第42話 彼氏


日々勉強に明け暮れて、青春を謳歌するなんて二の次になっていた。

友達と遊んだり趣味に励んだり、普通は自由の時間を楽しむ。

だけど萌は違った。

二年生になり受験まで一年しかない。

だから時間を出来るだけ勉強に使っていた。


「 ねぇねぇ聞いた? 隣のクラスの山口さん。

彼氏出来たらしいよ? 」


「 えっ!? あの山口さんが?

どんな彼氏なのよ! 」


休み時間に勉強していると周りからは、彼氏の話が飛び交っている。

それも学校生活の楽しみでもある。


( はぁ…… またその話かぁ。

私とは無縁だな…… それどころじゃないし。

さぁ勉強、勉強っと! )


頑張り屋なのは良いですが、少し力が入りすぎていた。

そこに番長朝倉がやって来た。


「 おいっ…… 放課後空けとけ…… それだけ。 」


「 はっ? 」


返答する前に行ってしまった。

萌には全く意味が分からなかった。

周りからの声が聞こえてくる。


「 朝倉君がなんで藤堂さんと?

もしかしてデートかしら? 」


「 そうなの?? 二人共性格正反対じゃない?

ないわよ。 」


ひそひそとみんなが話している。


( 何よ…… 私だって良く分かんないし。

こっちだって迷惑してんのよ。

塾はないから家で勉強しないといけないし。 )


萌は周りから色々言われてるのにイライラしていた。

そこへ面白がって彩芽がやって来た。


「 ちょっとちょっと。

一体どう言う状態なのよ。

私聞いてないからね?? 」


「 彩芽まで勘違いしないでよ。

私はそんなんじゃないから。 」


朝倉の謎の行動にみんな振り回されて、萌は迷惑そうにしてしまう。


「 なぁーー んだ…… ちょっと残念。

態度とか怖いとこもあるけど、顔は結構カッコいいよね。

背も高くて理想的。

意外にお似合いだったりして。 」


そう言い笑っている。

萌は直ぐに言い返す。


「 ちょっとバカ言わないでよ!

私が朝倉と? …… ないない。

絶対にないからね! 」


必死に言い返す萌の顔を見て、笑いながら席に戻って行く。


「 何よ…… もう。 」


変な事を言われたせいなのか、朝倉を少し意識してしまう。


( 言われて見ると…… イケメンかなぁ?

前にスイーツ食べに行った時も、周りからちやほやされていたような…… 。 )


授業中に居眠りしている朝倉を、遠くから見ていた。


( 吉良君とは正反対…… 。

口は悪いしケンカするし。

態度もデカい…… でも何だかんだ優しいんだよなぁ。

ってちょっと! 何を想像してんのよ。

変な事をみんなが言うからよ。 )


急に意識してしまう。


放課後になり帰る事に。

そして嫌な朝倉との約束の時間。


( ってちょっと待てよ?

わざわざ約束守る必要もないじゃない。

だって一方的にされたんだし。

こっちは行くなんて言ってないし。

そうよ…… そうなのよ。

こっそり帰っちゃお。 )


こっそりと鞄を持って裏から出て、下駄箱で靴を履き替えて裏口から出ていってしまう。

この作戦なら無理なく問題を回避出来る。

そう思った。


「 遅かったな、じゃあ行くか。 」


裏口から出た場所には朝倉が立っていた。


「 えーーっ!? どうしてあんたが?

てか速すぎでしょ??

