第17話 吉良のシナリオ


二人は少し離れた場所にある劇場に到着。

そこでは「 赤毛のアン 」 のミュージカルが行われる。

劇場に入り直ぐに席に向かいました。

沢山の観客席に圧倒されてしまう。


「 S席だから…… あそこかな? 」


そう言いながら案内された席は、他よりも高そうな椅子に少しばかりゆとりがあるスペース。

そして最前列の真ん中。

こんな良い席だとは思っていませんでした。


「 えぇーーっ!? こんな…… 。 」


圧倒され過ぎてしまい言葉が出てこない。


「 ん? もしかしてミュージカルとか初めて?

こんなの普通、普通!

良い作品のときは一流の席で見ないとね。

飲み物買ってくるから待っててね。 」


そう言い飲み物を買いに行きました。

萌は席に座りました。


( ふかふかな椅子…… 。

広い劇場で声が反響しちゃうくらいに大きい。

私みたいなのが来て良かったのかな…… 。 )


やる前から不安になってしまう。

初めてで緊張してしまっている。


その頃、彩芽は劇場に入れず寒そうにしていました。


「 寒い…… ミュージカルって当日券とかないの?

これじゃ私見られないじゃない。 」


こっそり付いてきてついでに、一緒にミュージカルを堪能しようと思っていました。

人気な作品なので予約で完売。

どうしようかと周りを見渡してしまう。


「 えぇーーっ? 嘘でしょ?

ドタキャンとかなくない?

チケット代どうすんのよ! 」


何やら離れた場所からでも聞こえて来るくらいの、大きな声で電話している女性が。

ゆっくりと彩芽は近寄って行く。


「 分かったよ!

あんたとは絶交よ、さようなら。 」


約束をドタキャンされた模様。

怒っている若い女性。

これはチャンス! と勇気を振り絞り話をかける。


「 あの…… チケットが一枚余ってしまったりしました? 」


「 えっ? …… まぁ余っちゃったね。

今から誰かに売るにも時間がないし。

仕方ないよね、勉強代だと思えば。 」


まさに何と言うタイミング。

彩芽は心の中で何度もそう思いました。

初対面の人に話をかけるなんて、大胆な行動をしたのも珍しい。

更に今からそのチケットを貰おうと、どうにか交渉しようと思いました。


「 あ…… あの、もし良ければそのチケット

売って頂けませんか?

ダメです…… よね? 」


恐る恐る勇気を振り絞り、小さな声で言いました。


「 えっ?? 欲しいの?

それは助かるよ。

なら安くして2000円で良いよ。 」


何とも優しい女性。

かなり安く売ってくれる事に。

彩芽は何とも運が良いのでしょう。


「 あああ…… ありがとうございます。

それでは2000円。 」


現金を渡していざ! 劇場へ。

一番安いC席に案内されました。


「 凄い…… 広いなぁ。

映画館とはまた違うんだな…… 。 」


彩芽も初めてで魅了されていました。


「 あなた初めてでしょ?

キョロキョロ見てたら誰でも分かるわ。

私、神宮寺京子じんぐうじきょうこって言うの。

仕事しつつたまに見に来るのよ。 」


京子さんは25歳。

アパレル関係に務めていて、見た目もバッチリ決まっている。

優しく不慣れな彩芽に優しく色々教えてくれる。


「 あ…… ありがとうございます。 」


彩芽は話すのが苦手で、「 ありがとうございます。」 や「 はい。」 「 すみません。」 とかつまらない返答しか出来ない。


それでも京子さんはそんな彩芽に、積極的に話をかけてくれる。

上手く話せないけど京子さんと、楽しい時間を過ごしていました。


そして数分が経って開演。

映画館のように暗くなり、劇団の人が舞台で演技が始まる。


「 わたーー しは、悲しい孤ーー 児。

孤児の赤毛のーー アン。 」


女優さんが会場に響く声で歌いながら演技をしている。

その声量は素晴らしく、見ている人をあっという間に惹き付けました。

普通のテレビで見る映画とは違う。

体を大きく使って表現し、聞き取りやすい声で話す。


( 凄いんだなぁ…… 色んな映画とか見た事あるけど、全く違うのね。

女優さんも良くこんな観客の中で、焦らず演技出来るなぁ…… 。 )


