第44話 親子のスキンシップ


( 前回までのお話…… 。

気分転換におじさんと出掛ける事に。

初めてのバイクに綺麗な景色。

最高な一日になる…… そう思っていて着いたのは、海とは真逆や薄気味悪い釣り堀。

気分台無しでガッカリして帰る事に。

復習さらい終わり。 )


そんなこんなで一人で帰る事にした。

薄気味悪く人も全然居ない怪しい釣り堀から、いち早く帰ろうと思った。


( もう…… 人嫌いだからってこんな場所。

女性が喜ぶ場所分からなさ過ぎでしょ。

喜んでたのがバカみたいじゃない。 )


期待を大きく裏切ってしまい、萌は珍しく怒ってしまっていた。

プンプンと怒り、早歩きで来た道を戻って行く。

すると古くてボロボロなお店が見えてきた。


( ここね…… この古い釣り堀やっている店は。 )


かなり年期が経っている。

ホラー映画に出てきそうな見た目。

中からおじいさんが出てきた。


「 おやおや? 釣りは楽しんでいますか? 」


「 え…… まぁ。

ちょっと飲み物を買いに行こうかと。 」


ここが嫌で帰ろうとは言えず、咄嗟に嘘をついてしまう。

そしてそのまま傷つけずに帰ろうと思った。


「 それならここに飲み物があるので、持って行って下さい。

コンビニまで結構距離があるので。 」


優しいおじいさんに言われて、仕方なく店内に入ってしまう。

中に入ると見た目は古いけど、しっかり掃除が行き届いていて、店内も綺麗に整頓されていた。


「 オレンジジュースでいいかな? 」


冷たく冷やされていた缶ジュースを貰う。

お礼を言って一口飲んだ。


「 魚の写真とか釣竿とかいっぱい。 」


全く興味ない人でも目を奪われてしまうくらい、店内は釣りの事でいっぱいなお店。


「 そう言って貰えると嬉しいな。

お客さんみたいな若い子が来るのは珍しいよ。 」


そう言ってレジ前に置いてある椅子に座る。


「 ここを始めて長いんですか? 」


「 そうだねぇ…… 私の人生のほとんどがここで過ごしているくらい、古くから働いているよ。 」


おじいさんは嬉しそうに言った。


「 お客さんのお父さん。

凄い良いお父さんですね。 」


「 はっ!? すみません…… 。

全然! 良いお父さんなんかじゃ。 」


そう言うとおじいさんは笑って言った。


「 お客さんのお父さん…… 。

地図を頼りにここまで一人で来てねぇ…… 珍しい人だなって思ったよ。 」


話を聞くと一週間前…… 。

おじさんは一人でここへ来ていた。


「 すみません…… ここで釣りってやってるんですよね? 」


「 いらっしゃい、直ぐにでもやれますよ。 」


そう言うと直ぐに釣りをし始めた。


「 お客さんのお父さんはね、一人で下見に来たらしくて一生懸命釣りをしていたよ。

どうやら釣りは初めてで、娘の前で恥をかきたくないって言っててね、先に来て練習するだって。 」


おじいさんは笑いながら話してくれた。

萌も初耳だった。


「 相当なプライドの塊でね、一人で覚えるんだ!

って教えようとしても、全然聞かずにやっててね。

本当に面白い人だよ。 」


何時間も出来なくて仕方なくおじいさんに聞いて、そこから少しずつ覚えたようだ。

一匹釣れた時はもう夜だった。


「 あんなに釣れて喜ぶのは子供と変わらなかった。

あんな純粋なお父さん珍しいよ。

プライドの塊なのだけ引っ掛かるけどね。 」


( 私は何にも分かっていなかった。

ここに来たのは人混みが嫌で、全然居ない所を探して来た場所だと思ってた。

でも違っていたんだ。

おじさんは本当に喜ばせようと思って、こんな山奥まで来たんだ。 )


自分の気持ちが先行してしまい、怒りをぶつけてしまっていた。

おじいさんの意見を聞いて気づいた。


「 ありがとうございます。

そろそろ戻ります。 」


直ぐにおじさんの元へ向かった。

おじさんは一人孤独に釣りをしていた。


「 おかしいな…… もっと簡単に釣れるはず。

早く釣れないか…… 。 」


帰ったのかもしれないけど、もしかしたら戻って来るかもしれない。

そう思い釣りを続けていた。


「 おじさん…… あの…… 。 」


気まずい様子で恐る恐る戻って来る。

おじさんは顔を見ずに。


「 悪かったな…… 落ち着ける場所とかって思ってな、色々探したんだけどここが良いかな。

なんて思ってさ。

女心とか全然分からなくて…… 。 」


おじさんなりに反省していた。

お互いに気持ちがすれ違い、ケンカのような状態になってしまった。

萌は大きく首を振る。


「 私も悪かったの…… ごめんね。

海も好きだったから勝手に怒っちゃって。

私も釣りやろうかな。 」


萌は釣りエサを付けてもらって釣りをする。

ゆっくりと時間が経っていく。


「 萌、釣れなくてふてくされるなよ?

