第37話 小さな一歩
おじさんが目を覚ますと病室でした。
近くを見ると萌が眠っている。
( 二人で無事にここに居るって事は、上手くいったって所だな。 )
仲間達の協力もあり、無事に問題にならずに済んでいた。
「 ちわっす! 赤沼さんもう起きてましたか? 」
子分の神宮寺竜が見舞いに来た。
「 竜…… 色々世話かけたな。
汚い仕事押し付けちまって…… 。 」
申し訳なさそうに言うと、神宮寺は大きく首を横に振りました。
「 全然構いませんよ。
赤沼さんの為ならなんでも!
それに…… 普通に暮らしてる赤沼さんが、こっちに戻って来ちゃダメっすよ。 」
神宮寺達は走り屋として仲間達で楽しくやっていて、危ない事や悪い奴らには拳を使っていた。
基本的には悪い事をしない集団でした。
「 そうだな…… 本当に助かった。 」
深く頭を下げた。
神宮寺は笑って全然気にしていなかった。
「 良い父親してて下さい。
それが俺との約束っすよ。 」
神宮寺は本当に良い仲間だった。
おじさんも少し安心していた。
「 あの半グレ集団は証拠もあったし、警察に捕まったからお仕舞いっすね。
ただひとつ…… 気になることが。 」
神宮寺が表情を曇らせる。
「 一人だけあの場所から逃げた奴が居まして。
あいつらを上手く操ってたバック。
暴力団の野郎です…… 。 」
オールバックのスーツを着ていた暴力団の男。
一番の悪だけは逃げ切ってしまっていた。
「 半グレ達もあいつの事は絶対言わないだろうし。
ちょっと気になるんで警戒だけはしときます。 」
一人だけ逃げ切った男の事だけ気になってしまう。
ただ子分達を失った今。
わざわざ仕返しに来るにはリスクが高すぎる。
多分遠くに逃げた可能性が高かった。
「 助かる…… 。 」
おじさんは神宮寺にお礼を言った。
神宮寺は嬉しそうにして、ゆっくりと病室から出ていこうとする。
「 赤沼さん…… 俺…… 最初は抜けて一般人になったあなたをバカにしてました。
でも…… 今はすげぇカッコいいっす。
俺も赤沼さんみたいになりたいっす。
それじゃ!! 」
神宮寺は帰って行った。
おじさんは照れくさそうにしていた。
「 お前は恥ずかしい事を堂々と言いやがって。
でもありがとう…… 。 」
おじさんは何となくなった父親代理。
今では一緒に居るのが楽しくて仕方がない。
血が繋がっていないのに、こんなに愛おしいと思うとは思わなかった。
寝ている萌の頭をゆっくり触る。
「 んん…… ん? 」
触られたのでゆっくり目を覚ましてしまう。
慌てて手を退けてしまう。
「 おじさん…… ? おじさん!! 」
ずっと心配していたのか、思いきり強く抱きしめました。
「 勝手な事ばかりしてごめんなさい…… 。
危ない目に合わせちゃって。 」
泣きながら謝りました。
おじさん頭をゆっくりと撫でる。
「 子供は迷惑かけてこそだ。
黙ってそこは甘えておけ。 」
( 私はお父さんを知らない…… 。
生まれて来たときからママと二人きりで生きてきた。
でも今なら分かる…… 。
お父さんってこんな感じで、優しくてたくましい人なんだろうな? そう思った。 )
萌は初めて父親の姿を連想していた。
潤美は警察で事情聴取されて、被害者として半グレ達の事を全て話しました。
当然アルコールを摂取していた事もバレて、親には当分外出禁止になったいた。
本人も充分反省しただろう。
今回の事件は静かに幕を降ろすのでした。
おじさんは萌にどうしても話したい事が。
「 萌…… お母さんの事故の事なんだけど。 」
萌はおじさんの話を最後まで黙って聞いた。
犯人の男が生きる気力を失くしている事。
奥さんは深く反省していて、産まれて来る子供の為にも旦那さんに生きて欲しい事。
全て話した。
「 私…… 犯人に会って来る…… 。 」
犯人の収監されている刑務所。
犯人は口を開けて身動き一つしていない。
ご飯もまともに食べないでやつれている。
かつての筋肉質なトラック運転手とは到底思えない風貌に。
「 おい、面会に来てるそ。
独房から出てこい。 」
