第23話 最高の食事


2メートル近い熊が襲いかかろうとして来る。

二人は腰が抜けてしまい動けない。


( ヤバい…… もうダメだ…… 。 )


萌はゆっくり目を閉じようとする。

おじさんは身代わりになる為に前に…… 。


「 えっ…… ? おじさんっ!? 」


一瞬の出来事に萌も動揺してしまい、何も出来ない。

おじさんは両手を広げて全力で立ち向かう。


( 絶対に守ってみせるからな…… 。

俺に出来た大切なもんを。 )


バーーンッ!!

凄い音共に熊がおじさんに覆い被さる。

そのまま熊がのし掛かるようにして倒れる。


「 おじさーーんっ!!!! 」


熊は覆い被さったまま動かない。

萌は必死に叫び続ける。

何故か熊はピクリとも動きません。


「 えっ…… どうなってるのこれ…… ? 」


異様な光景に動けずに居る。


「 オラッ! 山ん中は危ねぇって看板あったろ。

だから都会もんは。 」


エグい訛りを言いながら現れたのは、猟銃を持った猟師らしきおじさん。


「 すみません…… って!

おじさんが大変なんです。

熊が…… 熊が!! 」


おじさんを助けて貰おうと、必死に説明をしようとする。

でも震えて上手く言えない。


「 でぇじょぶだぁ。

頭一発で撃ち抜いたんだから即死だろ。

おらはここいらで一番の名手なんだわ。 」


熊を良く見てみると頭には銃でついた跡が見つかる。

口を開いたまま即死のようでした。

直ぐに二人は重い熊を、おじさんの上から持ち上げて引き離しました。


「 おじさんっ!! 」


おじさんは気絶してしまっていました。

直ぐに猟師のおじさんが安否確認をする。


「 心配ねぇだよ。

びっくりして気絶しちまったんだわ。

そりゃ仕方もねぇだろうよ。 」


一緒に倒れた衝撃で気絶しただけのようでした。

萌も一安心。


「 本当にありがとうございます…… 。

ここら辺にある何か食べれる所探して、ここまで来ててこんな事になってしまいまして。

ここら辺に武三さん? って人お店知りませんか? 」


「 ん?? あっはっはは。

それがおらだよ! 店何か滅多に人来ねえから、人里降りて来た熊退治してるんだわ。

んま、とりあえず行くだよ。 」


まさか武三さんがこの猟師とは何とも偶然。

おじさんを軽く背負い、そのお店に行くことになりました。


「 本当にありがとうございます。 」


「 良いだよ、別に気にしてねぇだ。 」


軽くおじさんを背負いどんどん進んでいく。


( 訛りが凄いけど凄い優しい人…… 。

おじさんと年は変わんないぐらいかな?

にしても背負って登ってる割りには、凄い歩くの早いんだから。 )


直ぐに木で作られたウッドハウスに着く。

とても大きく木々に囲まれて神秘的に輝いている。


「 綺麗なお店…… 。 」


「 ほら、早く入るだよ! 」


中に入ると全て木で作られた家具や、テーブルや椅子に目を奪われてしまう。

暖炉もあり凄く暖かい。


「 このおじさんここで寝かせとくだ。 」


奥の部屋で寝かせてくれました。


「 凄い良いお店ですね。 」


「 てぇした事ねぇって。

おらは武三って言って、50歳のお店やりつつ猟師やってんだわ。

最近猟師も少なくてな。 」


意外におじさんより年は上のようでした。

若々しく髭と揉み上げは繋がり、まるでゴリラのようにも感じられる程。


「 おらの店はうどん専門店だわ。

好きなの頼みな! 」


うどん専門店でメニューも手書き。

拘っている為に置いてある七味や、箸も木で作られている。


「 おじさんが起きたら一緒に食べます。

本当にご迷惑御掛けして申し訳ないです。 」


ここまで来たので、一緒に食べようと思い待つことに。


「 良い娘っ子だなぁ。

あの人お父さんじゃねぇのか? 」


軽く事情を話しました。

母親が亡くなり、おじさんが引き取ってくれた事や休みなのに、こんなにお昼食べるのすら遅くなった事も。


「 立派な人だなぁ…… 。 」


「 えっ? そんな事は…… 。 」


武三さんはコーヒーを飲みながら語り始めました。


「 おらは人付き合い下手でよぉ。

都会に行くのも怖くてな、直ぐに自分で建てたこの店でずっと暮らしてるだよ。 」


何やら話は長くなりそうな始まり。


「 おじさんは自由な人で、清掃員やりつつ適当に暮らしてて。

家事とかも全然! お酒大好きでギャンブルもします。

とても誉められるとこの少ない人でして。 」


「 んにゃ…… おらはあかの他人を育てる勇気なんてないだよ。

しかも熊から命をかけて守るなんて、死んでも出来ねぇ事だわ。 」


考えてみると本当に勇気のある行動でした。

一緒に暮らした理由はどうあり、萌と楽しく暮らしている。


「 聞いているとこの面倒くさがりやの男がよ?

