第22話 思春期との距離感


朝起きて直ぐにトイレに向かう。


「 ちょっと!! 今お風呂から上がったとこなんだから、あっちに行っててよ! 」


間が悪くてお風呂上がりに出くわしてしまい、追い出されてしまう。

キョトンとリビングに戻って来る。


「 朝から風呂入りやがって…… 。

これだから二人暮らしは嫌なんだよ。 」


ぶつぶつと文句を言いながらテレビをつける。

萌は朝早く起きてお風呂に入ったり、朝から大忙しで準備をしている。

なので台所や洗面所とかの使用率が高い。


外に出てタバコを吸う。

部屋で吸うと色々うるさいから。

一人の時間を堪能しながら、煙突のように沢山の煙を吹かす。


「 ふぅーーっ! やれやれ。 」


部屋の外でタバコを吸っていると、大家さんがゆっくり階段を上がってくる。


「 なんだい? 外にでも出されたのかい? 」


「 うるせぇな…… 。

人の家族の事情に入ってくんなよ。 」


恥ずかしそうに言い返しました。

大家さんは相変わらずだと思い、鼻で笑ってしまう。


「 にしてもアンタにしては珍しいじゃない。

あたしは直ぐにギブアップすると思ってたよ。 」


大家さんはおじさんの性格上、直ぐに逃げ出してしまうとばかり思っていました。

思いの外続いていて感心してしまう。


「 まぁな…… 二人も一人もあんま変わんないしな。

そうだ…… 俺、今の清掃会社で社員として働こうと思ってる。 」


「 えっ!!? あんたが!?

どういう変化だい?

ついこの前までは一人は最高。

自由で縛られるのが嫌いだったのに。 」


大家さんは驚きを隠せない。

あんなにもだらしないおじさんが。

目を大きくさせてしまう。


「 まぁ一応親父だから。

少しくらいちゃんとしないとな。 」


おじさんの決意は固く、迷いは一切ありませんではした。

大家さんはニッコリ笑う。


「 あんた変わったね。

少し見直しちゃったよ。 」


大家さんは嬉しかったのです。

あのずっと一人きりで何もなかったおじさんが、萌が来てからこんなにも変わるなんて、全く想像していませんでした。


「 変なとこばっか見る暇あったら、ここのアパートリフォームしろよ。

どこもガタが来てんだから。 」


恥ずかしくなり照れ隠しに、アパートにいちゃもんをつけて部屋に戻りました。

大家さんはニヤニヤと笑って見ていました。

大家さんにとっておじさんは、息子のような存在でした。

だから自分のように嬉しかったのです。


部屋に戻りテレビを見る。


「 ちょっと! またタバコ吸って! 」


萌はタバコの匂いに反応し、消臭スプレーを沢山かけました。


「 ごほっ! ごほっ!

かけすぎだってば、もっと大切にしろ! 」


おじさんはかけられ過ぎて咳き込んでしまう。


「 共同生活なんだからマナーは守る事! 」


そう言い家事を始めてしまう。

おじさんは小さくタメ息を吐く。


「 やれやれ…… 困ったもんだ。

ん? そう言えば今日は出掛けないのか? 」


休みなのに出掛けるとは言ってなかったので、気になり聞きました。


「 毎週遊んでばっかいられないの。

大学受験だってあるし、今日は家で勉強かな。 」


萌は将来の為に日々勉強に明け暮れている。

おじさんはつまらなそうな顔をする。


「 学生時代は一度切りなんだぞ?

そんなつまんない事ばかりして。 」


おじさんは萌にもっと青春を謳歌して貰いたいと思っている。

でも学力を上げなければ受験に厳しくなってしまう。

真面目で未来を見据えているとしても、これではいけないと思ってしまう。


( こんなつまんない思春期を過ごさせて良いのであろうか…… 。 )


珍しく考えてしまう。

口下手なので上手く言えないのも相まって、そのまま時間は過ぎていく。

萌は熱心に部屋で勉強している。


お昼になり萌は手を止める。


「 そろそろお昼かぁ…… 。

今から作るから待ってて。 」


寝転がっていたおじさんいきなり閃いて立ち上がる。

急に立ち上がったので萌はびっくりしてしまう。


「 いきなりなんなの!?

トイレでも行きたくなったの? 」


「 違うわ! 外で食べるぞ。

早く準備しろ。 」


いきなりの事に理由が分からないまま外に出掛ける事に。


「 休日ってのはな、外食をしたりすんのよ。

それが最高の時間の過ご仕方なんだ。 」


そう言いながら歩いていると、目的地の焼き肉屋に着きました。


「 うわぁ…… 過ごい行列…… 。

何処も考える事は一緒ね。

ってか昼から焼き肉とかカロリー過ごそう。 」


家族揃っての外食は鉄板の流れ。

飲食店の休日は大忙し。


「 まぁ…… こんなこともある、次行くぞ。 」


そう言ってまた歩き始める。

近くのお寿司屋に着きました。


「 ここのお寿司がまた最高なんだわ。

鮮度良くてネタが厚切りなのがまたいい。

むしろこここそが大人のお店…… 。 」


酔いしれながら扉を開ける。


「 いらっしゃい!

