第19話 仕事と家族


その日の学校が終わって、萌と彩芽は遊んだ後に歩いていました。


「 まだまだ話したいこと沢山あるんだよ。

仲良くなった多香子さんの話とか!

凄い綺麗で大人で優しくて。 」


夢中で新しい友達の話をしている。

途中でいきなり立ち止まりました。


「 そうだ! 萌ちゃんの家行ってみたい。

行っちゃダメかな?? 」


凄い嬉しそうに話してきました。


「 えぇーーっ!? …… んーー 。

凄い狭くて恥ずかしいからなぁ。 」


家も恥ずかしかったのですが、一番はおじさんの存在が気がかりに。


( あんな恥ずかしいおじさんだってバレたら、凄い引くだろうし。

今日帰って来るの遅いから、大丈夫かなぁ。 )


気持ちが大きく揺れる。


「 全然気にしないから。

ねぇねぇ? 行こうよ。 」


いつもより強引なくらい攻めて来る。

大好きな親友の為に、仕方なく行く事にしました。

沢山オヤツを買って、家で女子会を開く準備をして家に向かう。


その頃、おじさんはと言うと?


「 はぁ…… 疲れたなぁ。 」


まだ大して仕事もしていないのに、疲れてサボったりしている。


「 洋介! サボるんじゃない! 」


先輩のおじいさんに直ぐに叱られてしまう。


「 はいはい、ってか気になったんだけど。 」


「 ん? どうした? 」


おじさんにはおじいさんに対して気がかりな事が。


「 あんた昔でけぇ企業に居たって聞いたぞ?

金だって沢山残ってんだろ?

んなのにどうしてこんな、汚くなりながら汗水流して仕事するんだよ。

ゆっくり余生を楽しんだらどうだよ? 」


おじいさんは少し考えてしまいました。


「 ワシはな…… 出世の為にずっと生きてきた。

能力の低いもんからどんどん仕事を奪い、蹴り落として上に上がって行った。

家族は居たが全然一緒に居なかったんだ。

仕事が最優先でな…… 。 」


おじいさんは今は離婚してしまい、奥さんと子供二人で生きて行く事に。

子供さんも立派に生きていますが、ほとんどおじいさんとは話してもくれない。


「 仕事をしてたどり着いた場所は、孤独と無駄に有り余った金だけさ。

仲間も居ないし、孫にすら会わせて貰えない。

何にもない男がそこに居たのだよ。 」


おじいさんは悲しそうに語ってくれました。


「 だからワシは見てみたかったのかも知れない。

出世なんかせずに、みんなと楽しく仕事をしたり笑ったりするのが。

唯一の心残りさ。 」


そう言いながらモップで床を拭きました。


「 安心しろよ…… じいさんはかっけぇよ。

俺に比べたら何倍もな。 」


おじいさんの手が止まる。


「 あんたは前の奥さんとかに、どうにか罪滅ぼししたくてもわかんねぇ。

だからわざとこんな、最底辺の仕事をしてる。

不器用なじいさんなんだよ。 」


「 うるさい…… 。 」


その通りでした。

離婚してからも養育費を送り続け、せめて生活に何不自由なくさせてきました。

そして現在も奥さんに送り続けている。


「 いつかまた会いに行ってみたらどうだ?

意外にも会うか会わないかで違うもんだぜ?

どんなに心が離れてったって、全部嫌いになったなんて絶対嘘さ。

ビビってないで会いに行ってみたらどうよ? 」


おじいさんは一人考えてしまう。

今まで誰にも相談した事もなかったから、違う人の考えを聞いて影響を受けていました。


「 うるさいんだよ…… 偉そうに。

クソガキが何時からそんなでかくなったんだ? 」


照れ隠しで悪い口調で当たってしまう。


「 さぁな…… 俺があんたのガキだったら、怒ってないと思ってさ。

一つあるとしたら…… じいさんと同じでどう接したら良いかわかんないじゃないかな? 」


おじいさんは洋介に見えないようにして泣いた。

心の奥でずっと引っかかっていた物が、少しだけ軽くなったような感覚でした。

洋介の話はそれぐらい嬉しかったのです。

まるで子供と話しているみたいに。


「 時間なんていらないと思う。

嫌われる事から逃げないで、当たって砕けろ!

こんなんじゃ死ぬにも死に切れないだろ?

頭の良いやつはこれだから…… 。 」


そう言いながら何処かへ歩いて行く。


「 おい! 何処行くつもりだ?

お前さんはまだ仕事残ってるだろ? 」


「 気分乗らないから誰かと変わるわ。

たまには早く帰れよ! 頑固オヤジさん。

お疲れさまでした。 」


相変わらず適当な男。

だから未だにここに居るのかもしれない。


「 クソガキが…… ありがとう。 」


小さくそう言いました。

おじいさんはその日、他の人と交代をして前の奥さんの家に行きました。

電話や手紙でしか連絡していなかったので、何十年ぶりの再会に…… 。


「 はい…… あっ…… あなた…… 。 」


「 久しぶりだな…… いきなり来てしまい申し訳ない。

どうしてもお前に久しぶりに会いたくてな…… 。」


照れくさそうに言うと奥さんは泣いて抱き締めました。

止まっていた時間が動いたような気持ちに。


「 すまなかったな…… すまなかったな。 」


「 いいえ…… 良いんですよ。

寒いから中へ。

今は息子夫婦達と住んでいるんです。

どうぞ中へ。 」


息子は奥さんを一人に出来なくて、同居して暮らしていました。

息子らしい選択と良い奥さんに恵まれていました。


「 そうか…… そうか。

許されようとは思っていないが、一言だけ謝りたいんだ。

文字や声ではなく、直接な…… 。 」


そう言い中へ入りました。

リビングに行くと息子と奥さんに、可愛いヨチヨチ歩きの赤ちゃんが居ました。

可愛い男の子。


「 あんた…… いきなりどうして…… 。 」


息子もいきなりの事に言葉を失う。


「 びゃおびゃお、ぷぁぷあ。 」


おじいさんが来るなり赤ちゃんは、一生懸命歩いて足にしがみついて何か話している。

おじいさんは涙が溢れて来てしまう。

崩れるようにしゃがみ込む。


「 すまなかった…… 本当にすまなかった。 」


泣きながら何度も言いました。

それを息子の奥さんが止めようとするも、息子はそれを止めました。


「 今さらなんだよ…… 相変わらず傲慢だな。

その子…… 初めてなのにあんたに寄ってったな。

結構人見知りなんだよ?

子育ては疲れんだから、少し手伝ってけよ…… 。

父さん…… 。 」


その言葉がどれだけ嬉しかったのか。

赤ちゃんを抱き締めながら、笑いながら泣いていました。

それを前の奥さんと息子と奥さんの三人で、静かに微笑みながら見ていました。

ケンカしていてもみんな、会いたい気持ちは同じでした。


怖くて進めなかった一歩が、洋介の後押しにより上手く進めました。

おじいさんは失った時間を、これから少しずつ取り戻そうと思いました。


「 へっくしゅんっ!! 寒っ。 」


洋介がこっそりついてきていたのです。

もしものときにやけ酒を飲もうと思い、スタンバイしていました。

ですが中からは笑い声しか聞こえない。


「 つまんねぇ! 帰ろっと。

帰ってガキんちょとご飯でも食べようっと。 」


寒そうに早足で帰って行く。

心配は無用だったようでした。

笑いながらおじさんは家に向かいました。

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