第24話 心の強さ


( 最近…… 彩芽の様子がおかしい。 )


授業中に萌は彩芽を見詰めている。

普通に授業を受けていて普通に見える。


( 学校帰りは寄り道に誘ってきていた彩芽が、最近は一切誘って来ない。

気になってこっちから誘ってみても、家の用事だと言われてしまう。

絶対何かある…… 。 )


萌は彩芽の事が気になっていました。

あまりにも隠されると、聞くに聞けなくなってしまう。


「 じゃあまた明日ね! 」


彩芽は手を振り帰って行く。

萌は笑って別れると、直ぐに後をつけて行きました。


( 絶対何かある…… 。

あの子は直ぐに抱え込むから。 )


幼なじみとしてもほっとけない。

いつも気が弱く、自分の意思を強く表現する事が出来ない。

萌は心配で仕方がなかったのです。


いつもと違う道を歩く彩芽に、やっぱり秘密がある。

強い確信に変わりつつ後をつける。


ピンポーーン。

何処かの家のチャイムを鳴らしている。


( 知らない家だなぁ…… 。

誰の家なんだろうなぁ?? )


学校から少し離れた場所の家。

普通の一軒家。

友達の家なのだろうか?

隠れて見ている。


「 はぁ…… い …… 彩芽ちゃん…… 。 」


中から出てきたのは、同じくらいの年の女の子。


「 大丈夫?? さぁ、公園でも行かない?

今日はお菓子沢山買ってきたからさ。 」


一緒に二人は近くの公園へ。

萌も後を追いかけていく。


二人は静かにベンチに座りました。

お菓子を食べながら話し始める。


「 まーちゃん、またやつれたんじゃない?

本当に大丈夫なの!? 」


( ん? まーちゃん…… 何処かで聞いたことが。

…… あっ! 彩芽が小学校の時少しだけ通ってた、塾の同級生だ!

凄い仲良くなったって言ってた。 )


まーちゃんとは昔の塾の同級生。

他の学校の子だったので、萌は全く知らなくて初めて見ました。


「 うん…… 最近はそこまでじゃないよ。

ちゃんとご飯も食べてるし、上手くやれてるから大丈夫だよ。 」


その女の子は彩芽の言う通り、少しやつれていて顔は疲れきっているように見える。


( あれ? あの子…… 顔に痣がある。

良く見たら手首にも見えにくいけど痣がある。

どうしたのかしら…… 。 )


何やら深い事情がありそうでした。

遠くから見ていたので、話はあまり聞こえない。

そこから少し話すと彩芽は、家まで送り家に帰りました。

元気がなく彩芽は一人悲しそうに歩いている。


「 あーーやめっ! 」


ひょっこりと前から萌が現れる。


「 萌ちゃん…… 何でここに? 」


「 最近元気なかったから気になって。 」


帰る途中の池で少し話す事に。


「 まーちゃんは私の親友…… 。

小学校の頃に引っ越ししたけど、ちょっと前に戻ってきてメールでやり取りしててさ。 」


「 初耳…… そうだったんだ。 」


芳賀真琴はがまこと

年齢も同い年。

でも帰って来て会っていたのに、全然楽しそうに感じませんでした。


「 まーちゃんの親が離婚しちゃったの。 」


大人の複雑な事情…… 。

子供にはとても辛い。


「 お父さんが仕事クビにされちゃって、お母さんが離婚届だけ置いて出てっちゃったの。 」


「 えーーっ!? そんな事って…… 。 」


辛すぎる事実に萌は何も言えない。


「 お父さん…… その後から荒れちゃって…… お酒沢山飲んでるの。

酔っぱらうとまーちゃんに暴力を振るうんだって。

私…… 信じられなくてさ…… 。 」


まーちゃんはお父さんからのDVを受けていたのです。

痣の理由も分かってしまう。


「 警察には言ったの? 」


「 言ってないって…… お父さんが辛いの良く分かるから、突き放したくないんだって。

私…… 全然分からない…… 。 」


悲しそうに話しました。

彩芽も助けたくてもどうしようもなくて、分からずに居たのでした。


「 彩芽…… 私も手伝うよ。

一緒に助けてあげ 」


「 萌ちゃんには関係ないでしょ!!

これは私とまーちゃんの問題なの!

絶対迷惑かけたくないから。

ほっといてよ…… 。 」


話を被せて無理矢理止められてしまう。

こんなに荒々しい彩芽は初めてでした。


「 そんな…… 関係なくないよ? 」


「 ないよ!! 本当に!

これは私の問題なんだから。

いつも助けて貰ってばかりだから、これ以上は頼ってばかりではいられないの。

だから…… ごめん…… 。 」


そう言い残して走って行ってしまう。

萌は一人置き去りにされてしまいました。


「 彩芽…… 。 」


その後ゆっくりと家に帰りました。

何度か電話をかけても彩芽は出ませんでした。


「 はぁ…… どうしてこうなったんだろ。 」


家で一人悩んでしまう。


「 うぉーーいっ!

ただいま帰りましたよう。 」


おじさんが帰って来ました。

直ぐに手洗いを済ませて、ご飯を食べました。

海外ドラマを見ながら笑っている。


「 ジャクソンは直ぐに仲間を裏切るんだから。

スティーブは良く友達で居られるよ…… 萌?

どうしたんだ? さっきから上の空で。 」


「 おじさん…… 実は…… 。 」


内緒と言われていましたが、どうしても抑えられずに話してしまう。


「 そうか…… それは辛れぇよな。

その友達もずっと一人で抱え込んで悩んでたんだろな。

大変だったろうに…… 。 」


おじさんも難しい事で上手くは話せずにいる。


「 おじさん…… 私は余計なお節介だったのかな?

