第13話 苛立ち


朝倉恵、クラスの番長的存在。

何でも大袈裟に騒ぎ、勉強は嫌い。

体格も大きく態度までデカい!

ご飯も大食いしてしまうお腹。


いつも遅めの登校。

先生がうるさいので出来るだけ遅刻はしない。

母子家庭なので家にお母さんはあまり居ない。

いつも家族の為に毎日頑張っている。

その寂しさを埋めるかのようにケンカをしたりと、毎日を荒れて過ごしていました。


「 恵さん、恵さん。

聞いてますか? 聞いてますか? 」


子分が話をかけている。


「 何だよ、うるせぇな。 」


窓を開けて座っている。

まるで猫のような男。


「 藤堂萌が可愛いって話ですよ! 」


子分は興奮しながら話していました。


「 そうですよ、隣のクラスでも可愛いって良く聞きますよ。

頭も良くスタイル抜群!

優しくて彼女にしたい女No.1!! 」


もう1人の子分も負けず劣らず興奮している。


「 それがどうしたんだよ。

あんな頭の良い女はな?

俺達みたいのをバカにしてんだよ。 」


そう言いながら萌を見ると小説を読んでいる。


「 そうですかね?

俺達が困ってるときも、変わらずに助けてくれるし優しいですぜ?

バカにしてるとは到底…… 。 」


子分の話を聞いても納得はしない。

朝倉には悲しい過去がありました。


中学の時にはもう不良で荒々しい学校生活。

勉強している生徒の邪魔だけはしないようにしていました。

学校帰りの日の事。

朝倉は公園のベンチで寝ていると、女の子達の声が耳に入って来ました。


「 朝倉君の事ってどう思う?

私は嫌いなんだよね。 」


( 朝倉…… 俺の事か!? )


直ぐに起き上がり声の方を見る。

そこにはクラスメイトの女の子2人が居ました。

1人はお喋りな女子。

もう1人は昔からの幼なじみの秀才。

優しくていつも笑っている子でした。


「 朝倉君? 私も嫌いだよ。 」


幼なじみの女の子はそう言いました。


( えっ…… ? 嘘だろ…… ? )


朝倉は呆然としてしまう。

ケンカをしたりと悪い事はしていました。

だからと言って真面目に生活をしている人に、迷惑をかけた事は1度もありません。

しかも幼なじみの女の子なら分かっているはず。


「 学校では優しくしてあげてるけど、ああ言うヤツと同じクラスなだけで受験に響きそうで嫌!

ケンカとか底辺の生き物。

バカもろだしって感じ。 」


優しい幼なじみからとは思えない言葉の数々。

本音と言うのは分からないものです。

朝倉は木に隠れて見えなくなるまで、話を聞いていました。


( そうだよな…… 不良だもんな。

端から見たら最底辺…… 。

見てて虫酸むしずが走るよな。)


悲しそうに木を強く殴りました。

その日から朝倉はもっと荒々しさを増しました。

他人からの目を気にしなくなりました。

不良として再確認する切欠に。


と朝倉は萌を見ながら昔の事を思い出していました。


「 ああ言うの見てるとなぁ…… 。 」


急にイライラしながら萌の元へ。


「 おいっ!! 」


萌の前に立つと萌は本を読むのを止める。


「 えっ? 何かしら? 」


その怖い顔に負ける事なく聞き返す。

動じない姿もかんに障る。


「 本ばっか読んでんじゃねぇーーよっ! 」


勢い良く本を叩いて弾き落とす。

周りの声が止み、静かな沈黙が起こる。


「 お前みたいなヤツが1番イラつくんだよ。

頭良いぶってよ…… バカにしてんじゃねぇぞ? 」


こんなに怒るはずではなかったのですが、態度に腹が立ってつい、手が出てしまいました。


「 頭良いぶってなんかいないよ?