釣りってのは最初から釣れる奴なんて居ない。

まずは長い時間と根気でだな…… 。 」


偉そうな事を話していると、萌の竿が上下に揺れる。


「 おぉっ!! 凄い、凄い!

何か凄い引っ張られてる気がする。

魚来てるんじゃないの!? 」


興奮しながら必死に竿を引く。

初めてなので上手くいかなくて、魚に弄ばれてしまう。


「 だ…… ダメに決まってる。

こんなに簡単に釣れては困る。

逃げろ! 魚くん!! 」


男のプライドに懸けても負ける訳にはいかない。

逃げられてしまうように神にお祈りをする。

だが願いは虚しくも崩れ落ちていく…… 。


「 やった! 釣れた、釣れた!

結構大きいの釣れたよ? 」


嬉しそうに見せてくる。

おじさんは平常心を保つ為に見てみぬふりをした。


「 凄いねぇ、私が外しましょう。 」


お店のおじいさんが釣れた魚をバケツに入れてくれた。


「 これはヤマメだね。

美味しい魚なんだよ、良かった良かったね。 」


萌は嬉しくて直ぐにスマホで写真を撮っていた。


( 大丈夫…… 大丈夫。

心を落ち着けろ…… ビギナーズなんとかってやつに違いない。

ここで俺が二匹釣れば良いだけだ。

俺は大人…… 全く気にしない。 )


嫉妬の炎がメラメラと燃え上がりながら、落ち着きながら釣りに集中する。


悲しい事に萌の猛攻は止まらず、そこから二匹と三匹と釣れてしまう。

ニジマスやアユと色んな魚が釣れて、本人も大興奮して止まらない。


( 大丈夫…… 大丈夫なんだ。

イワナ…… そうだ! イワナさえ釣れれば。 )


イワナ…… それは山の綺麗な水にしか生息せず、人の気配とかに敏感で捕まえるのが難しい。

釣りをしている人達の中でも、イワナは高難易度の手強い魚なのだ。

しかも味も絶品!


( イワナ…… イワナ。 )


おじさんの頭の中はイワナの事しかなくなっていた。


「 また釣れたよぉーー 。 」


自慢気に見せて来るが鼻で笑う。

何匹釣ろうが関係ない。

イワナを釣った者こそが勝者。

そう思っていたからだ。


「 これは凄いじゃないか。

イワナだよ、釣るのが凄い大変なんだよ? 」


その時釣っていたのはイワナだった。

おじさんは目を丸くしながら見てしまう。


「 そうなんですか? やったね。

イワナとか全然食べた事ない。

もっと釣ってみよっと! 」


そう言ってまた釣りをする。


「 イワナ一匹くらいで…… 。

そんな簡単にいけば。 」


「 また来た来た! 」


そう言って釣り上げたのはまたイワナ。

その後も幸運は落ちる事なくイワナを釣り続けた。

合計4匹も釣って萌のバケツの中は、お魚天国になっていた。


夕方になり周りは暗くなってきた。

おじいさんが専用の炭火で魚を塩焼きにする。

長い串に差して焼かれた魚は、匂いまで絶品の物になっていた。


「 ほらお食べなさい。

熱いから気をつけてね。 」


「 いただきます…… ホクホク!

凄い美味しい、魚美味しい。

炭火で焼くとこんなに美味しいなんて。 」


イワナの味に目も心も奪われてしまう。


「 おじさーーんっ! 沢山あるから食べよう?

イワナもあるんだよ?? 」


離れた場所でまだ釣りをしているおじさんを誘った。


「 もうすぐだ!! 勝手に食べてろ! 」


おじさんは魚を釣るまで続けるようだ。


「 本当にプライドの塊なんだから。

でも…… 来て良かったぁ。

また来たいなぁ…… 。 」


萌は綺麗な夜景を見ながら魚を楽しんでいた。


「 うおっ!! きたぞ!

これはデカいぞ、バケツ…… バケツと網を頼む。」


おじさんの釣り竿に遂に魚がかかる。

おじいさんが直ぐに網で魚を捕まえてバケツに。


「 これは…… ドジョウですね。 」


その時おじさんの釣りは終わりを告げる。

放心状態のおじさんに魚を食べさせて、一日を楽しく締めくくった。

萌には最高で幸せな一日になったのだった。

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