第9話 おじさんとの休日


土曜日の朝…… 。

萌は規則正しく起きていました。


( ふぁあ…… 良く寝たなぁ。

にしても…… 昨日はおじさんに悪い事したなぁ。 )


起きて洗面所に向かう為に、寝てるおじさんの前を通り過ぎる。

おじさんはだらしなくお腹を出して寝ている。


萌は歯磨きをしながら昨日を振り返りました。


( 昨日ちょっと遅くまで遊んだのは良かったんだけど、一言遅くなるって言えれば良かった。

連絡先も交換してないから伝える手段が無かったのも言い訳の一つ。)


無断で遅くなってしまい、ご飯を作らなかったのを少し後悔していました。

帰る時に突然決まったので仕方がない、でもお腹を空かせて帰って来たと思われるおじさんに、迷惑かけたのは事実。

悲しげに沢山ビールを買ってきたのに、一つも飲んでいないのが物語っている。

夜は孤独にカップ麺を食べたようでした。


( 起きたら謝ろう…… そうだ、謝ろう。 )


バッチリ歯磨きに顔を洗い、さっぱりした所で朝食の支度を始める。

朝は簡単にパンと目玉焼きに、サラダとかで済ませる事に。

目玉焼きの弾ける音が鳴り、一日の始まりを感じさせる。


するとおじさんの鼻はぴくぴく動きだす。


「 むにゃむにゃ…… ご飯は大盛り…… 。

んぐっ!? 朝!? 」


飛び上がるように起きる。

台所を見ると萌の料理をしている後ろ姿がありました。


「 ちびっこ! 昨日は何してたんだよ!?

お腹空かせて待ってたんだぞ!? 」


軽く怒って言いました。

萌は直ぐに申し訳なさそうに。


「 ごめんね…… 昨日急に友達と出掛ける事になって遅くなっちゃって。 」


ペコペコと頭を下げつつ料理をしている。


「 友達だとぉ…… ?

ふざけるな! お腹を空かせた俺の気持ちにもなれ!

飢え死にしたらどうするつもりだ!?

しかも何食べて良いか分かんなかったから、あんな安いカップ麺を食べてしまった。

お前は人の気持ちをだなぁ…… 。 」


悪いのは自分だと百も承知している。

だけどいつまで経っても小言は終わらない。

段々と反省から怒りへと気持ちが変化していました。


「 いつまでもうるさいなぁ。

謝ってるのにペチャクチャ、ペチャクチャって。

だから奥さんが居ないんだよ! 」


つい漏れてしまった。

その瞬間におじさんの沸点は、湯沸かしポットの如く熱くなる。


「 なにぃ!? 言ったな??

俺は結婚出来ないのではない!

しないだけだ! 勘違いすんな!! 」


怒ってパジャマ姿で外へ行ってしまいました。


( あちゃーー 。 悪い事言っちゃった。 )


二人分のご飯は出来ても食べるのは自分だけ。

激しく後悔をしました。


ガチャっ!!

おじさんが帰って来ました。


「 お腹減ってるし…… ご飯食べてから出掛けるかな。」


用意されるであろう朝食が気になり、戻って来ました。

萌は少し可愛いと思い笑いそうになる、でも笑ったらまた怒って行くのが分かったので堪える。


「 そ…… そう。

ぷっ…… どうせ一人では食べられないから、食べて貰った方が良いわ。 」


そう言ってテーブルに朝食を並べ、食べる事にしました。


「 いただきまぁーー すっ。

むしゃむしゃ…… バクバクッ! 」


相当お腹が減っていたのか? 凄い勢いでパンと目玉焼きを食べつつ、味噌汁も飲みました。

萌はお母さんとずっと二人だったので、男性との共同生活は初めて。

なのでおじさんのこの食べっぷりを見て、とても衝撃的でした。


なんやかんやと文句を言っていたのに、あっという間に完食してしまいました。

お腹がいっぱいになり、少し横になりながらテレビを見ている。


「 お前は休みなのに予定とかないのか? 」


急におじさんが聞いてきました。


「 休みだからってあんまり出掛けないよ。

勉強しないといけないし、行きたいとこもないから家に居るのが良いかなって。 」


その返答を聞きおじさんは考えてしまう。

自分の若い頃は何もなくても外出し、帰って来るのが夜になるくらい駆け回っていました。

お金がなくても友達の家に行ったり、ゲーセンや飲食店や外にはやることが沢山ある。

家に居るのが楽しくなったのは、大人になってから。

萌の返答を少し悲しく感じました。


「 勉強、勉強、勉強…… 楽しくないだろ?

