第43話 勉強と息抜き


萌は朝倉の指摘により、勉強もほどほどにしなければいけないと分かった。

周りも気にしていてくれた事に、心配をかけてしまったと反省していた。


「 おじさん…… ちょっといい? 」


家でおじさんにその思いを伝える事にした。


「 私ね…… ちょっと力み過ぎてたと思うのよね。

最近は勉強、勉強って肩に力が入りすぎてたように思ってさ。 」


おじさんは仕事終えてお風呂上がりで、ラフな格好で聞いていた。


「 まっ…… 何でも程々ってとこだな。

分かったんだったら良いんじゃないか? 」


意外にも素っ気ないと言うか、もう少し大人ぽく何か言って欲しかった。

でも考えてみたら口が上手い訳でもなく、一人でずっと生きていた男には、期待以上の事を思うのは無理だと思った。


「 そうだね…… そうします。

色々迷惑かけちゃってごめんね。 」


そう言い部屋に行って勉強をしようとする。

するとゆっくり部屋に来ました。


「 あの…… ちょっと良いか? 」


恥ずかしそうに頭をかきながら言った。


「 なに? 」


「 んーー …… あの…… あれだ。

休みの日にちょっと…… 。 」


もごもごして言いにくそうにしている。


「 休みの日がどうかしたの? 」


「 ちょっと空けとけ。

俺が本当の気晴らしの仕方教えてやるから。 」


そう言って居間に戻る。

思いを伝えるのが下手だけど、心配していた事が直ぐに分かった。

萌は嬉しくて笑ってしまう。

そして気持ちを切り替えて勉強をするのでした。


そこから数日が過ぎて日曜日。

朝御飯を食べてから出掛ける準備をしました。

夏は暑いので出来るだけ薄着で、肌には日焼け止めを塗って準備万端。


それとは対象的におじさんはいつも通りの私服に、コーヒーを飲んでまったりしている。

きっちりしている人と、だらしない人の準備はかかる時間も全然違う。


「 そろそろ行くか。 」


そう言って外に出て階段を降りていく。

徒歩で行くのかと思ったら、カッコいいバイクが停めてあった。

全く興味のない萌でも分かるくらい、高そうなバイクで輝いていた。


「 えっ?? 何よこれ? 」


「 …… 借りた。 」


こんな高そうなのを借りたと簡単に言ってしまう。

おじさんには古くからの友達が沢山居るから、その誰かに借りたようだ。

相変わらず口下手なのに、何故か信頼されている。


「 そうなんだ…… でも私…… 。

バイクなんて乗った事ないよ? 」


風を直接浴びながら走るバイクに、少しだけ怖さを感じていた。


「 安心しとけ、俺は少し上手い方だ。 」


そんな雑な説得で乗る事に。

当然怖さは消えていない。

後ろに乗ると地面から足が離れて、まるで浮いている。

その初めての違和感に恐怖が増してしまう。


「 ダメダメ…… 私怖いよ。 」


少し怖くなり止めたくなる。

おじさんはヘルメットを渡してくる。


「 大丈夫、しっかり掴まってろ? 」


「 ちょっとちょっと! そんな説明で。 」


納得する前に走り出しました。

その浮遊感に心臓が速くなる。


バイクで道路に出て車と同じスピードで走っている。

萌はジェットコースターもまともに乗れないくらい怖がりだったので、当然バイクの後ろに乗るのも怖かった。


「 怖い怖い怖い怖い! 」


念仏のように唱えながら目をつぶっていた。

飛ばされないようにおじさんに強くしがみつく。


「 大丈夫だ…… ゆっくり目を開けてみろ? 」


その言葉を信じてゆっくり開けてみる。

すると歩いているときとは違い、同じ景色でも風を浴びながら見る景色は全く違っていた。

夏なのに風に当たるお陰で涼しくて、車に乗ってる時には味わえない感覚だった。

萌はその感覚に感動していた。


「 凄い…… 気持ちいい。 」


お母さんと二人暮らしの時は、バイクなんかとは無縁だったので乗った気持ちが分からなかった。

後ろに初めて乗った感想は、爽快でストレスが一気に吹き飛ぶくらいだった。


「 どうだ? 最高だろ? 」