今は満員になっています。

ご予約優先でして…… すみません。 」


「 そか…… 邪魔したな。 」


またもや食べれずに出てきてしまう。

おじさんは少しふてくされ気味に。

萌はクスクスと笑う。


「 だから家で食べた方が良かったじゃない。

休日は家でゆっくりなのよ。 」


「 うるさいっ! 次だ! 」


無理だと言われると反抗したくなる。

これがおじさんなのです。


その後…… ラーメン屋やハンバーガーショップ。

あらゆるおじさんの行きつけのお店に行くも、ことごとく入れず仕舞い。

並べば入れるかも知れない店はいくつかありましたが、並ぶのは男のプライドが許さないと言い他の店に行く。


「 おじさん、もう疲れたよ。

もう14時になっちゃうよ。

チェーン店でも良いから入ろう? 」


お腹も減ってるし、足も痛くて気楽な店で妥協しようと思いました。

時間も時間なので疲れている。


「 誰がチェーン店なんかに。

街から離れるぞ。

もっと山へ行くんだ…… 山奥た。 」


そう言いバスに乗り山奥へ。

萌も呆れてしまい、タメ息しか出ません。

こだわる男…… 赤沼洋介なのです。


揺られ揺られて山奥に。

周りを見渡すと街所か、家すら見当たらない。

奥からおじいさんが畑仕事を終えて帰ろうとしている。


「 こんにちは、あまり見ない顔だね。

何しに来たんだい? 」


優しそうなおじいさんに話をかけられる。


「 こんにちは…… 私達はご飯食べに来ました。 」


「 うぇっ!? ご飯??

もう15時だぞ? しかもどうしてこんな山奥まで。」


おじいさんはびっくりして声が大きくなる。

時間も時間でしかも、山奥まで来る理由が分からない。


「 おじいさん!! お願い。

何処か食べれる所ない!? 何処でも良いの。

並んでなければ何処でも。 」


疲れ果てて涙目でおじいさんに頼みました。

そろそろ精神的にも肉体的にも限界でした。


「 飯くらい何処でもあんべ?

そこの山道歩けば、武三たけぞうさんがやってる店あるから行ってみ。 」


「 ありがとうございます!

直ぐに行きますね、おじさん店あるって。 」


言われた道を直ぐに急いで歩いて行きました。

相当お腹が減っていました。


「 ああ…… お前さんらーー 。

最近熊が出てるらしいから気をつけてな!!

って…… 聞こえてないか? 」


山道へ向かう所に倒れかかっている、熊注意の看板が立っている。

二人は何も知らずに山道を進んでいく。


「 はぁはぁ…… おじさん…… 私限界。

もう歩けないよ。 」


足が痛くて座ってしまう。


「 仕方ねぇな…… 女はこれだから。

待ってろ、ほら! 乗れよ。 」


そう言ってしゃがんでおぶろうとしている。


「 えっ? 言いって。

おじさんだって疲れてるんだし。

少し休ませて貰えば大丈夫だから。 」


「 黙って言うこと聞いてろ!

全部俺のプランなんだから、最後まで俺が責任を持ってやる。

男は自分の言った言葉は曲げねぇから! 」


そう言っておぶって山道を登る。


「 おじさん…… 何でこんな意味分かんない事するの?

おじさんだって疲れてるし。

ゆっくりしてた方が良かったじゃん。 」


小さく愚痴を溢してしまう。

おじさんはゆっくりと登りながら。


「 休みってのはさ、自由に何でも出来る。

はぁ…… 部屋にこもってるより、もっと外の景色にうまいもん食わせたかったんだ。

悪かったな…… こんなとこまで来てしまって。 」


おじさんなりの気遣いだった事を知り、萌は凄く嬉しくなりました。

不器用な男の背中に乗り、ゆっくりと進んでいく。


「 本当…… おバカさんなんだから。

ん?? 奥に人が立ってる。

おーーいっ! おーーいっ! 」


大声で手を振りました。

おじさんは急に立ち止まる。


「 えっ? いきなりどうしたの? 」


おじさんは黙っている。

そしてゆっくりと口を開く。


「 おい…… あれは人じゃない。

熊…… 熊だぁーーっ!! 」


慌てて叫んでしまう。

熊はその声で怒ったのか? 凄い勢いで降りて来る。


「 グォーーーーッ!! 」


動物の怒りの声が響き渡り、急いでおじさん達は降りて行く。

ビビり過ぎて足を滑らせおもいっきり転んでしまう。


「 痛ぇーーっ、 …… 大丈夫か?

萌っ! しっかりしろ! 」


「 大丈夫…… おじさん後ろ!! 」


既に後ろまで来ていました。


「 グゥオーーーーッ!! 」


勢い良く両手を上に上げて戦闘体勢に。


「 イヤァーーーーッ!! 」


二人は声を揃えて叫ぶ。

二人の運命は一体…… 。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る