第10話 牛に願いを
おじさんは友達から車を借りて二人で遠出する事に。
何処に連れられてるかも分からず、ただひたすら車は進んでいく。
「 これから何処に行くの? 」
「 まぁ少し待ってろよ。 」
そう言ってまた黙ってしまう。
萌は仕方なく景色を楽しむ。
街を出て段々と店とかがなくなり、木や森ばかり目に入ってしまう。
人里からどんどん離れていく。
一時間くらいかかけてやっと目的地へ。
「 ここって…… 。 」
そこはファミリー牧場。
牛や馬などの動物達と触れあえて、そこでしか味わえない食べ物が沢山ある。
「 どうだ…… 牧場は良いぞ。
牛とか可愛いしな。 」
お土産コーナーの前を通ると、牛のキーホルダーやグッズが並んでいる。
誇らしげにニコニコしながらおじさんは歩いている。
「 どうだ? わくわくしてきただろ? 」
嬉しそうに話すおじさんに、動物とかあまり好きではないとも言えず…… 。
「 うん…… 可愛い動物居ないかなぁ…… 。 」
少し気をつかってしまう。
サプライズのお出かけのはずが、とんだお出かけになりつつありました。
最初に向かったのはふれあいコーナー。
ウサギや子犬とか触り放題。
( 若い頃は小動物に目がない。
今はこんなつまんなそうな顔してるけど、着いたら大変だぞ。
感激のあまり騒ぎ、Twitterやインスタに写真を上げまくるであろう…… 。 )
不適に笑みを浮かべながら楽しみに向かいました。
そんなおじさんを少し気持ち悪くも感じる。
触れ合いコーナーに着くと、大きな看板が立っている。
( 触れ合いコーナーは冬季はお休み。
春になったらまたやります。
本当に申し訳御座いません。 )
看板にお休みの報告が。
立ち尽くしてしまうおじさん。
「 そんな…… そんな事って…… 。 」
絶望して声も出ない。
あんなに期待していた萌はどんな気持ちなのか?
恐る恐る顔を覗き込む。
「 牧場って冬来るとこじゃなくない? 」
ガッカリと言うか呆れてしまっている。
分かっていたかのような反応。
「 ごめんな…… 何時でもやってるかと思ってた。
お前があんなに楽しそうにしてたのに。 」
「 えっ?? してないよ?
だから近場で適当にやれば良かったって思っただけだよ。 」
挑戦心のない返答…… 。
新しい事にチャレンジせずに、何事においてもスマホで調べてレビューに頼る。
昔では到底考えられない。
( こいつは俺達の頃とは違う。
直ぐに誰かの勧める場所にしか行かないし、情報に踊らされているだけだ。
旅や冒険…… 挑戦心なんか皆無ではないか。 )
若い子達の生き方の違いに、悲しさを感じていました。
いや! 怒りの感情の方が近い。
「 んふふふふっ…… 。 」
不適に笑い歩き出す。
帰るにもおじさんの車に乗らないといけないので、仕方なく後ろを付いて行く。
おじさんにはまだ楽しむ場所があったのです。
( ここの牧場は絶景を見ながらのバーベキュー。
うめぇ肉を食べながらの酒。
最高過ぎる!! 楽しみだぜ。 )
ワクワクしながらバーベキュー場へ。
着くと大きな看板が…… 。
「 冬季は火事の危険性があり、お休みさせて頂きます…… だと!?
ふざけるなぁーーっ!
触れ合いコーナーもバーベキューも出来ない。
なら何で牧場休みにしないんだよっ!! 」
下調べせずに来たせいなのに、責任を牧場側のせいにして不満をぶつける。
「 バーベキューなんてどの季節でも良いでしょ?
牧場=肉でしょうが!!
俺の気分は、肉! 肉! 肉ーーっ! 」
短気な性格の為に怒って騒いでいる。
まるで子供のように。
「 冬は普通しないでしょ?
寒いんだし…… 。
焼き肉屋行けば良くない?
そんなに食べたいなら。 」
また涼しげな顔で軽く言ってしまう。
「 違うんだよ…… 違うんだわ!
この絶景を眺めて食べる焼き肉…… 。
最高なんだから!! 」
そう聞いても全く心が動かない。
味は変わんないでしょ?
