? 」


何度もシャーペンで書いては消して、色々な表現で想いを書き記してある。

キザな言葉やカッコつけすぎな言葉。

ちょっと情けないように書いてあったりと、見ているだけで笑ってしまう。

それでも自分への一生懸命な想いがそこに詰まっていた。


「 あはははっ、本当こんな沢山書いて。

笑っちゃうな…… 。 」


差出人は書いてなかったけど、萌には誰が書いたのか直ぐに分かった。

嬉しそうにしながら大事に鞄にしまった。

萌はゆっくり帰って行った。


その頃何も知らない朝倉は?

一日中保健室で過ごしていた。

学校もとっくに終わったので帰る事に。


( はぁ…… あの手紙は何処に…… 。

あれだけは見られたくないのに。 )


いつもは態度デカイ男は悲しそうに帰って行くのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る