もっと外へ行かないと!

外の世界には楽しいことが沢山あるんだぞ。

若い頃はもっとだなぁ…… 。 」


気をつかって言うと、萌も直ぐに反論してしまう。


「 私は良い大学にも行かないといけないの。

そんな時に外で遊んでばっかじゃいられないの!

休みなんてあっても楽しくないから。

そんなに楽しいなら一人で行ってきたら良いじゃない。

私は一人でゆっくり勉強するからさ。 」


萌の返答はおじさんには全く意味が分かりませんでした。

楽しい青春時代を捨てて、勉強をして将来の為に生きる。

間違えではありません…… 頭の良い大学や未来には必要不可欠なのかもしれません。

自由人には理解出来ませんでした。


「 そうかよ…… ちょっくら出てくるわ。 」


だらしないよれよれのグレーのパーカーに、ジーパンに着替えて財布とスマホを持って出ていきました。


( ふぅ…… やっと一人になれるよ。

最近は色々あったからなぁ。

静かに勉強しよっと。 )


テレビを消して音楽を流しました。

クラシックが大好きで流しながらの勉強が日課になっている。

一人黙々とテーブルに本を広げて勉強。

この時が唯一の無駄な事を考えずに居られる時間でもありました。


おじさんは一人つまらなそうに街へ。

パチンコをしてもどうしてもつまらない。

前までは当たり前にやっていたのに、何かが気になり集中出来ない。


( イライラすんなぁ…… 何がこんなにイライラすんだろうなぁ。 )


早めにやめて負けを最小限にして店を出る。

近くのハンバーガーショップでポテトを買い、一人近くの公園で池に居る鴨を見る為にベンチに座る。

ポテトを食べながらゆっくりしている。


( 俺の日常は今までとは違う。

共同生活ってのはイライラの連続だ。

あいつを引き取ったのも、優しさとかじゃなく交換条件で仕方なくだからな。

だから俺には沢山金もある…… 。

それで良いじゃないか…… 。 )


何度も自分に言い聞かせる。

何も気にする事なく生きればそれでいい。


「 洋介君っていつも楽しそう。

今度私も何処かに連れてってよ。 」


おじさんは学生の頃の、萌のお母さんとのやり取りを思い出しました。

まだ高校生の頃でした。


「 はぁっ? 一人で行けよ。

俺みたいなロックな男には、女は邪魔なんだよ。

友達沢山居るだろ?

そいつらに頼めよ。 」


リーゼントにして不良でのイケイケ時代。

尖って居るのがカッコいい。

そんな頃でした。


「 良いじゃない、いつもバイクで走り回って何がそんなに楽しいのか。

私は知りたいのよ。

もしかして…… 凄いつまんないじゃない? 」


自分の遊びを否定されたと思い、大きな音を立てて立ち上がる。


「 なめてんじゃねぇぞ!!

なら教えてやらぁ、放課後公園に待ち合わせな。

バイクで連れてってやるよ。

本当の男の世界をよ。 」


そう言い二人は放課後に遊びに行くことに。

おじさんは単純な性格なのを見透かされていました。


「 そんな事あったなぁ…… 。 」


萌のお母さんは沢山勉強していて、あまり遊びに行く事が少なくおじさんを羨ましく思っていました。

それでおじさんにお願いしてきました。

ふと思い出してタバコを吸う。


「 あぁーーーーっ!!

分かったたぞ! 何でイライラすんのか! 」


デカい声を出して立ち上がる。

何故イライラしていたのか?

萌はお母さんに似ていたから、何故かほっとけなくなっていました。

その違和感にやっと気づきました。

凄い勢いで走って家へ。


ガチャっ!!

勢い良く扉を開ける。


「 えっ!? もう帰って来たの? 」


手を止めて言うとおじさんは言いました。


「 ロックな俺様が外の世界を見せてやるよ。

早く準備しろ! 直ぐに行くからな。 」


意味が全く分からない。

ゆっくり出来ない日はまだ続きそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る