そう言って更にスピードを上げる。

スピードが上がる度に風の強さも変わる。

まるで鳥のような気持ちで風を切り裂いて走る。

これがバイクの良さなのが分かった。


「 わぁぁぁああああーーーーっ! 」


あまりにも気持ち良くて遠くへ向かって叫ぶ。

人は普段叫ぶ場所はないので、カラオケとかで発散するのがほとんど。

誰も居ない所で叫ぶのはかなりのストレス発散になっていた。


おじさんは嬉しそうに笑っていた。

あんな真面目で堅い萌が、こんなに喜んで叫ぶとは思わなかった。


走っていると海が見えてくる。

バイクの走るスピードで海の見えかたも変わってくる。


「 おじさーーんっ! 凄い綺麗。 」


「 だろ? 最高だな。 」


海の匂いが漂ってくる。

その爽快感は家では味わえない。

勉強ばかりでとじ込もっていたので、外の世界にただ感動するばかりでした。


( おじさん…… ありがとう。

わざわざバイクまで準備してくれて。

私の知らない世界を沢山見せてくれる。

本当にありがとう。 )


萌は嬉しくておじさんを強く抱き締める。

恥ずかしくていつもは絶対に出来ない。

でも今だけは堂々と出来る。

それがバイクの良いとこの一つか?


感動していると海を通りすぎていく。

目的地は海だと思ったら違っていた。


「 おじさん?? 海通りすぎちゃったよ? 」


「 海? 全く行く気ないわ。

あんな混んだ場所行くわけないだろうが。 」


それを聞いて納得した。

おじさんみたいな人混みが嫌いな人が、こんな夏の定番な場所に来るはずがなかった。

期待は外れて、海から遠く離れて行くのでした。


また少し進んで行くと山に入って行く。

進んで行くとどんどん深くまで進む。

段々と期待から不安に変わっていく。


「 おじさん…… 何処まで行くのかな? 」


「 そろそろ着くぞ。 」


山の奥にあったのは小さなコテージのお店。

大きな看板には釣り堀太田と書いてある。


「 へっ? 釣り堀…… 。 」


「 そうだ、夏と言ったら釣り堀だろう。

さぁ行くぞ。 」


入って行くと大きな池に魚が沢山居る。

池の周りには釣りが出来るように、椅子が備え付けられている。


「 もしかして…… 釣りするつもり? 」


「 ん? それ意外あるか? 」


萌は愕然としてしまう。

最高のツーリングで向かうのは、もう少し楽しい場所だと思っていたからがっかりしてしまう。

ため息をつきながらベンチに座る。

そこにおじさんが釣竿と餌を持ってきた。


「 今日は誰も居ないから貸し切りだぞ?

何て良い日なんだろうか。 」


おじさんはニコニコしながら釣りの準備をする。

二人は椅子に座り釣りを始める。

のどかな昼下がり。

街中と違い自然に囲まれているので、自然のお陰でかなり涼しくなっている。


「 どうだ…… ? 最高だろ?

これで勉強でのストレスなんか。 」


「 ふざけるな…… 。 」


おじさんはへらへらしていると、話を遮られてしまう。


「 今なんて言った? 」


萌は下を見ていて一気に顔を上げて立ち上がる。


「 ふざけんなっ!! 何よここは?

釣り堀って夏来る場所なの?

普通海でしょ、海っ!! 」


激しく怒りをぶつけてくる。

急に怒るので腰を抜かしてしりもちをつく。


「 だだ…… だって海は混んでるし。

海にはクラゲだっているし。 」


「 私は海に行きたいのよ。

海、海、海!! クラゲ? 別に気にする事なんてないのよ。

海の家のご飯食べたいのよ。 」


怒って釣り堀から何処かへ行ってしまう。

わがままな行動でしたが、おじさんも自分優先で来てしまったから怒るのも分かる。

おじさんは残されてしまい、一人悲しく地面に尻を着けていた。


「 何だ…… 釣り嫌いなのか…… 。 」


おじさんの釣竿に魚がかかってしなっていた。

そして一人悲しく取り残されてしまうのでした。

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