第41話 時は流れて


冬の寒い時から半年の時が経ちました。

夏に入り暑い日がやってきていた。


「 おじさん行ってくるね。

仕事行くときは鍵閉めてね? 」


また少し大人っぽくなった萌は、学校へ歩いて行きました。

おじさんは相変わらずで、萌に身の回りの事をやってもらってやっと生活出来ている。

仕事は真面目にしていて、仕事場でのリーダーを任されていた。


「 にしてもお前さんがこんなに続くとはな。

私もびっくりしているよ。 」


仕事場での先輩のお爺さんが嬉しそうに話す。

息子のように可愛がってたので、本当に嬉しかった。


「 まぁな、成り行きとは言ってもこんなに長続きするとは思わなかった。 」


おじさんは萌の為に本当に大人になっていた。

責任や面倒事から逃げ続けてたのに、娘が出来るだけで生き甲斐を見つけられた気がした。


「 洋介は良い父親になった。

全ては萌ちゃんのお陰だ、嬉しいもんだわ。 」


お爺さんが笑っていると、おじさんは悩んでいた。


( 俺はあいつと居て変わった…… 。

でも直ぐに大学に行ったりして、俺の側から出ていってしまう。

ずっと一緒に居たくても、必ず別れが来る。

俺はそれが怖い…… 。 )


おじさんは別れを想像してしまい、毎日少し不安になっていた。

大切になったからこその不安。


萌は二年生になり大学に向けて勉強三昧。

学校でやり塾にも通い、一生懸命学業に励んでいた。


「 萌ちゃん今日どっか行かない? 」


彩芽が誘うと直ぐに謝ってしまう。


「 ごめんね、ちょっと勉強あって。

また今度行こうね。 」


そう言って帰って行きました。

近頃忙しくてまともに遊んでいなかった。

向上心は良いことでも、周りが少し見えなくなっていた。

夢の為に前に進んでいるのでした。


朝倉はバイトをしつついつも通り。

吉良は相変わらずモテモテで、彼女とは上手くいっているようだ。

高校卒業してから少ししたら籍を入れる噂まで流れている。

でも少し悲しげな顔をする事が多くなっていた。


塾で勉強を終えて帰宅する。

最近は遅くまで塾で勉強しているから、帰るのも自然と遅くになってしまう。


「 ただいまーーっ、今から作るね。 」


大忙しでも家事は手を抜かずに頑張っている。

塾のお金はおじさんが出しているので、その分も料理とかで感謝を伝えている。


「 おう。 」


( 最近おじさんの反応が悪い。

素っ気ないと言うか…… 。

別にケンカしたって訳でもない。 )


萌はおじさんの反応がおかしいことが気になっていた。

ご飯を作り二人で食べる。


「 おじさん…… やっぱり塾やめようか?

色々迷惑かけちゃってるし…… 。 」


萌はおじさんに気を遣いやめようとする。

おじさんは箸を止めて言いました。


「 萌は黙って勉強してろ。

俺が払いたくて払ってんだからさ。 」


そう言うとまたご飯を食べ始める。

萌は自分なりに考えたけど余計な事だった。


おじさんは萌の為に頑張って働くのが生き甲斐になっていた。

だから全く苦になっていない。

だけどおじさんはいつか来る別れを考えて、近づくと自分が後から傷つくと思って少しだけ距離を置いていた。

一人は慣れていたのに、今は少し怖かった。


次の日になり休みだからゆっくり散歩に出掛けるおじさん。

萌が勉強していのを邪魔してはいけないと思い、一人暑い夏の道を歩いていた。


近くのベンチに座り、外で汗をかきながら野球をする少年達を見ながら、缶ビールを飲んでいる。


「 洋介さん? こんな所でどうしました? 」


彩芽が偶然通り掛かっておじさんを見つける。

彩芽とは良く家に来ていたので、結構話す仲になっていた。


「 …… 別に、ちょっと暇だったから散歩してただけだ。 」


そう言ってビールを飲む。

彩芽には直ぐに分かった。

萌を気にして外に出ている事が、手に取るように分かってしまい、クスクスと笑みが溢れる。


「 そうなんですね…… クスクス。

私は暑い中買い物してきたので、ゆっくり帰ろうかと思ってます。

少し隣で休もうかなぁ。 」


そう言い隣に座る。

そして買ってきたアイスを食べる。

セミの鳴く声の中、二人は目の前の野球少年を見ながらのんびりする。


「 洋介さん萌とケンカでもしました? 」


いきなり聞くとおじさんはビールを吹き出す。


「 ぶーーっ!! ゲホッ! ゲホッ!

