第36話 父親の背中


息を切らしながら現れたのはおじさんでした。

周りも唖然としてしまう。

でも直ぐに我に返り、笑いが起こる。


「 あんたなに?

父親が来たからって容赦しねぇーよ? 」


マッシュルームが笑いながらおじさんに近づいて来る。


「 ガキが大人にでけぇ口叩くなよ。

こんな大勢じゃないとイキれないんだからな。 」


この人数に全く恐れずに言い返している。

萌と潤美は黙って見守っている。


「 うるせぇ…… うっせぇんだよ!!

このクソジジイが!! 」


煽られてキレたマッシュルームが、勢い良く拳を振るって来た。

おじさんは軽く避けてしまう。

マッシュルームは勢い良く倒れる。


「 なんだ? 口だけだな。

俺は明日も仕事なんだよ。

娘を連れて帰らせて貰うから。 」


周りに居た半グレ達が勢い良く鉄パイプを持って飛び掛かって行く。

おじさんは来る相手を、右へ左へと軽く受け流してしまう。


「 何で当たんねぇーーんだよっ! 」


半グレ達は息を切らして距離を取る。

おじさんは余裕な素振りを見せて、タバコを咥えてました。


「 だから言ったんだよ。

おめぇらがどんだけ束になっても、俺には当たんねぇんだわ。

時間ないから帰らせて貰うわ。 」


そう言うと奥から大男がこっちへ歩いてくる。


「 あんたやるじゃないか…… 。

見る限りただ者ではないな。 」


暴力団の男は不適な笑みを浮かべる。


「 どんなに強くてもこれならどうかな?

おめぇら!! ガキやっちまいな! 」


その命令に従い、半グレ達は勢い良く萌達にパイプを振り上げて走っていく。


「 ちっ! クソが…… 。 」


おじさんは直ぐに萌の方へ走る。


「 悪いな…… ボスの命令なんだわ。

悪く思うなよ!! 」


マッシュルームは鉄パイプで萌に振り上げた。


「 いやぁーーっ!! 」


萌は怖くて目をつぶる。


ガンッ!!

鈍い音が鳴り響く。

ゆっくりと目を開けるとおじさんが覆い被さり、背中に鉄パイプをくらってしまう。


「 おじさん…… おじさんっ!! 」


「 大丈夫だ…… 目を閉じてろ。

直ぐに終わるから待ってろ。 」


直ぐに次の男から鉄パイプをまたくらってしまう。

何度も何度も鈍い音が鳴る。


「 おじさん…… なんで…… 。 」


萌は分からなかった。

おじさんは凄い強いと前に聞いていた。

さっき敵の攻撃を避けている所を見て、強いと言うのは本当だと思った。


なのにも関わらず、半グレ達にやられている。

萌は一方的にやられているおじさんに。


「 どうして…… どうしてやり返さないの!?

おじさんなら…… おじさんならこんな奴らに負けたりしないのに!

何でやり返さないのよ!! 」


血だらけになっても萌に覆い被さり、微動だにしない。


「 俺は…… 俺は…… もうケンカはしない。

はぁ…… はぁ、俺は前までの俺じゃない。

良い父親に…… なりたいんだ…… 。

人は変われる…… そう信じて…… る…… 。 」


そう言って崩れ落ちてしまう。

何度も殴られてしまい、さすがに耐えきれずに意識を失くしてしまう。


「 おじさんっ! おじさん!! 」


必死に呼び掛けても反応もしない。


「 イッヤッホーーイッ!!

クソジジイがやっと堕ちたな。

がっはっはっは!! 」


マッシュルーム達はやっとおじさんを倒せて、大声を上げて喜ぶ。

萌は何度も呼び掛けてもやっぱり動かない。


「 何でやり返さねぇーーんだよ…… 。

だからこんなみっともなく倒れちまうんだ。 」


大男は虚しくなっていた。

最後まで自分の意思を曲げずに戦ったおじさんに、何故か負けてしまった気持ちになってしまう。


ブルーーッ!! ブブブブッ!! ブォーーッ。

外から凄いバイクの音が聞こえて来る。


「 何だ…… このバイクの音は!? 」


半グレ達も慌てている。

倉庫に暴走族が大群になって押し寄せて来た。

ざっと100人以上は居る。


「 何だ、なんなんだよ!! 」


マッシュルーム達はバイクに囲まれて、怯えてぐるぐると見渡してしまう。


すると一人の男がバイクから降りてきた。


「 おめぇーーらっ!! 良くもウチのリーダーやってくれたな?

