第45話 男とペン


気分転換もしてリフレッシュ出来、勉強も学園生活も前よりも気持ちに余裕が持てるようになっていた。

塾に通うのは続けるけど、友達との時間もちゃんと用意している。


笑って話している萌を見守る男が一人…… 。

それは朝倉の姿だった。


( 俺はずっと前からアイツが気になってた。

その気持ちを隠すのに必死だった。

どうせ上手くいくはずないって思ってたからだ。

吉良に彼女が出来てから見てきたけど、アイツには彼氏も好きな人もまだ居ない。

なら今ならもしかしたら…… 。 )


朝倉は自分の気持ちを伝えようと思い、遠くからいつ伝えようかと考えていた。

朝倉は怖い目付きではあっても、不細工ではないから外見には問題ない。

優しいかと言うとそんなには優しくはないかもしれない。

良いところは強くて一途で根は真面目くらい。


どうしていきなり告白をしようと思ったのか?

それはバイトでの事…… 。

おじさんとおじいさんとの会話を聞いたときの事。


「 どうだ? 娘さんとは上手くやれてるのか? 」


「 まぁな…… 慣れてきたかな。 」


朝倉はその話を少し耳を傾けて聞いていた。


「 お前さんの娘は可愛いんだから、彼氏とか居るんだろ? 」


朝倉はその話を聞き、少し胸が痛くなっていた。


「 彼氏? んーー 居ないかな。

あんまりそう言う話しないしな。 」


朝倉は少しホッとしていた。


( えっ? 何で安心したんだ? )


自分の気持ちに気づいてしまう。


「 可愛いくて頭も良くて性格も良い。

世の中の男がほっとくはずもないだろ。

直ぐに彼氏が出来そうだな。 」


おじいさんは萌を絶賛していた。

おじさんは相変わらず素っ気なくしていたが、内心は少し自分の事のように嬉しかった。


朝倉はゆっくりとそこから離れた。

歩きながら考えていた。


( アイツが彼氏出来ないからって、寄って来る奴なんか沢山居るだろう。

今が居ないってだけでいつ出来てもおかしくない。

もやもやして気分が悪い。 )


今はたまに出掛けたりと友達だと思っているし、思われているだろう。

ただしそれ以上でもそれ以下でもない。

それが今の現状。

このままで良いのであろうか?

朝倉は一人考えてしまう。


( 新しく彼氏が出来たら…… 。

今までみたいにメシとか誘えない。

話すのも気をつかっちまう。

そんなのは嫌だ! )


朝倉は決意した。

萌に想いを伝える事を…… 。


そして現在…… 決意したのは良いけど、今まで一度も告白なんてしたことがない。

まず何をすれば良いのか?

手紙? 直接? それとも誰かに頼む?

考えれば考えるほど悩んでしまう。


その日は何も出来ずに帰宅した。

家で考えるのはどうすれば良いかばかり。

仕方なく手紙を書き始めた。

紙は念のため買ってきた、簡易らしい封筒と便箋びんせん

慣れない書き物に苦戦して、バカっぽく見えないように何度も何度も書き直しては、汚くなったら捨てるを繰り返していた。


「 もうやめた!! 」


集中力が切れて横になる。

自分の気持ちを文字にするなんて初めてで、なんて表現していいか分からなかった。

分からない漢字はいちいち調べたり。

指も精神的にも限界だった。


「 俺…… 今度藤堂さんに告白するかな! 」


クラスの男子の声を思い出した。

このままだといつ誰かに告白されるか分からない。

そしていつかは他の誰かと…… 。


勢い良く起き上がる。


「 もう少し…… 頑張ってみるか。 」


後悔しないためにもまた書き始める。

何度も書き直しても諦めずに。


「 で…… 出来た…… 。

これ以上のもんは絶対に作れねぇ…… 。 」


ゆっくりと倒れてしまう。

机の上には沢山書いた便箋が散らかっている。

出来上がった便箋は、窓が開いていたせいで風に飛ばされて机の下へ。

そして代わりに下書きで書いた、便箋が風によって代わりに机の上に。


次の朝…… 当然寝過ごしていた。


「 やべぇーー 寝坊した。

早く準備しないと遅刻だ。 」


髪は寝癖だらけでパンを咥えて、適当に制服を着て行こうとする。


「 やばやば! 忘れるとこだった。 」


机に置かれた便箋を封筒に入れて鞄へ。

急いでいてそれが下書きだなんて思っていない。

慌てて家を出て行った。


学校には遅刻してしまい、先生には無駄に怒られてしまった。

目にクマが出来てしまい、眠たくて仕方がない。


( まっ…… この完成度は頑張った方か。

いつ渡すかが問題だな…… 。 )


適当に書いた下書きとは知らずに…… 。


一人になったら直ぐに渡そうと思い、萌の事を席から見ていた。


「 萌ちゃん聞いてよ!