こっちはどんだけ急いだか。 」


「 んな事はどうでも良い。

じゃあ行くぞ。 」


そう言って手を掴まれて連れて行かれる。


「 何で行くなんて言ってないのに。

ちょっと放してよ。 」


抵抗も虚しく行くことに。

電車で移動して何処かへ向かう。

目的地の事を聞いても全然答えてくれない。

仕方なく黙って言う事を聞こうと思った。


隣街に着いてから少し歩く。

ここは街が少なく自然が多い。


「 まだ着かないの? 」


「 あと少しだ。 」


そう言い歩くこと数十分。

着いた場所はガラス博物館だった。


「 森の中にこんなとこがあるなんて。

凄い綺麗…… 。 」


そこの博物館は見た目にも気遣い、とても綺麗な建物になっていた。


「 さぁ入るぞ。 」


そう言い二人は中へ。

中へ入ると中はほとんどガラスで出来ている。

明かりもシャンデリアにより凄い綺麗。

窓も職人によりとても綺麗で繊細な作業で、光の反射により一層輝いて見えた。


「 凄い綺麗…… 。 」


萌は驚くばかり。

初めて来たので周りを見ては、衝撃の連続で凄いとしか言えなくなる。


それに比べて朝倉はどんどん先へ行ってしまう。


「 ちょっとちょっと!

あんたさっきからちゃんと見てんの?

そんな直ぐに行かれたら見れないんだけど! 」


あまりにも早く行く事に指摘すると、朝倉の足は止まった。


「 そう? 普通だと思うけど。 」


萌と比べて全く驚いていない。

それどころか楽しんでいるかも分からない。

その態度にイライラしつつも、様々なガラス細工の作品に目を奪われてしまっていた。


「 どうだ? 少しは気分転換になってるか? 」


朝倉にそう言われるとびっくりしてしまう。


「 えっ? 何でそんな事を? 」


「 別に…… 勉強ばっかしてっから、たまにはこんなとこも良いんじゃねぇかなってな。

俺はたまにストレス発散がてら来るから、気に入るかなと思って。 」


朝倉はいつも遠くから心配していたのだ。

恥ずかしくて目を見て言えず、背中を向けて話していた。

萌は恥ずかしくなり顔を赤くする。


「 えぇっ!? 誰が気にしてくれなんて頼…… でも…… ありがとう。 」


「 おう…… 。 」


そう言うとゆっくりと進んで行く。

萌は嬉しそうにしながら、後ろをついて行った。

朝倉の顔を見なくても分かっていた。

恥ずかしがっている事が。

そんなとこが少し可愛いと思った。


ある程度堪能して外にあるベンチに座る。


「 本当楽しかったぁ。

勉強ばかりで全然だったから、凄い気分転換になったよ。

本当にありがとうね。 」


朝倉は照れくさそうにする。

近くに屋台のソフトクリーム屋さんを見つける。


「 ちょっと待ってて。

ソフトクリーム買ってくるから! 」


そう言って萌はソフトクリームを買いに行く。

朝倉はその頼んでいる姿を見ている。


( 連れて来て良かった…… 。

色々考えてストレス溜まってたからな。

久しぶりに笑ってるとこ見れた。 )


朝倉はずっと気にしていた。

色々世話になった事もあり、少し気になる存在になっていた。


「 はい、チョコソフトクリーム。 」


「 はっ? お前…… ここはバニラだろ?

普通こんな景色良い場所でチョコって…… 。

ちょっとセンス悪過ぎるわ。 」


その無神経な言葉を聞き、萌は腹を立てる。

直ぐに言い返そうとする。


「 ちょっと、ちょっと!

萌ちゃんに謝れーーっ!! 」


いきなり木陰から現れたのは、こっそりついてきた彩芽だった。

気になってついてきたのだ。


「 彩芽!? どうしてここに? 」


つい勢いで出て来てしまって、慌てている。

あまりに無神経でムードが台無しだと思い、突っ込まずにはいられなかったのだ。


「 あのあの…… それがですね。

そのぉ…… そうだ! 偶然通り掛かったのよ。

私もソフトクリーム食べようっと。 」


下手な嘘をつきつつ何気ないようにソフトクリームを頼みに行く。


「 ちょっと彩芽ぇーーっ!

絶対つけて来たんでしょ?

ちょっと白状しなさいよ!! 」


彩芽の所へ尽かさず問い詰めに行く。

彩芽は必死に知らないフリをする。

萌の激しい追求に負けそうになっていた。


「 なんだつけて来たのか…… 。

ってか…… あいつあんな喋るやつだったのか。 」


学校では無口でほとんど萌としか話さないので、大きな声を出しているのも初めて見ていた。

デート? は台無しになったが、三人はその後の時間も楽しく過ごしたのだった。

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