第11話 彩芽の苦悩


毎朝の学校への登校。

雨の日も風の日も、暑い日でもお構い無し。

毎日行かなければいけません。

今は11月の冬。

朝は特に冷え込んでいて大変。


「 ご飯用意したから行ってくるね?

早く起きるんだよ! 」


萌が規則正しく起きて登校していく。

おじさんは今日は夜勤だからと言って、夜中まで映画を見たりお酒を飲んだりと大盛り上がり。

当然朝も起きれません。


「 むにゃむにゃ…… 真面目ちゃんは行ってらっひゃい。

俺は夕方からだから、また寝てて良いんで…… 。

くぁーーっ、くぅあーーっ! 」


大きな口を開けてイビキをかいている。

一人を満喫するのでした。


萌は寒いなか自転車を漕いでいく。

向かい風のせいで全然進みません。


( ふぅいーーっ!! 寒っ!!

学生より楽してる大人って良いの?

絶対不公平よ。 )


寒そうに息を白くしながら漕いでいく。


少し進むと人陰が見えてきました。


「 萌ちゃーーんっ! 」


彩芽が行く途中で待っていました。


「 彩芽ちゃん、おはよう!

寒いのに待っててくれたの? 」


寒そうに頬を赤らめていて、長い間外に居たのが直ぐに分かりました。


「 全然ーーっ。 今来たとこだよ。

さぁ行こうっ、行こう! 」


絶対嘘だと思いましたが、彩芽の優しい嘘を信じて一緒に歩きました。

萌はそんな優しい所も大好きでした。


「 萌ちゃん…… 聞いて聞いて??

昨日の夜雑誌読んでたんだけどね。

それによると今月の運勢はねぇ…… 。」


彩芽は占いや運命とかが大好き。

ドラマとかをいつも本気で見ている。

萌は占いも運命も信じていない。

でも信じていて一生懸命なのを見るのは大好き。

バカにしているのではなく、心が純粋なんだと思うからです。


「 絶対当たらないよーーっ!

この前だってハズレたじゃない。

次の占いに乗り換えなよ。 」


くすくす笑いながら言いました。

大きく頭を横に振りながら否定してくる。


「 この前は仕方ないのよ。

今回は本当に本当、絶対当たるんだから。

運命的な出会いがあります。

そのチャンスを見逃さないように…… 。

だって! ヤバイよね?

細森純子の占いは当たるんだから!! 」


有名占い師の細森純子。

若い子はこの占い師に夢中。

恋愛運まで分かってしまい、結婚に導いた女性の数は山ほどいるらしい。

萌は胡散臭いと思っている。


「 程々にしなさいよ。

じゃないとハズレた時のショック凄いんだから。 」


「 絶対に当たるのにぃ…… 。 」


萌が全然興味を示さないので、消化不良になってしまう。

その後も雑誌の話やテレビの話をしながら、学校まで楽しく歩いていきました。


いつものように授業を受けて、嫌な勉強に悪戦苦闘。

彩芽は萌のように頭が良い訳ではありません。

覚えるのも人一倍かかってしまう。

なので授業に付いていくのでやっと。


( はぁ…… いつも難しい。

家で復習しても付いて行くのがやっとで、先生に何時指されても良いように、出来るだけ分かるようにしとかなきゃ。 )


彩芽は人前で話すのが苦手。

直ぐに緊張してしまい、思うように話す事が出来なくなります。

話せる人も萌以外はほとんど居ない。


先生は数学の答えを誰かに聞こうとしている。

周りを見渡して誰にしようか探す。


( 来るな…… 来るな…… 。

この答えは分からないんだよ。

早く違う人を指してくれぇ…… 。 )


目が合わないように下を向いている。


「 じゃあ…… 彩芽。

この答え分かるかな? 」


指さないで欲しいと思っていると指されてしまう。

これは学校あるあるの一つ。

慌てて周りをキョロキョロ見て動揺してしまう。


「 あああ…… あの…… あの。

答えは…… 答えは、えっと…… その…… 。 」


顔を真っ赤にしながら焦り、何も考えられなくなってしまう。

周りからはクスクスと笑い声が聞こえて来る。


( これだよ…… これが嫌なんだよ…… 。

直ぐにみんな笑う…… 帰りたい。

帰りたいよぉ…… 。 )


彩芽は逃げ出したい気持ちでいっぱいに。


「 (2x-9y)…… 。 」


隣から答えらしき声が聞こえて来る。

とっさにその声に従う。


「 …… (2x-9y)。 」


恐る恐る言うと先生はニッコリ笑う。


「 正解っ!! やるじゃないか。

これは結構難しい問題だったんだぞ。

みんな拍手っ。 」


周りからは拍手されてゆっくり椅子に座る。

ゆっくり深呼吸をして落ち着く。

直ぐに隣を見ると、萌はニコニコしながら黒板を見ている。


( あっ…… 萌ちゃんか!