ただで済むと思ってんのか!? 」


( えっ…… リーダー?

何なのこの人達は? )


萌も何が何だか分からなくなっている。


「 おめぇらのその旗は…… 紅蓮隊か? 」


大男が言った名前…… 。

それは昔大暴れしていて、ここら辺の頂点にまで上り詰めたのに、ある日を境に姿を消した族。


「 おめぇーーらっ!

コイツら取り押さえんぞ!! 」


そう言い暴走族は勢い良く襲いかかる。

半グレ達はその力の前に、何も出来ずに何人も拘束されていく。


「 大丈夫かい? 」


萌の拘束をゆっくりてほどいてくれた。

その男はおじさんの昔の旧友。

神宮寺竜でした。


「 もう安心して良いよ。

怖かったね、もう大丈夫だからね。

俺達は全員赤沼さんの仲間だから。 」


実はおじさんはここに来る前に、神宮寺と連絡を取っていた。

ここをピンポイントに見つけられたのも、族のリーダーの神宮寺の成果。

そしてもしもの為に助けを求めていた。


「 赤沼さんは俺達にとっては、今でもリーダーだからな。

どんな場所だろうと助けに行きます。 」


そう言って優しく微笑む。

萌は安心してタメ息をつく。


「 ありがとうございます…… 。

おじさん! おじさん!! 大丈夫!? 」


萌はおじさんを揺する。

おじさんは目を覚まさない。


「 大丈夫! 赤沼さんは最強っす。 」


神宮寺はあまり心配していなく見えた。

絶対に死なないと信じているからだ。


「 早くここから逃げよう。

もう直ぐ警察来るから。 」


半グレは全員拘束されて気絶している。

数々の犯罪行為の証拠も置いて立ち去る。

これで全員一網打尽なのは確実。

今までの被害者も少しは報われるだろうか。


直ぐにおじさんは病院へ。

出血が酷くて緊急手術に。

待合室で萌は悲しそうに待っている。


「 おじさん…… 。 」


「 大丈夫! 元気出しなよ。 」


神宮寺が飲み物を持って隣に座る。


「 おじさんこんなになるまでやり返さないなんて…… 。

本当バカだよ…… バカ…… 。 」


神宮寺は言いにくそうに頭をかく。


「 赤沼さんは俺達とは違う。

全うに生きる為に抜けたんだ。

あんなキレやすい人が、あんなにやられても手を出さなかった。

キミの事本当に大切なんだね。 」


そう言って萌の頭を撫でた。

萌は分からなかった。

やらてたならやり返せば良い。

そんな感情しか頭になかった。


おじさんは怒りよりも、守りたい…… 。

その気持ちしか頭になかった。

萌にはまだ分からなかった。


手術を終わり、中から出てきた。


「 おじさん!! 」


おじさんは頭に包帯を巻いて運ばれて来た。

身体中も手当てをされていた。


「 手術は無事に成功です。

ここまで大怪我をしていたら、普通なら死んでてもおかしくありませんでした。

とても頑丈な人です。

それ以上に…… 生きたいと思う生命力が凄かった。

そうとしか言い様がありません。

失礼致します。 」


医師はそう言い行ってしまう。

二人は深く頭を下げました。

そして病室へ運ばれて行く。

二人は一安心してタメ息を吐く。


「 俺はここら辺で失礼します。

また来ますんで! それでは。 」


神宮寺は帰って行きました。

萌は何度もお礼を言った。

そして病室へ戻る。


とても長い一日で萌は疲れて、おじさんにもたれ掛かりながら眠ってしまう。


「 むにゃむにゃ…… 酒…… 。

飲みてぇ…… なぁ…… 。 」


おじさんは寝言を言って深い眠りについていた。

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