第46話 焦る男


朝倉は走っていた。


( 何処だ何処だ!

一体俺は何処で落としちまったんだ。 )


朝倉は何処で落としたか分かっていなかった。

学校に戻るなり机の中や周りを探した。

でも見つからない。


( ヤバい…… 全く見つからん。

思い出せ! 何処で落とした? )


考えても出した記憶は…… 。


「 トイレだ!! 」


一度だけ持ち出したのを思い出して、全速力で走っていく。


着いて直ぐに置いた場所を見る。

でもそこには既に手紙はなかった。


「 ヤバい、ヤバい。

あんな恋文が見つかったら俺の立場が…… 。

今まで築き上げてきた番長像が崩れ落ちる。 」


トイレに膝を着いて落胆してしまう。


「 それでさぁ…… うわぁっ! 」


そこに他クラスの男子達が入ってきて、不良の朝倉が膝を着いてる所を見てびっくりしてしまう。

直ぐにその男子達はビビってしまい、トイレを後にした。

不良が堂々とトイレに膝を着けていたら、誰でも逃げてしまう。


朝倉は手紙が何処に行ったのか分からなくなっていた。

諦めて一人近くの噴水公園のベンチに座る。


「 本当に災難だ…… でも字も出来るだけ綺麗に書いたし、見つかっても少しはマシかな。

家に帰って少し気を落ち着けよう。 」


家に帰って机の上に散らばった下書きや、失敗作をゴミ箱に捨てた。

机の下にもまだ落ちている。


「 あれ…… これって…… 完璧な手紙。

なんでここに…… まさか!! 」


直ぐに分かってしまった。

今日急いで封筒に入れたのは、適当色んな言葉を書いてみた下書きだった。

恥ずかしいようなキザな言葉や、情けないような言葉を色々書き記した下書き。

朝倉はその場で倒れてしまった。

そして一粒の涙を流して…… 。


萌は今日の事が家に帰り気になっていた。


「 渡したい物って何よ。

食べ物じゃないって言ってたし、あんな真剣な顔してさ…… 。

しかも最後はあんな動揺しては走り出すし。 」


愚痴をぶつぶつと言いながら料理をしていた。


ガンガンガンッ!

階段を駆け上がる音が聞こえて来る。


「 ただいま…… ん?

今日はカレーかな? 良い匂いだぁ。 」


おじさんが帰って来て早々、カレーの匂いに釣られて象のように鼻が伸びている。

手を洗い萌の隣に来る。


「 カレーは肉多めだろうな?

じゃがいもは大きくしてるよな?

りんごとかは入れるなよ。

俺は大人だから辛めで大人な味付けを…… 。 」


「 あぁーーっ! うるさい!

ちょっと静かにしててよ。

こっちは考え事してるんだから。 」


何やら朝倉の事が気になり、おじさんを無駄に怒ってしまう。

おじさんはしょんぼりして部屋に行ってしまう。


「 何だよ…… こっちはカレーが楽しみで話してるのにさ。

カレーに合う映画でも探すかな。 」


棚に入っているDVDから夜見るのを探している。

子供のようにカレーを楽しみにしていた。


カレーとサラダが来て食べる事に。

おじさんは映画を楽しみながら大きな口で食べている。

萌は気になってしまい食欲がない。


「 はぁ…… 何なんだろうな。 」


ため息をついて悩んでいる。


「 がっはっは、だからダイハードは面白いんだよなぁ。

この主人公の煽りかたがまた絶妙で。 」


テーブルを思い切り叩く。

おじさんはびっくりして縮こまる。


「 ちょっと! 明らかに悩んでるよね?

こっちが悩んでるって言うのに、横でカレーばくばく食べながら映画見て…… 。

相談に乗るとか色々あるでしょ?

子供が悩んでいるのよ!

しかもダイハードって…… 全然カレーに合わないから!! 」


相変わらずの空気の読めなさに、叱られてしって尚且つ映画の選択まで文句言われてしまう。

おじさんはしょんぼりする。


「 何か…… あったの? 」


おじさんは恐る恐る言うと萌は口を開く。


「 朝倉ってクラスの男子がさ、帰ってる途中で偶然? 会ったのよ。

そして何か渡そうてしてきたのに、失くしたのか何だか分かんないけど帰ったの。 」


「 何かうまいもんじゃないのか?? 」


おじさんの発想が自分と似てて恥ずかしくなる。


「 食べ物じゃないんだって!