犯人は全く動じる事はない。
「 いやだ…… 俺は…… もう誰とも会わない。
ここで死なせてくれ…… 。 」
奥さんまた来たと思い、現実から逃げていた。
「 藤堂萌って女の子だ。
早くしないと会わせないぞ? 」
その名前を聞いて急に立ち上がる。
「 えっ!!? 藤堂…… 萌…… 。 」
その名前は忘れもしない。
忘れる事が出来ない被害者の家族。
凄い勢いで鉄格子に飛び付く。
「 会う、今すぐに会わせてくれ!! 」
犯人は直ぐに手錠をはめて面会室へ。
体は震えていたがどうしても謝りたい。
罵倒されるのは分かっている。
それでも謝りたい…… ずっとそれだけを考えていた。
死ねと言われたら自害する事も考えていた。
恐れながら面会室に入る。
「 お久しぶりです。
最後に会ったのは裁判所でしたね。 」
萌の表情は冷たく、鋭い視線で睨み付けていた。
「 あ…… あの…… 私は…… 私は。 」
謝ろうと思っても全く声が出ない。
震えて歯がカタカタと音を立てる。
大きく唾を飲み込み、土下座をしました。
「 本当に…… 本当に申し訳ありませんでした。 」
萌は全く動じる事はありませんでした。
「 藤堂さんにどれだけ酷い思いをさせた事か。
たった一人のお母さんを奪った。
私は何て事をしてしまったのか…… 。 」
何度も何度も頭を地面にぶつけた。
萌は全く反応すらしない。
「 私の今まで稼いだお金や貯金を渡します。
死ねと言うならば直ぐにでも命を…… 。 」
その言葉を聞き、凄い勢いで立ち上がる。
「 ふざけないで!! お金なんていらない。
それでママは生き返らない…… 。
何の意味なんてないの! 」
怒りをぶつけました。
犯人は頭を上げられない。
「 誰がそんなのいるか!!
死ぬって言ってるけど、あなたは逃げたいだけよ。
この苦しみから。
家族は居るんじゃないの!?
子供が産まれるんじゃないの!?
あなたには逃げる資格なんてないのよ! 」
その言葉は当たっていた。
死んで楽になりたかった。
反省しているが一番は逃げたかった。
「 あなたは父親なのよ!
どんなに辛くても逃げるな。
許されないとしても償い続けて。
あなたの家族には父親はあなただけなんだから! 」
犯人は泣き続けていた。
勝手に反省しているから死ぬなんて言ったが、残された家族の事を一つも考えていなかった。
父親としての責任すら忘れていた。
「 私はあなたを絶対許さない…… 。
死ぬなんてしたら、地獄に行ったって追っかけて行くんだから。
家族を大切にしなさい…… これが私から言いたかった事。
それだけだから…… 。 」
そう言い出ていこうとする。
「 あ…… ありがとう…… 。
ありがとう御座います…… うっ…… うっ。
もう…… 逃げません!!
罪を償いつつ家族の元に帰ります。
本当に…… 本当にすみませんでした! 」
犯人も同じ人。
罪を償うチャンスを与えるかは人それぞれかも知れません。
でも萌は犯人の家族を聞き、片親で育つ子供が他人事には感じれなくて止めたくなった。
許すなんて出来ないかもしれない。
それでも止められずにはいられなかった。
その後に初めて犯人は奥さんと面会した。
これからどう生きていくか?
二人で話し合いました。
その男の目には生きる気力が芽生えていた。
「 はぁーーぁっ。
偉そうな事言ったら疲れちゃった。 」
何故か気分は少し楽になっていた。
「 そこのお嬢さん…… 美味しいうなぎの店知ってるですが、良かったら一緒にどうですかいっ? 」
頭を包帯で巻いて刑務所の前でおじさんが待っていた。
萌は顔を見るなり笑いました。
「 スイーツ食べ放題よ。
うなぎなんて食べる気分じゃないもん! 」
「 スイーツだと!? そんな…… 。
甘いお菓子ばっかあるとこ。
男が行けるとも思ったのか!! 」
二人は言い争いをしながら歩いていく。
いつの間にか二人は、本当の親子と何一つ変わらなくなっていたのでした。
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