第12話 恋心
彩芽を救ってくれたのは、何故かおじさんの姿がそこにありました。
「 おっさんは割り込んで来んなよ!
この女がぶつかってきて落とし前を。 」
スキンヘッドの男は怒りながら話しました。
語気は荒く、いつ飛びかかって来てもおかしくないくらいに。
「 だからおめぇらはいつまで経っても、ガキから卒業出来ねぇーんだよ。
女が謝ったら許す、それが男の務めなんだわ。 」
タバコを吹かしながら偉そうに話している。
彩芽はおじさんの後ろからずっと見ている。
「 安いいちゃもんつけたきゃ俺に言えよ?
さぁ…… かかって来いよ? 」
安い挑発をし始めて相手から目を放さず見ている。
その鋭い眼光を向けられて、不良の二人は面倒臭くなってしまう。
「 あーー 面倒臭いわ!
一人でやってろよ、おっさん!! 」
そう吐き捨てて走って行ってしまいました。
野次馬もゆっくりと離れて行く。
彩芽の震えも少しずつ治まり、ゆっくりと口を開く。
「 あ…… あの…… 先程は助けて頂き、本当に本当にあり…… あり。 」
まだ緊張しているのか?
呂律はしっかり回らず、カチカチになっている。
「 ん?? 気にする事ないさ。
俺もシュークリームの列並んでたんだよ。
偶然買った後の帰り道が一緒だったから、たまたま目に入っちまったのさ。 」
そう言いながらしゃがんで、彩芽のシュークリームの箱を手に取る。
「 あちゃーーっ…… 中身グシャグシャだわ。
ペロリ! うん、 味には全く支障はないな。 」
グシャグシャになった彩芽のシュークリームを、勝手に味見をしました。
「 折角うまいもん食うなら、やっぱりキレイなの食いたいよな。 」
そう言いながらおじさんは自分のシュークリームの箱を手渡しました。
「 これと交換な!
メニューに悩んでたから、若いお嬢ちゃんの参考にして同じのにしてたんだ。
だから個数も同じでシュークリームも同じ。 」
そう言って笑いました。
彩芽は何がなんだか分からず慌てて返そうとする。
「 だだだ…… ダメです…… 。
こんなの頂けま…… せん。
助けてくれたのに…… シュークリームまで。 」
必死に悪くて返そうとするも、おじさんは直ぐに立ち上がりタバコを吹かす。
「 男は一度渡したもんは受け取らないんだわ。
うまいらしいから大事に食べろよ?
しっかり前見て帰りなよ! 」
そう言って早歩きで帰ってしまいました。
呆然と一人しりもちを着いている。
何分か過ぎ、ゆっくり立ち上がりシュークリームを片手に歩きました。
絡まれたりと助けて貰ったりと、感情の変動に対応しきれずにいました。
夜遅くなる前に帰って来て、ゆっくりと階段を上り自分の部屋へ。
色々疲れたのか? 私服のままベッドへダイブ!
まだ色々頭の中は困惑して疲れていたのか?
ゆっくりと眠りにつきました。
夜勤を終えておじさんは夜中に帰宅。
家はまだ明かりがついている。
「 ただいまぁ。 」
寝ていると思い、小さな声で言うと。
「 お帰りなさい、ご飯ならテーブルにあるからね。
食べ終わったら台所に片付けてね。 」
萌はまだ起きていました。
奥の部屋で遅くまで勉強をしていたのです。
「 まだやってたのか…… 。
夜勤は帰って来るの遅いんだから、わざわざ起きて待ってなくて良いんだからな? 」
気を使って起きてたと思い、気を使わないで良いと言いました。
「 少し勉強したくて起きてただけだから、もう少ししたら寝るから大丈夫!
ん?? その箱はなに?? 」
おじさんが持っていたのはシュークリームの入った箱でした。
直ぐに冷蔵庫に入れました。
「 美味しいお菓子屋で買ったやつ。
起きてからでも食べな。
俺はくたびれたから風呂。 」
そう言いながらお風呂に入りました。
美味しいお菓子屋と聞くと気になり、萌は寝る前に見ようとキッチンへ。
ゆっくりと箱を開ける。
「 んっ!? 何これ? 」
彩芽が落としたりおじさんの扱いが悪かったので、中身はぐちゃぐちゃになって原型が分からなくなってしまっている。
( これが美味しいやつ…… 。
絶対扱いが悪かったに違いない。
あまりスイーツには詳しくないから、こんなぐちゃぐちゃだと何なのかも分からないなぁ。
一口味見…… 凄い美味しい生クリーム!