しかも凄いソワソワしてて。 」


おじさんは何となく分かる。

そして止めていたダイハードをつけながらカレーを食べる。


「 ちょっと聞いてるの? 」


「 何だよ、ただの自慢話じゃないか。

俺は疲れてるんだから料理と映画を楽しませろ! 」


そう言ってカレーを頬ばる。

怒った萌はテレビを止めて、スプーンを取り上げる。


「 真面目に聞いてるのよ?

分かったんだったら教えてよ。 」


おじさんは言いにくそうにしながら。


「 真面目過ぎるから見えてないんだよ。

もっと視野を広げろよっと! 」


そう言いスプーンを取り返してテレビをつける。

萌はその意味が全然分からなかった。

仕方なく考えながらご飯を食べた。


おじさんには分かっていた。

朝倉が萌に好意があるのも。

だけど自分で言うのは違う…… 。

男との友情もあるから絶対に言わない。

そう思っていた。


「 はい、これで話してくれる? 」


テーブルに何かを持ってきた。

それは手作りローストビーフ。

しかも出来立て。


「 朝倉はお前の事好きなんだろ?

頭良いのにそんな事も分からなかったのか? 」


友との友情より食欲を取ってしまう。

ローストビーフを食べながらビールを飲む。


「 朝倉が…… ? そんな事ないわよ。

だって私の事いつもからかってくるし。 」


「 ムシャムシャ…… 好きな人には冷たくしてしまうもんだ。

ビールのおかわり良いかな? 」


萌は全く考えた事がなかった。

朝倉が自分の事好きだなんて…… 。


「 絶対違うと思うけどなぁ…… 。

私の事いつもからかったり、バカにしてくるような奴だし。 」


「 別に良いだろ、好きじゃないなら断れば?

あんな口下手の無愛想は俺も嫌いだね。 」


自分に似ているのにボロクソ言ってしまう。

萌からすると似た者同士にしか見えない。


「 嫌いではないけど…… 私が好きな人ってもっと気品と言うか紳士と言うか。 」


まだ吉良の事を忘れられずにいた。

吉良と朝倉は正反対。


「 本人から聞くまで待ってたら?

考え過ぎるのは悪い癖だぞ。 」


とは言っても萌は気にしてしまう。

朝倉が自分の事を…… 。

その日は寝るのに時間がかかってしまった。


次の日は寝不足で辛い朝に。

萌は気になって仕方がなかった。


その頃朝倉も寝不足になっていた。

手紙が他の誰かの手に渡ってしまい、学校中の笑い者になると思って眠れなかった。

仕方なく学校に歩いて行った。


校門前で萌と朝倉は偶然鉢合わせしてしまう。


「 あっ! 」


二人は思わず声が出てしまった。

萌は恥ずかしそうに早歩きで入っていった。

朝倉は何か話そうとしたけど、そんな暇はなく行ってしまう。


( 勝手に予想しただけで本当は何とも思ってなくて、こっちの早とちりかもしれないし。

何で変に意識してるのよ…… 私は。 )


おじさんから聞かされた予想のせいで、萌は朝倉を意識してしまっていた。

その姿を見て朝倉は鞄を落とす。


「 終わった…… あの手紙読まれたのか…… 。

他の誰が拾ってSNSとかで広めたのかも知れん。 」


朝倉は落胆してしまい、静かに倒れてしまう。

学校へ入る生徒達が倒れている朝倉を見ながら、変な事に巻き込まれないように見なかったように入って行く。


「 朝倉ーーっ! 校門前でなんで倒れてんだ!? 」


体育教師に発見されて起こされる。

朝倉はあまりのショックで一人では立てない。

仕方なくおぶられて保健室へ運ばれてしまった。


その話は学校中の話題に。

朝のホームルームは朝倉は体調不良の為、欠席してしまいました。

朝倉は思っていたよりメンタルが弱かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る