私は頭が良い悪いなんかで、人の価値は決まらないと思ってる。 」


その目は嘘偽りのない言葉で、真っ直ぐ朝倉を見ていました。

その真っ直ぐな眼差しが心に突き刺さる。


「 俺には分かるんだよ…… 。

おめぇみたいなやつが考える事なん…… 。 」


「 良くないなぁ…… 争いは。 」


朝倉が話してる途中で大きな声を出し話を中断させてしまう。


「 本を読んだり書いたり出来るのは、人間だけの最大の特権の1つさ。

あまり問題を起こすなよ、朝倉。 」


そこに現れたのはイケメン秀才の、吉良君でした。

クラスの女子達はその格好良い登場に、キャッキャッとしてしまう。


「 吉良! おめぇには関係ないだろ。

俺はこいつに用があって。 」


「 用だって? なら僕に言ってくれるかい?

キミの相手は彼女には荷が重すぎるからね。 」


番長が殺気立っているのに、全く動じずに顔を合わせている。

面倒になり朝倉は近くの机を蹴り、教室から出ていってしまう。


「 …… つまらないな。 」


ボソっと一言言って落ちた小説を拾いました。


「 大丈夫かい? 大きな声が聞こえたから飛んできたんだよ。

はい、小説落ちてたよ。 」


そう言って汚れた小説を自分のハンカチで拭いてから、萌に手渡しました。

萌はそのクラス1格好良い行動にメロメロになってしまう。


( ヤバ過ぎっ!! カッコいい!

もおーー 最高!! )


頭の中は興奮しっぱなし。

周りはボヤけながら吉良しか見えなくなる。


「 ああ…… あり、ありがとう。 」


全然上手く喋れない。

好きな人の前ではそう言うものです。


「 大した事してないさ。

何かあったら直ぐに言いなよ? 」


そう言って席に戻りました。

格好良い男は去って行く姿も格好良い。

クラスの女子達は釘付けに。

ですが彩芽だけは全く動じず、萌の事だけを気にして駆け寄る。


「 大丈夫…… だった?

怖かったね、萌? 」


反応しないので顔を覗き込むと、萌は吉良しか見えなくなっている。

絡まれた事より吉良の紳士行動の事で、頭がいっぱいになっている所を見て、呆れてタメ息をついてしまう。


「 本当にイケメンに弱いんだから。 」


苦笑いしつつ萌をそっと椅子に座らせました。

座らせられた事により、正気に戻りました。


「 あれ? 彩芽っ?

一体何がどうしたっけ? 」


恋してしまうと周りが全く見えない。

呆れながらもそんな萌が可愛く思ってしまう。


「 はいはい、後で話そうね。

授業始まるからね。 」


直ぐに鐘が鳴り授業が始まる。

朝倉は教室には戻って来ませんでした。


夕方になりおじさんは相変わらず、ビルの掃除をしていました。

モップがけして広い床を磨き上げる。


「 うぉーーいっ! 少し一服しないかい? 」


先輩のおじいさんが一休みしようと、コーヒーを買って来てくれました。

お辞儀をして仕事を切りの良いとこで終えて、2人は休憩する事に。


「 どうだ洋介、最近はお父さんやれてるか? 」


おじさんはコーヒーを飲みながら少し考える。


「 そうだなぁ…… 全然。

ただの同居人だ、何もしてやらん。 」


冷たいようにも見えますが、おじいさんは直ぐにその言葉の意味が分かりました。

ふれあい方が分からないのだと。


「 そうか…… まだなったばかりだ。

何も気にする必要はない。

ゆっくりで良いんだ。 」


おじいさんは自分の子供のように、おじさんを可愛がりました。

不器用なりにも少しずつ成長するおじさんを見守っていました。


「 おぉーーいっ! 新人が来たから挨拶してくれ。」


仲間に呼ばれて二人は直ぐに向かいました。

アルバイトが自己紹介に。

マネージャーからアルバイトを連れて立っている。


「 今日から入って貰う。

さぁ自己紹介をしてくれ。 」


「 初めまして、朝倉…… 恵です。

宜しくお願い致します。 」


また運命の歯車がイタズラをする。

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