やっぱり関係ないのかな?

私は親友が悩んでるなら…… 力になりたくて。 」


おじさんも少し考える。


「 おめぇは頭は良いのにそんな事も分かんないのか? 」


「 えっ…… !? 」


おじさんにはその答えが分かっていました。

何故彩芽が冷たく引き離すのかも。


「 おめぇがいつもしっかりしてて、その友達はいつも申し訳なく感じてたんじゃないか?

今回の友達との事は自分だけでどうにかしなくちゃって、必死に頑張ってるんだと思うぞ?

これ以上迷惑かけたくないんだろうな…… 。 」


そんな事一度も思った事はありませんでした。


「 迷惑なんて思ってないよ!

私だって沢山彩芽に迷惑かけてるし。 」


「 優しさってのは時に罪悪感や劣等感を感じる人も居るんだ。

その子は萌の事が大好きなんだろうな。

お前がその子を助けてきたように、その子も友達を助けてあげたいんだろうな。 」


萌は悔しくて泣いてしまう。

彩芽の想いや考えてる事が分からず、もしかしたらプレッシャーにもなっていたのかも知れない。

やるせなくなり自分が情けなくなる。


「 だけどお前はもう関わるな!

DVってのは病気であり犯罪だ。

他人が入るのは難しい…… 。

警察とかに任せるのが懸命だ。 」


「 はぁ!? ふざけんな!

それじゃ解決になってないんだよ。

警察に言っても本人がされてない、って言ったら動いてはくれないよ。

私は絶対逃げない! 彩芽もまーちゃんも助ける。

余計なお節介でも何でも良い!

絶対に助けるんだからっ!! 」


一度決めたら曲げようとはしない。

おじさんは危険だから止めたのに、その意味が分からなくて怒らせてしまいました。

怒って部屋に行ってしまう。


「 クソ…… また怒らせちまった。

ふふ…… お母さんそっくりだな。

余計なお節介なとこも全部…… 。 」


おじさんは嬉しそうに笑う。

そして何処かに電話をかける。


「 もしもし…… 俺だ。

久しぶり…… ちっと頼まれ事してくれるか?

ああ、芳賀真琴…… 多分15か16ぐらい。

ああ…… ああ、うん…… 出来るだけ早く頼む。 」


次の日…… 学校へ行くとクラスが慌ただしい。


「 どうしたの?? 」


「 近所に住んでる女の子がさ、昨日階段から落ちてケガしたんだって。

それをみんなに話してたら円谷彩芽さんが聞いてて、凄い勢いで走ってたの。

どうしたんだろね? 」


彩芽のカバンが置いてあり、何処かへ行ってしまいました。


「 もしかして…… ケガしたのって芳賀さん? 」


「 ビンゴ! なんで知ってるの?

今は家で安静にしてるらしいよ? 」


嫌な予感は的中しました。

また夜に暴力を振るわれてしまっていました。

萌も凄い勢いで走っていく。


ピンポーーンッ!!


「 はい…… 誰? 真琴の友達か? 」


「 はい、あの…… あの…… その。

ん…… まーちゃん出してもらえます? 」


彩芽はぶるぶるに震えながらお父さんと対面していました。


「 悪いね…… 娘は昨日階段から滑ってケガしちゃったんだ。

だからまた他の日に来てくれるかい? 」


「 …… 卑怯者…… 卑怯者。 」


小さな声で言いました。


「 あんっ? 何か言ったか? 」


「 卑怯者ーーっ! 何があったかは知らない!

だからって子供に当たるなんて…… 最低のくず…… くず野郎よ!

私は…… まーちゃんの友達なんだから。

もう黙ってないぞ! はは…… 早くまーちゃんに会わせて下さい!

じゃないと…… じゃないと…… 。 」


勇気を振り絞り話しました。

怖くて泣きながら叫びました。


「 何言ってんのか分からないなぁ。

なめてんじゃねぇぞ!! 」


凄い圧で叫びました。

怖くて直ぐに腰が抜けてしまい転んでしまう。


( 怖い…… 怖いよ…… 。

萌ちゃん…… 萌ちゃんみたいになれない。 )


「 はぁはぁ…… 友達を傷つけるぁ!! 」


そこに現れたのは汗だくでふらふらな萌でした。


「 同じ血を分けた娘を傷つける。

最低な人間です…… 家族だから何やっても許されると思ってるんですか?

お前がやってるのはただの八つ当たりだ!

さぁ、まーちゃんを出して下さい。

じゃないと私は警察にも電話します。 」


彩芽の前に堂々と立ってお父さんと対決している。


「 萌ちゃん…… 。 」


「 彩芽…… ごめんね。

お節介でもなんでもいい。

私がこうしたいから来たの。

良く頑張ったね。 凄いよ。 」


そう言い笑いました。


「 うるせぇ…… うるせぇ…… 。

どいつもコイツもバカにしやがって。 」


「 萌ちゃん! 後ろ!! 」


萌が振り返ると木製のバットを持ち出していました。

追い詰められてしまい怒りで止まらなくなってしまう。


( おじさん…… ごめんね…… 。

言ってる事間違ってなかったね。

体が勝手に動いちゃったんだ…… 。 )


「 死ねぇーーっ!! 」


萌は咄嗟に彩芽を庇い抱き締める。


バキッ!!

凄い鈍い音と共にバットが折れる。


「 痛くない…… 。

って…… えっ…… おじさん。 」


ゆっくり目を開けると、目の前にはおじさんが立っていました。

頭からバットをもろにくらってしまう。

頭からゆっくりと血が流れてくる。


「 だから関わるなって…… 言ったろ。

ここからは大人の出番だ…… なぁ、酔っぱらい。」


重たい空気が流れて行くのでした。

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