第14話 後輩
おじさんの目の前に朝倉が立っていました。
今日から一緒に働く事に。
何と言う運命のイタズラ。
「 高校生だから遅くならない内に上げてくれ。
赤沼! お前が教えてやってくれ。 」
マネージャーからおじさんに指導係を頼みました。
おじさんは相変わらず面倒くさそうにしながら、仕事場へ向かいました。
「 じゃあ…… このモップ持て!! 」
そう言い朝倉にモップを手渡す。
「 これで隅々まで綺麗にする。
分かったな? 」
そう言いおじさんは掃除する部屋を分けてやることにしました。
おじさんはいつも通り黙々とモップで床を綺麗にする。
朝倉も任された部屋を掃除する。
( ったく…… 面倒くせぇガキの担当にされたな。
早く終わらせてゆっくりしてぇな。 )
舌打ちしながらモップをかける。
朝倉を見ると意外にもちゃんとやっている。
おじさんもちらちら確認すると、しっかりやっていて感心する。
でも拭き方が全然なっていない。
「 おいっ! ガキ!
全然なってないな。
モップってのはな? 腰入れてやるんだよ。
ほらっ! こうやってだなぁ。 」
とおじさんが拭き方を見せました。
朝倉は黙って見ている。
教え終わると朝倉は同じようにかける。
腰を入れて力強く。
( このクソガキ…… 愛想悪いくせして、言われた事はしっかりやるのな。
仕事とプライベートをしっかり分けるタイプか。 )
朝倉のような仕事とプライベートを分けれる男は、嫌いではありませんでした。
少し嬉しくてニヤりと笑う。
意外にもしっかりやっていたので、あっという間にビルの一室を終わらせました。
むしろおじさんの方が不真面目なくらい。
汗をかいたので朝倉はタオルで汗を拭く。
「 ほらっ! 」
缶コーヒーを投げて朝倉は受けとる。
「 しっかり休んどけ。
まだ終わってねぇからな。 」
そう言いおじさんは外に一服に。
朝倉は缶コーヒーを飲んで嬉しそうに笑う。
こんなに素直で仕事をする朝倉は、誰も見たことがないでしょう。
そのあとに夜まで掃除は続く。
黙々と何階もあるビルを掃除する。
「 ちょっとはやるじゃねぇか。
続きそうか? 」
おじさんが話をかけると手を止める。
「 …… やるよ。
俺に出来る仕事なんて全然ないし。
雇って貰ったのだって初めてだし。 」
朝倉は悲しそうに言いました。
自分に自信がないのだろう。
おじさんは笑いながら朝倉の肩を叩く。
「 だからまだまだガキなんだよ。
仕事ってのはな、出来る事を一生懸命やれればそれで良いんだよ。
やれる事が少ない? 頭が悪い?
そんなん関係あるか。
やるかどうか…… じゃないか? 」
そう言い仕事に戻りました。
朝倉は上がりなので仕事終えて帰りました。
朝倉は人からバカにされるのが当たり前で、評価された事はありません。
頑張っていたのをちゃんと見ていてくれた。
それだけで嬉しくてたまりませんでした。
朝倉の初めてのバイトは疲れましたが、良いこともあって終わりました。
おじさんはその後も仕事をしてから、ゆっくりと家に帰りました。
家に着くと萌が帰りを待っていて、ご飯の支度もしてありました。
「 お帰り、ちょっと聞いてよぉ。 」
萌はイライラを溜めて待っていました。
おじさんはタメ息を吐きつつ中へ入る。
「 ただいま…… で、何があったんだ。
食べながら適当に聞いてやるから。 」
仕事で疲れていて面倒くさいはずの、無駄な世間話が何故か気にならない。
学校でのどうでも良い話…… 。
おじさんは面倒くさそうに振る舞っていますが、少し楽しくも感じていました。
( 何でだろう…… 当たり前だった生活を
満更でもなくなっている。
俺は話し相手が欲しかったのだろうか? )
おじさんは葛藤していました。
孤独を愛していたはずなのに、今は話をするのが当たり前。
ぽっかり空いたピースがはまったような気持ちに。
「 って言うか聞いてんの?