萌は圧倒されてしまいました。

直ぐに隣を見ると、吉良は真剣な眼差しで演技に夢中になっている。


( カッコいい…… カッコいい。

横顔も真剣な表情も全てカッコいい。

こんなイケメンと来られて幸せ…… 。 )


吉良と舞台…… 。

どちらも堪能している。

萌は目を輝かせながら楽しみました。


その頃、京子さんは彩芽を見ると目を大きくしながら楽しんでいる。

クスクスと笑い。


「 舞台って凄い楽しいでしょ? 」


小さな声で話をかけると、何度もうなづきました。

ただのオマケ程度にしか思ってなかったミュージカル。

彩芽も初めてで感動の連続。

飲み物を飲むのも忘れるくらい夢中になっていました。


時間はあっという間に過ぎてしまい、沢山の拍手と共に幕を下ろす。

萌も彩芽も感動しまくりで、沢山の拍手を送りました。


劇場から出ていつの間にか夜に。

時間を忘れさせてしまうくらい、最高なミュージカルになりました。


「 どうだった?

少しは楽しかったかな? 」


吉良がそう言うと萌は喜びながら。


「 凄い楽しかったよ。

本当にありがとう。

最高な時間だったよ。 」


嫌な事が続いていましたが、今日はそんな事を忘れて楽しめました。

笑顔で何度もお礼を言う。


「 そうか、それは良かったよ。

なら時間も遅いしそろそろ行こうか? 」


二人はバス停でバスが来るのを待ちました。

通りすぎる車のライトで照らされる吉良は、また一段と格好良く見える。

まるでスポットライトにも匹敵している。


( ふあぁ…… 幸せぇ…… 。

吉良君は楽しかったのかな?

退屈じゃなかったかな?

全然上手く話せなかったし。

そもそも何で私なんか誘ってくれたのかしら? )


沢山色々な思考が頭の中を回る。


「 あの…… 吉良君は楽しかった?

私なんかと来て退屈じゃなかった? 」


恐る恐る聞くと吉良は鼻で笑いました。


「 退屈だったら一緒に帰ってないよ。

僕は凄い楽しかったよ。

藤堂さんはどうだった? 」


「 私は楽しくて楽しくて。

連れて来てくれて本当にありがとう。 」


不安が消えて萌は幸せでいっぱいに。

良い雰囲気になる。

吉良はゆっくりと顔を近づける。


( えぇっ!?? いきなり何を!?

まだ心の準備が! リップも塗ってないし!

ちよっ!! 待って!! )


いきなりの事に慌ててしまう。

そしてゆっくりと手を顔に近づける。


「 ゴミついていたよ。

風吹いてるからね、早く帰らないとね。 」


ゴミを取ってくれただけでした。

勘違いして心臓は高鳴り、爆発寸前になっていました。


「 あっ、ありがとう。

全然気にしなくて良いのに! 」


平然を装いながら顔は真っ赤に。

吉良は表情一つ変わらなくニッコリしている。


「 あーーっ! 危ない!!

何て変態な男なの!

誰も見てないと思って…… ぶつぶつ…… 。 」


当然バス停の近くから二人を監視している彩芽。


「 ねぇねぇ? 何でこっそり見ているの? 」


京子さんも何故か気になり付いて来ている。

彩芽と仲良くなっていたようです。


「 京子さんは何にも分かってない。

萌ちゃんに悪い虫が付かないか、私がこっそり見張ってるの。 」


バレないようにそわそわしながら見ている。


「 うふふ、本当面白い。

今日はドタキャンされて良かった。

彩芽に会えたんだからね。 」


京子さんは嬉しそうに言いました。

彩芽は頬を赤らめてしまう。


「 これ連絡先ね、またどっかに行こう。

私達友達だからね。 」


彩芽に一人友達が出来ました。

性格は正反対でも意気投合出来て、良い1日になりました。


一緒にバスで帰り、家の近くで降りる萌。


「 今日は楽しかったよ。

またどっかに行こうね、またね! 」


ゆっくりと扉が閉まる。

見えなくなるまで吉良は手を振っていました。

萌もずっと手を振りました。


「 はぁーー …… 。 楽しかった。

本当に楽しかったなぁ。 」


立ち止まって夜空を見ている。

ドキドキな初デートを堪能しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る