第15話 デートの予感


新しい生活と学校生活にも慣れ、萌は少しずつ普通の生活に戻りつつありました。


( こうやって勉強して、終わったら家で家事をする。

ママが居た頃は手伝う程度だったけど、今は生きる為にしなくちゃならない。

あんなおじさんと暮らしてるから。 )


分かっていた事だけれど、改めて考えると悲しく感じました。

おじさんの事は最初は嫌いでしたが、今は少しは好きなっている。


思春期の女の子には荷が重いくらいの、悩みが沢山ありました。

黒板を見ながら考えずにはいられない。

楽しい事があっても、いつも不安と悩みが頭を過ってしまう。


休め時間になり自動販売機で飲み物を買う。

今日の頭には糖分が足りてないので、イチゴオレにする事に。

ボタンを押すと残り1つで、販売停止の文字が浮かび上がりました。


( やったーー 。 ラッキー!

最後の1個だったんだぁ。

今日は何か良いことありそう。 )


少しの喜びですが萌は、前向きに喜びました。


「 運が良いんだね。

最後の1個だったかぁ…… これは残念。 」


声がして振り返るとそこには、学校一イケメンのモテモテ吉良清十郎が立っていました。

いきなりの登場に驚いてしまう。


「 きっ…… 吉良君!

イチゴオレ好きなの?? 」


「 うん、頭を使いすぎたときとかに飲むよ。

糖分は摂りすぎも良くないけど、摂らなすぎもダメなんだよね。

人間って色々大変だよね。 」


笑う吉良は相変わらずの美形。

周りの女の子を釘付けにしてしまうキラースマイルに、萌も今日もメロメロに。


「 良ければどうぞ。

私は今日イチゴオレの気分じゃなくて。 」


咄嗟とっさに嘘をついてしまう。

好感度を上げたくて勝手に口が動いてる。


「 でもこれ…… 藤堂さんのでしょ?

貰ったら悪いよ。 」


遠慮している姿も格好良く、無理矢理イチゴオレを手渡しました。


「 良いんです、良いんです。

私は別の飲みますから。

つまらないモノですがどうぞ。 」


強引に渡すと吉良は遠慮しながらも受け取りました。


「 ありがとう、助かるよ。

何かお礼をしないとね。

そうだ、今度の日曜日空いているかい? 」


「 えっ!!? いきなり!

全然あ、あ、空いてますけど!? 」


急な質問に慌ててしまう。

クスクスと笑いながら吉良はポケットから、1枚のチケットを手渡す。


「 母さんがミュージカルのチケットをくれたんだけど、これ2枚あるから2人で行かないかい?

もし良ければなんだけど。 」


ピューーーーンっ。 ドカーーンッ!!

萌の頭の中で大きな花火が鳴る。

幸せ過ぎて何も考えられなくなってしまう。


「 藤堂さん? 大丈夫??

無理だったら別に良いからね? 」


我に返り、直ぐに大きく首を振る。


「 全然、全然!

毎日暇で暇で仕方ないです。

喜んで行かせて頂きます。 」


大喜びでチケットを見て喜ぶ。

吉良はニッコリと笑う。


「 良かった、じゃあ日曜日の午後1時に、近くの公園で待ち合わせしよう。」


と日曜日の待ち合わせをして吉良は教室へ戻って行く。

萌はチケットを見詰めて立ち止まっている。


するといきなり横にひょこっと現れる。


「 萌ちゃん、やるねぇ。

いつの間にそんな仲になったのかなぁ? 」


ずっと近くで見ていた彩芽。

ニヤニヤと笑いながらくっついて来ました。


「 ちちち、違うのよ。

ただのお礼って、何もそんな良からぬ事考えてなんていません。

ただのミュージカル鑑賞に行くだけです。

うん、そう…… そうなのよ、それだけ。 」


彩芽はクスクスと笑っている。

萌は嘘をつく時全力で否定する癖がある。

見ると笑ってしまう。


「 はいはい、そう言う事にしましょう。

終わったら電話で感想聞かせてよね。 」


笑いながら教室へ戻って行く。

必死に萌も追いかけて行きました。

萌にも幸せな日がやっと訪れる。

離れた所でまた1人聞いていた人が。


「 チッ、つまんねぇ話聞かせやがって。

にしても…… 吉良があの女が好きだとはね。

そう言うの興味ないのかと思ってた。 」


朝倉が聞こうとはしてませんでしたが、デートの話を聞いてしまいました。

何故かイライラしながら保健室へ歩いていく。


その日の夜。

おじさんはいつものように帰宅。

重い足で階段を上がって行く。


「 ただいまぁ。 」


入ると良い匂いが部屋中に広がっている。


「 クンクン…… 凄い良い匂いだ。

何作ったんだ? 」


テーブルには手の込んだ料理の数々。

かにクリームコロッケやサラダに、クリームシチューと男の大好きな食べ物が沢山。


「 うっひょぉーーっ、 今日って何の日? 」


萌は自分の部屋で鏡を見ながら服を合わせている。


「 なんでもないと思うよ…… 。

んーーっ、こっちかな? それともこっちかな? 」


デートまではまだ日にちがあるのに、今からデート用の服を選んでいました。

部屋には沢山服が散乱している。


「 バクバクッ!! ムシャムシャ…… 。

これもうまいっ! これも!

最高だわぁーーっ。 ビールはある? 」


テーブルの料理を堪能している。

萌はご飯所ではありません。


「 冷蔵庫に入ってる!

適当に食べててよ。

こっちは忙しいんだから。 」


おじさんは口に料理を大量に含みながら、冷蔵庫を確認しに行く。


「 うおっ!! 海外産のビール。

たまには海外に浸るのも良しか。

最高っ!! ぐびっ、ぐびっ、ぐびっ!

うめぇーーーーっ!! 」


瓶から直接飲みながら、生きている実感を味わっていました。

軽く涙まで流している。

相当美味しくて手が止まらない。


萌は吉良に誘われたのが嬉しくて、いつもより手が込んだ料理を作っていました。

嬉しいとその喜びを分けたくなってしまう。

それが彼女らしい所。


「 もぐっもぐっ…… にゃんで、そんな服ばかり選んでるんだ?? 」


口をもぐもぐさせながら聞きました。


「 ちょっと日曜日出掛けるから、恥ずかしくないように選んでるの。

どれが良いかなぁ? 」


色んな服を見せられても、おじさんにはどれも同じに見えてしまう。


「 ん…… どれでも良いと思うけど。

そんな事よりそこの肉じゃが食べてもいい? 」


「 男っていつも適当なんだから!!

勝手に食べなよ。 」


男には女の子の悩みは到底分かりません。

それでも関係のないおじさんは、一番喜んでいるのかもしれない。


その頃、夜の駅前のカラオケ店には吉良の姿がありました。


「 吉良君ーーっ! 」

「 どんな子がタイプなの?? 」

「 私は吉良君の彼女になりたいな。 」


数人の女の子とカラオケに来ていました。

吉良は退屈そうにしている。


( つまらない…… 気品もないやつばかり。

顔だけで選ぶとこんなもんか。

そう言えば藤堂さんと日曜日デートか。

顔はトップクラスでスタイルも良し。

頭も俺に少し劣っているが申し分ない。

暇潰しにはなるかな。 )


足を組ながら不適に笑う。

周りの女の子達は吉良に夢中に。

そんなのにはお構い無しの吉良。

謎の多い吉良清十郎…… 。

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