と言わんばかりに…… 。
「 待て待て!! まだある…… 。
まだあるんだ、最後の楽しみが!! 」
5分後…… 。
二人はソフトクリームを片手に景色を眺めている。
「 って! おいっ!!
ソフトクリームって…… こんな寒いのに。
凍えちゃうでしょ。 」
風が吹き荒れながら二人を襲う。
「 さむぅーーっ …… 。
冬だからって、ぶるぶる…… 誰がソフトクリーム食べちゃダメって言った訳??
食べてぇ時に食べる、これが俺の生き方だ!
バクっ!! 」
置かれている現実を無視してソフトクリームにかぶりつく。
寒そうにしながらも美味しそうにペロペロ舐めている。
「 本当に我が強いって言うかバカと言うか。
いただきまぁーーす。 ペロっ。 」
萌は寒そうに一口食べる。
その味はコンビニやスーパーで買うアイスとは全くの別物。
一口しか食べていないのに口の中に、濃厚なクリームが全体に広がっていく。
取れ立ての牛乳から作ったソフトクリームは、濃
厚で専用の機械にしか作れない味。
夢中に何度も食べてしまう。
「 お嬢さん…… 何か夢中になってません? 」
夢中になりすぎておじさんに、見られている事にも気付く事が出来ませんでした。
恥ずかしそうにして。
「 まあまあかな…… 。
そりゃここまで来て不味い訳ないじゃない。
偉そうにしないでよね。 」
強がりながらもまたソフトクリームにかぶりつく。
おじさんは何も言わずに笑い、ソフトクリームをまたペロリと食べる。
その光景を店の中に居る店員二人が見ていました。
「 うふふ、先輩見てくださいよ。
こんな寒いのにソフトクリーム食べてますよ?
絶対後で風邪引いちゃいますよ。 」
若い店員さんはくすくすと笑う。
「 そうねぇ…… 私は羨ましいわ。 」
先輩は二人を微笑ましそうに見詰めている。
「 えぇっ!? どうしてですか?
あんなに寒いのに。 」
「 私は両親が忙しくて出掛けた事なんか数えるくらい。
いつも一人で勉強もご飯も食べてたわ。
あのお父さん…… 多分喜ばせたくて、連れてきたからには絶対ソフトクリーム食べよう。
って計画立てて来たんじゃないかなぁ?
娘さんは利口そうだから絶対この案は隣のお父さんのよ。
うふふふふっ。良い親子じゃない! 」
後輩の店員もそれを聞くと、二人の見方が少し変わりました。
「 そうかもですね…… 。
私はあんなお父さんお断りですけどねっ!
あはははっ!! 」
後輩の店員は笑いながら言いました。
二人には萌達はぎこちなくても親子に見えていました。
二人はその後にお土産を買い、帰る事にしました。
「 絶対この牛のキーホルダーダサいって!
付けたくない!! 」
牛の大きな顔のラバーキーホルダー。
若い子は絶対に付けなそうなデザイン。
「 何言ってんだよ!
お前さんがあんなに美味しそうに食べれたソフトクリームだって、この牛さんのお陰なんだからな? 」
不満そうに言う萌をどうにか説得して鞄に付けさせようとしている。
「 たまにだったら付けたあげる。
…… ありがとう、 キーホルダー…… 。
楽しかった。 」
ありがとうの部分はかなり小さな声になってしまいましたが、どうしてもお礼を言いたくなったのです。
タバコを吹かしつつ運転しながら笑う。
「 ガキはネットやらで世界を分かった風にすんな!
現実は行ってみたり、食べてみないと全く分からないんだよ。
それをどうしても伝えたくてな。
それと…… これは俺の勝手だ!
お礼なんていらないんだよ。
イーーヤッホーーイッ!! 」
満更でもなく嬉しそうに車を飛ばす。
車の中はタバコの煙でいっぱいに。
「 ゲホッゲホッ!! おいっ!
一酸化炭素中毒になるくらいの煙だぞ。
タバコは禁止ーーっ! 」
直ぐに窓を開けて換気する。
調子に乗ってぐんぐんスピードを上げていく。
その後覆面パトカーに見つかり、違反切符を切られたのも良い思い出に。
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