休みの日にこんな遠くまで来たのは、萌ちゃんに少しでもうめぇもん食わせたかったからじゃないか?

おらにはそう思えて仕方ねぇな。 」


自分の拘りで並びたくなかったのはありましたが、間違いなく美味しい物を食べさせようと思っていたのは確かでした。


「 まっ気絶しちまってるけど、おらはすげぇイイ人だと思っちまっただ。 」


「 はい…… 私もそう思います。 」


何故かおじさんを誉められると恥ずかしく感じてしまう。


その頃奥の部屋で目を覚ますおじさん。


「 ぐぅおっ!! って…… ここは?

ここは何処なんだっ!? 」


大声を出しながら起き上がる。


「 おじさん! 」


萌が行くとおじさんは安心し。


「 良かった…… 熊はどうなった!? 」


「 おらが倒しただよ。 」


武三が目の前に現れて経緯を説明する。


「 それはそれは…… 助けて頂きありがとうございます。

あなたが武三さん? 」


「 おうよ、腹減ってるだろ?

今作って来てやるからな。 」


そう言い厨房へ。


「 おい、何だあの髭顔は!

一瞬ゴリラかと思ったぞ。 」


小声で悪口を言ってしまう。

見た目が悪いのは仕方がない事。


「 助けてもらって何言ってるのよ!

全部おじさんが悪いのに。 」


「 少しは反省してるって。

…… てか、注文取ってないだろ!!?

こんなお店あるのか?

勝手に料理し始める…… やべぇおみ。 」


必死に文句を言っていると、急に厨房から出て来てしまう。


「 もう少しだから待っててな。 」


「 はい! お構い無く。 」


言い終えると直ぐに戻って行く。

直ぐに顔を近付けて小声で話し合う。


「 ここが噂の店なのか!? 」


「 そうだよ。 」


おじさんは少し不信感を持ちつつ待つことに。


「 んだぁ、山菜うどん出来たべ。 」


二人分の山菜うどんが来ました。

うどんからは山菜のだしからでた風味が漂って来る。


「 美味しいそうだね。

ねぇおじさん? 」


萌は興奮してスマホで写真を撮る。

おじさんはと言うと?


( 山菜だと!? 田舎臭ぇなぁ。

しかも麺は太くて歯ごたえなさそうだし。 )


沢山の偏見で埋め尽くされていました。


「 これ凄い美味しいでふ。

熱々で山菜も美味しくて。 」


萌は美味しそうに食べている。

おじさんは嫌そうな顔で見ている。


「 おめぇさんも早く食べなぁ? 」


( コイツ…… さっきからタメ口で喋りやがって。

お客様は神様なんだぞ?

田舎では違うのか!? あんっ?? )


「 はいっ…… いただきます。 」


何て言えなくて仕方なく手を伸ばす。

麺を豪快にすする。


「 ずるずるぅーーっ!! …… ごくっ。

うめぇーーーーっ! 」


おじさんはその旨さに感動しました。

食べれば食べるほど旨さが流れ込んで来る。

麺は手作りで歯ごたえ抜群!

山菜も今朝採れたての物ばかり。

美味しそうに食べるおじさんを笑って見ている。


「 おじさん、満足した? 」


「 ずるずるーーっ…… まぁな。

萌はどうなんだ? 旨いか? 」


さりげなくおじさんは名前で呼んでいました。

熊に襲われてしまった時も、咄嗟に名前で呼んでいましたが、気のせいかと思っていました。


「 うん…… 美味しい。

今日はありがとう! いい気分転換になりました。」


「 そうか…… ならいいな。 」


もう日が暮れて夜に。

綺麗な星空が輝いていました。

萌はその夜景を見ながら楽しそうに食べました。


「 本当…… 変な奴だべや。

都会はやっぱり変なやつばかりだぁ。 」


武三さんもついでに厨房で食べながら、二人を見ているのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る