ケンカなんてしてない。

いきなりなんでだよ?? 」


「 なんとなく…… そんな顔してたので。 」


彩芽はおじさんとの付き合いが長くなり、顔色だけである程度分かるようになっていた。


「 俺は…… あいつと近づき過ぎると、別れが辛くなるから…… 距離を取ろうかと思って。 」


悩みを誰かに話したくて仕方がなかった。


「 それは洋介さんの考え過ぎですよ。 」


「 えっ!? どうして? 」


彩芽はアイスを食べ終えて、ゴミをゴミ箱に捨てました。


「 萌ちゃんは洋介さんの事、本当の父親同然に思ってると思うよ?

いつも愚痴とか話してるけど、毎日笑うようになったんだよ。

全部洋介さんのお陰。

だから何処にも行かないと思いますよ? 」


それを聞き、おじさんは色々考えてしまう。


「 まぁ私がどうこう言う事じゃないとは思いますけどね。 」


彩芽は話すだけ話して帰って行った。

おじさんは座って考えていた。


「 父親かぁ…… でも無理して居られてもね。

俺はなんて話したら良いんだか。 」


父親になってから悩みは尽きなかった。

空のビール缶を片手にたそがれている。


萌は一人で勉強し過ぎ疲れて、外へ気晴らしに出掛けに行った。

スーパーに行ったりと気分転換。

その後に一人街の中でタメ息をつく。


「 タメ息つくと老けるらしいぞ。 」


それを見ていた朝倉に声をかけられる。


「 良いのよ別に。

色々苦労してんのよ。 」


外で会ったので近くで座って話す事に。


「 最近…… おじさんとの間に壁を感じるのよね。

何か遠慮してるって言うか…… 距離を感じる。

もしかしたら色々重荷になってるのかな。

って色々考えちゃうんだぁ…… 。 」


萌にとっては重い悩みだった。

朝倉に話して少しアドバイスして欲しかった。

朝倉はそれを聞いて笑う。


「 何笑ってんのよ!

こっちは真面目に相談してんのよ? 」


「 頭良い癖してそんな簡単な事も分かんないから、ちょっと面白くてな。 」


その意味が分からなかった。

キョトンとしていると朝倉は。


「 お前のおじさんは、お前の事嫌う訳ないから。

いつもお前の自慢だ。

本人はしてるつもりないだろうけど。

でも聞いてると誰にでも分かる。

お前は幸せもんだな。 」


おじさんは外でそんな話してるとは思わなかった。


「 うるさいなぁ…… 。 」


恥ずかしそうに言いました。

でも嬉しかった。

ちょっと話して帰る事に。


萌は歩きながら考えた。

壁や距離があるなら自分で壊せば良い。

何か理由があるのかも知れない。

なら話したくなるまで待つのも良いかな?

そう思うようにしました。


家に着くと焼き肉用の鉄板が用意されていた。


「 …… お帰り、うまそうな肉沢山買ってきたから沢山食べよう…… 。 」


萌は笑った。


「 こんな暑いのに焼き肉??

本当なんも分かってないんだから! 」


夏の暑い日に焼き肉…… 。

うんざりしつつも歩み寄る気持ちが嬉しかった。

文句は言いつつも笑って焼き肉を楽しんだ。


おじさんの中でも何かが吹っ切れていた。


( もう少ししたら出ていくかも知れない。

だけどあと少しだけ楽しませて貰おう。

それが俺のやった交換条件なのだから。 )


おじさんは頭でそう思うのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る