さっきからこっちが真面目に話してんのに。 」
上の空のおじさんを叱る。
真剣に今日の学校での出来事を話しているのに。
「 あぁ…… 悪かったな。
ちゃんと聞いてるよ。
その不良がお前に文句言ってきたんだろ? 」
今日の朝倉との揉め事を、必死に語気を荒くしながら話しました。
相当イライラしていたのだろう。
「 まあまあ…… 不良ってのは、いつでも女の子をいじめるって決まってるから。
もしかしたら…… その不良はお前の事好きなのかもよ? 」
おじさんが冗談っぽく言うと、勢い良く立ち上がりました。
「 はぁ!? バカじゃないの?
相談した私がバカでした。
寝まぁーーすっ!! 」
怒って自分の部屋へ行ってしまいました。
勢い良く扉を閉めて、ビシャッ! と音が鳴り響く。
「 何だよ…… あるかも知れないだろ。
だから女ってのは…… 。
そう言えば今日のバイト…… 名前なんだっけ?
忘れた…… ま、いっか! 」
おじさんは人の名前を覚えるのが苦手。
今話していた不良と同一人物なのも、分かるはずもありません。
その事実を知るのは、もう少し先になりそうでした。
朝倉は家に帰ってゆっくりしている。
「 恵、今日バイトだったのかい? 」
朝倉のお母さんが朝倉にバイトの事を聞く。
そこの家は萌の住んでるアパートと、同じくらい狭く古い部屋でした。
「 うるせぇよ…… 早く寝ろよ。
明日も早いんだろ。 」
朝倉家は朝倉とお母さんの2人暮らし。
お母さんは近くの定食屋で、朝早くから一生懸命朝倉を育てる為にも働いている。
そんなお母さんを楽にしてあげたくて、少しでも良いから働こうと思い、バイトを始めようと思いました。
たった2人の家族…… 支え合わなければいけません。
「 そうかい…… 私の為にバイトしなくて良いんだからね?
お母さんはまだまだ全然働けるんだか…… 。 」
「 うっせぇんだよ!! 黙ってろ!
俺が勝手にやってんだ。
横からグチグチ言うなよ。 」
朝倉はまだまだ反抗期。
心配していても素直に言えるような、大人ではありません。
なのでいつも強く当たってしまう。
お母さんは優しい朝倉の気持ちは、当然良く分かっていました。
バイトが受かって働いている。
それが大人への一歩で、凄い嬉しくて笑っていました。
朝倉はバイトを多めに入れて貰っていました。
少しでも力になる為に。
次の日…… 朝倉は学校へ行き、また直ぐにバイトへ向かいました。
おじさんとはシフトが合わなくて違う人と働く。
必死に窓を拭いたり、床を流したりと忙しい。
覚える事も沢山あります。
メモを取りながら頑張っている。
意外に真面目な一面も。
するとビルから仕事の出来る男が、電話をしながら目の前でゴミを落として行きました。
朝倉はバイトを下に見て、掃除してろ!
と言わんばかりに雑に捨てて行きました。
( キレてぇ…… なめやがって。
バカにしやがって…… 。 )
握り拳を強く握り、歯を噛みしめている。
いつもなら直ぐに殴ってしまうので、問題を起こさない為に必死で我慢しました。
「 朝倉君だったかな?
良く我慢出来たね、偉いぞ。 」
笑って近寄って来たのは、道楽で働いていると思われているおじいさんの先輩でした。
「 いえ…… 。 」
愛想悪くボソっと声を出しました。
「 キミはウチで働いているバカにそっくりだね。
私がしっかり教えてやろう。
宜しくなぁ。 」
おじいさんはそう言い仕事へ戻る。
朝倉はイライラしながらも、必死で働くのでした。
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