昨日ね、海外から取り寄せした化粧水が届いたのよ。

ほら? いつもと全然違くない? 」


彩芽が萌の側でずっと話している。


「 そうかなぁ? 前にも買ってたの結局全然変わらなくなかった? 」


笑って話している。

仲が良いから仕方がない。


次の休み時間。


「 今度ディズニーランド行こうよ。

絶対楽しいからさ! 割引券手に入れたのよ。 」


また彩芽が来ている。

その次の休み時間も…… その次の休み時間も。

朝倉のイライラが止まらなくなっていた。


( あの女…… 人見知りのくせして萌の前ではあんなお喋りで。

あいつ…… あんな喋るんだな。 )


彩芽に少し詳しくなっていた。


「 どうしたんだい?

さっきから藤堂さんの方ばかり見て。 」


吉良が朝倉の所に来て言った。

朝倉はドキッとしてしまう。


「 はっ!? 誰も見てねぇよ。 」


そう言い吉良を突き飛ばして教室を出て行った。

吉良はその後ろ姿を見ていた。


「 はぁ…… あいつってすげぇ勘が良いな。

良く見てるよな。

渡すのを気を付けないと。 」


ポケットには万が一を考えて手紙を入れている。

誰かに鞄を開けられたら恥ずかしい思いをしてしまう。

それだけは避けなければいけない。


「 って言うか告白ってすげぇ大変なんだな。

恋愛映画バカみたいに見てるやつの気持ちが少し分かった気がする。 」


トイレから出て手を洗おうとする。

すると手紙の存在を思い出す。


「 念のため…… 濡れないように高いとこに上げて置こうかな。 」


安全の為に水道の近くの高いとこに置く。

そこへ男二人が入ってきた。


「 朝倉さん、ここに居たんですか?

昨日のK-1見ました? あれ最高でしたよ。 」


朝倉の腰巾着の二人組だった。


「 見てねぇよ。 」


「 ヤバくないっすか!?

熊田伝之助が海外の選手を秒殺したんすよ。 」


その話に目の色を変える朝倉。


「 なんだって!? 伝之助が!?

何をやりやがったんだよ!! 」


「 ここではあれなんで食堂で話しましょう。 」


そう言って食堂へ向かった。

そこで話は盛り上がった。

朝倉は格闘技が大好きだった。


手紙をトイレに置き忘れてるとも知らずに。


その後にまた授業を受ける。

朝倉は萌にいつ渡すかを考えている。


放課後になり渡すタイミングが全くなかった。

仕方なく帰ろうとしていた。


( はぁ…… 意外に一人になることないんだな。 )


諦めていたら萌が一人で帰ろうとしている。


( やったぞ!! 今が絶好のタイミングだ!

先回りしてやる。 )


萌の帰り道を先回りする為に、急いで裏口から出て走っていく。

萌は知らずにゆっくりと歩いていた。


「 おっ…… 偶然だな。 」


先回りして偶然を装い現れる。


「 偶然も何も帰り道だからね。 」


朝倉の心臓は太鼓のようにドントコ高鳴っている。


「 お前…… お前に渡すもんがある。 」


鞄に手を入れる。


「 なになになに? 美味しいお菓子かな?

それとも何かの無料券だったりして! 」


興味津々にウキウキしている。


「 そんなんじゃねぇよ、渡したいのは。

…… あれ? ない…… ない。 」


朝倉は鞄にあると思っていたから、失くなっている事に今気づいた。

朝倉は手紙を失くしていた…… 。


その頃トイレには吉良が入っていた。

高いところ偶然目を向ける。


「 ん? 何だろうこれ? 」


朝倉の手紙を見つけてしまう。

そして中身を見てしまった…… 。

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