絶対そうだ…… 女の子の声だったもん。 )


直ぐに萌のお陰で正解出来たのが直ぐに分かる。


「 ありがとう…… 萌ちゃん。 」


小声でお礼を言うと萌は前を見ながらピースする。

萌に感謝の気持ちでいっぱい。

それと同時に自分の事が情けなくなる。

ため息をつきながら自分の事が嫌になってしまう。


1日落ち込みながら過ごし、放課後になりました。

萌は帰る準備をしていると、彩芽が急いで目の前に来ました。


「 萌ちゃん、萌ちゃん。

これから駅前に行くんだけど、良かったら一緒に行かない?

欲しい本とか占いしに行こうと思うんだけど。 」


色々したいことがあったので、一緒に行こうと誘いました。

すると険しい表情になってしまう。


「 楽しそうなんだけど…… ごめん。

今日はおじさん家に行かないといけなくて。

また違う日でも良いかな? 」


突然誘ってしまったので仕方がありません。

仕方なく彩芽は一人駅前に。


歩きながらため息をつく。

駅前には色々なお店があって好きなのですが、人が多く目線を多く感じるのが苦手。


( 一人だと心配だなぁ…… 。

怖い人に絡まれないかなぁ?

怖いなぁ…… 。 )


下を向きながら早歩きで目的地へ向かう。

占い師にお金を払い占って貰う。


「 はい…… 貴方…… 最近嫌な事がありましたね?

私生活や学校で悩みがある…… 違いますか? 」


「 ははいっ! どうして分かるんですか!? 」


基本悩みが無い人は居ない。

占い師の使う基本戦術。


「 私は宇宙と繋がっているのです。

何でもお見通しです。 」


その占い師の話を目を大きくしながら、夢中で話を聞いている。


「 これからも運勢は最悪…… 。

落ちるとこまで落ちるでしょう。 」


「 えぇーーーーっ!?

どうしたら良いんですか?

教えて下さい! 」


必死になりながら占い師に頼みました。

占い師は目をつぶり無言になる。


「 この宇宙の御守りをお譲りしましょう。

これを身に付けて置けば大丈夫。

3000円になります。 」


直ぐにお金を払い喜んで出て行きました。

占い師はニヤニヤと笑っている。


「 まぁあれで前向きになれる。

感謝して貰いたいわよね。

次の人どうぞーーっ!

…… あなたですね…… 困っているのは? 」


口の上手い占い師でした。


本を買い外に出る。

折角来たのだから何処か寄ろうと思いました。


( 何か面白いお店あるかなぁ?

…… ん? あれは? 噂のお店だ! )


シュークリーム専門店。

シュークリームだけしか置いていないお店。

小さいお店ですが、凄い行列が出来ている。

最低でも30分は並ばなければいけない。

本を読みながら寒い中並びました。

もし美味しかったら萌と来ようと思っての事。


やっと買える時間が訪れました。

クリームたっぷりのシュークリームが、ショーケースの中いっぱいに並んでいる。

全部凄い美味しそう。


「 何にしようかなぁ…… 。

このいちごのシュークリームと、ダブルクリームのシュークリームを2つずつ。 」


「 ありがとうございます! 」


やっとの事で買えました。

嬉しそうに早足でシュークリームの袋を見ながら歩きました。


( やっと買えたぞ…… 。

帰ったら紅茶飲みながら食べようっと。 )


前を見ていなくて男性二人組にぶつかってしまう。


「 うわぁっ! 」


勢い良く倒れてしまいシュークリームの袋落としてしまう。


「 痛ぇなぁ…… 。

何処見て歩いていやがんだ!? 」


スキンヘッドの20代の男性。

タトゥーも刻まれていて見るからに怖い。


「 ごご…… ごめんなさい。

本当にごめんなさい…… 前見ていなくて。 」


必死に震えながら謝る。

当然その男性は許してはくれない。

怯えてる彩芽にお構い無しに顔を近づけて来る。


「 あんっ!? なめんなよ!?

服が汚れたし、靴も踏みやがったな?

どうしてくれんだよ!

謝れば許されると思ってんのか? あぁんっ!? 」


いちゃもんを付けて絡んで来る。

彩芽は怯えて声が出なくなる。

周りには野次馬は居ても誰も助けに来てはくれない。

怖くて泣き出しそうになってしまう。


「 おいっ! 」


男の声がするとスキンヘッドの男はぶっ飛んで行く。


「 うわぁーーーっ!! 」


大声を出しながら彩芽の前に倒れる。

彩芽はびっくりしてしりもちをつく。

スキンヘッドは痛がりながら、自分を後ろから蹴ったヤツに目を向ける。


「 何だお前は!!? 」


そこには皆も知っている男が立っている。


「 モテない男は心が狭いんだからよ。

ぷふぁーーっ! 」


大きくタバコの煙を吹かす。

そこに立って居たのは、赤沼洋介。

おじさんがタバコを吸いながら立っていました。

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