もうちょっとだけ味見っと。 )
何なのか分からないスイーツを、沢山味見してしまう。
どんな形でも美味しいのでした。
次の日の朝…… 。
彩芽は起きると帰って来て直ぐに、寝てしまった事に気づきました。
直ぐにシャワーを浴びて学校の準備をする。
早めに起きたのでいつもより時間に余裕があり、少しだけ行くまでゆっくり。
朝食を済ませてから冷蔵庫を開けると、昨日買ったシュークリームを見つける。
取り出して食べる事にしました。
「 …… 今はそんな気分じゃないけど、早めが美味しいからね。
いただきまぁーーす。 パクっ!」
食べると凄く美味しい。
そして同時に何か心残りと言うか、何かモヤモヤした気持ちもある。
食べながら何度もその違和感を探すと。
「 モテない男は心が狭いんだよ。
ぷふぁーーーっ! 」
おじさんに助けて貰った事を思い出しました。
その瞬間少し恥ずかしくなる。
( そうだった…… 。
昨日色々あったんだった。
にしてもあのおじさん…… 格好良かったな。
渋くて大人で…… そんでもってタバコ片手に、あの悪そうな人達を一人で相手にしても、全く臆する事なく立ち向かってた。
沢山通行人とか野次馬は居たのに、あの人一人が勇敢に立ち向かってた。
格好いい…… 。 )
彩芽はあのおじさんに一目惚れをしてしまっていました。
少し暗かったのもあって、顔は三割増しくらい改変されて覚えている。
人の記憶は曖昧なもの。
なんて事考えている間にも時間は過ぎ、直ぐに学校へ猛ダッシュして行きました。
ギリギリ間に合い、チャイムと同時に教室に入る。
息を切らしながら少し汗もかいてしまっている。
「 大丈夫?? ギリギリなんて珍しい! 」
とっくに着いていた萌が気になり声をかける。
「 だ…… 大丈夫…… はぁはぁ。
色々考え事しちゃってて。 」
ハンカチで汗を拭きつつ先生が来るまでに準備をする。
直ぐに先生が着き、ホームルームが始まりました。
休み時間になり、直ぐに萌がやって来ました。
「 考え事ってなになに??
気になるじゃない。
教えてよーー、もしかして…… 恋の悩み? 」
直ぐにバレてしまいました。
全力で否定しつつ大きく罰印を手で作って見せる。
「 違う、違う、本当に違うんだからね??
何にもないない、本当なんだからね? 」
必死に否定している彩芽は可愛く、萌はクスりと笑いました。
「 ぷぷっ、そんな全力で否定しなくても良いのに。
昼休みに詳しく聞かせてよね。
私が相談に乗ってあげるから。 」
そう言い席に戻っていく。
彩芽は人の事が言えないくらい、嘘が下手なのを実感する。
( 萌に言われるとは思わなかった。
まぁいっか! 昼休みに沢山話そうっと! )
隠さずに相談に乗って貰おうと思うのでした。
昼休み…… 屋上で二人お弁当を食べながら、昨日起きた出来事を話しました。
萌は深々と頭を何度も縦に上下しながら聞きました。
「 ふむふむ…… 何て良い人なの!
タバコ吹かしてるのは頂けないけど! 」
萌も深く共感しました。
でもその男性がおじさんとは全く知りません。
知っていたら同じ事は絶対言わないでしょう。
「 でしょでしょ??
しかも何処かの作業着? みたいの着てて、凄い顔は渋くて格好良くて。
私…… ちゃんとお礼も言えなくて。
また会えるかなぁ?? 」
不安そうにしている彩芽の肩にそっと手を乗せる。
「 大丈夫! また会えるよ。
そんな素敵な人に私も会いたいな。 」
萌は妄想を膨らませている。
「 へっくしょいっ!! 」
その頃おじさんは、寝ながらくしゃみをしていたのでした。
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