第40話 プライド


吉良は彼女と手を繋ぎ歩いていた。

瀬川瑠菜は社長の娘で、自分の未来には必要不可欠な人。


「 吉良様は本当に紳士ですわ。

私のお父様も会いたいとうるさくて。 」


「 それはそれは、何とも光栄な事で。

俺みたいので良ければいつでも。 」


( とても綺麗な人だ…… 。

俺をとても好きでいてくれる。

話していても楽しい。

何とも幸せな事だ…… 。 )


お茶を飲みながら楽しんでいた。

でも心の中で少し物足りなさを感じていた。

さりげなく外を見てみる。


「 うぇーーんっ…… ママぁ!! 」


泣いている男の子がいた。

まだ幼稚園くらいの小さな子供。

道の途中ではぐれてしまったのだろうか?


「 あれ…… 迷子なのかな? 」


吉良は瑠菜に聞くと、言わた方を見てみる。


「 あら…… 大変ね。

直ぐに周りの大人が助けてくれるわ。

早く見つかると良いですわね。 」


吉良は言葉を失ってしまう。

自分は困ってたり泣いている子を見たら、基本助けてしまう。

それが当たり前だと思っていた。


瑠菜は優しいとは思う。

でも自分は自分、他人は他人と割りきっているように感じた。

吉良が困っていたら直ぐに助けるだろうが、興味ない人は全く見向きもしないのだろう。


「 そうだね…… 。

あんな場所で泣いてたら直ぐに見つかるね。 」


吉良は感情を圧し殺して言った。

無理矢理自分にも言い聞かせるように。


「 そうですわね、本当に吉良様はお優しいのですね。

私はますます好きになってしまいます。 」


瑠菜は嬉しそうに言いました。

吉良は作り笑いをしました。


「 大丈夫ーーっ?? お母さんとはぐれちゃったのかな? 」


その声が聞こえると吉良は外を見た。

そこには萌が立っていた。


「 じゃあ一緒に探そうか!

泣かないんだよ、あっちに居るかな? 」


手を繋ぎながら一緒に母親を探している。

吉良は黙って見つめていた。


「 良かったですわね、一緒に探してくれる人が見つかって。

やっぱり誰かしら直ぐに助けてくれるものですね。」


瑠菜は言った通りになって嬉しそうにしている


「 そうだね…… 良かったね。 」


吉良は分かってしまった。

萌に惹かれてしまう理由が。

それは誰にでも平等に優しく、いつも表裏関係ない彼女に惹かれてしまっていたのだ。


( そうか…… そうだったのか。

そんな簡単な理由だったのか。 )


あまりにも簡単な事に気づかない自分を、笑ってしまいました。


「 どうしました? 何か面白い事でも? 」


「 いや、別にありませんよ。

ただ自分に正直な人が羨ましいなと思って。 」


吉良が言うと瑠菜は意味が分からず頭を斜めにしてしまう。

吉良はそれで良かった。

分かって貰おとは思っていなかった。


萌は子供を親の所まで連れて行き、急いで買い物をして家に向かいました。


「 ただいまぁ、今日の夜ご飯は…… 。 」


萌は自分の目を疑いました。

目を擦り、また見てみる。

そこにはおじさんと彩芽が眠っている。

おじさんは布団で、彩芽はテーブルに顔をつけて。


「 えっ、えっ!? これはどういう状況? 」


萌が取り乱していると、ゆっくりと彩芽が目を覚ます。


「 ん…… むむむっ!! 寝ちゃった!

ヤバい! もう夜じゃない。

早く帰らなくちゃ、萌ちゃんバイバイ。

洋介さんに宜しくね。 」


慌てて出ていきました。

萌は状況を掴めずに立っている。


「 洋介さんって…… 下の名前呼びに!?

いつの間にそんな事に!

まっそんな事ある訳ないけどね。 」


おじさんが未成年に手を出すはずもなく、彩芽も奥手だから絶対にない。

そう思いました。


「 おじさん起きてよ! もうご飯だよ。 」


揺すっても起きない。

まだ体が完全回復してないようでした。


「 全く…… 仕方ない。

ご飯でも作ろうっと。 」


静かな内にご飯の準備。

おじさんの大好きな焼き肉に。

おじさんは少し口うるさくて、焼き肉はやっぱり高い鉄板ではなくてわ!

そう言って高い鉄板を取り寄せしていた。

コンロも火力が強い物を準備。


「 本当男の人って形から入るんだから。

にしても…… おじさんって無駄遣い少なくなってる気がする。

どうしてなのかしら? 」


その理由は簡単。

萌と居れば毎日が楽しくて、外に遊びにとか飲みに行かずに済んでいる。

相当節約になっていた。


「 焼き肉のタレも準備したし、後は火をつけて待ってようか。 」


ジューーーーーーッ!!

鉄板の焼ける音が聞こえてくる。

鉄の焼ける音は何故か良い音に聞こえる。


「 むにゃむにゃ…… 焼き肉!? 」


凄い勢いで飛び起きる。

まだ焼いてもいないのに気づいて起きた。


「 今日は焼き肉だよ。

良いお肉沢山買ってきたよ。

しかも…… おじさんの大好きな鉄板くん21号で焼くから美味しいよ。 」


ヨダレを垂らしながら興奮している。

子供と変わらない表情に笑ってしまう。


「 鉄板くんが居れば最高だ。

ビールだ! ビールを出してくれぇい!! 」


「 だーーめっ!! 先生に言われてるでしょ?

お酒はお控え下さいって。

だから今日はダメだからね? 」


そう言われてかなり落ち込んでしまう。


「 何だよ何だよ…… 折角の焼き肉なのに。

良いじゃんよ…… ごちょごちょごちょ。 」


文句を言ってる内にお肉が焼けている。


「 バカ野郎! こんな焼く必要あるか。

良い肉は片面焼いて裏は軽く火を通してだな。 」


相変わらずイチイチ口うるさくうんちくを言っては、萌を困らせている。


「 良いのよ、焼いたら一緒なんだから。 」


「 料理と焼き肉は違うんだぞ?

これは芸術でありアートなんだからな?

焼き肉なんて焼くだけと思ったら……。 」


おじさんは前よりも沢山話すようになった。

自分の思った事を直ぐに言うようになっていた。

それは良いこともあれば、今日みたいに悪いこともある。


「 はいはいはい…… いただきまぁす。

パクリっ! …… うん、すっごく美味しい。 」


おじさんの話をスルーしつつ食べてしまう。


「 あぁーーっ! 俺より先に!

一家の大黒柱だぞ? 俺が先に決まってるだろ。 」


負けずに直ぐに焼き肉を頬張る。


「 んんーーっ、うぉいしいっ。

これこそ王様のご飯。 」


相変わらず大げさに話している。


「 王様は焼き肉なんて食べません!

もっとお上品なの食べてますよ。 」


二人は楽しそうに焼き肉を楽しんだ。

萌にとっておじさん無しの生活は考えられないくらい、大切な存在になっていた。

楽しそうな声は外まで聞こえるのでした。

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