第8話 優等生の一日


授業が始まって黙々とノートに書き留める。

休んでいた日にちは長かったですが、自己学習と日頃の熱心さによって全然ついていけていました。


「 藤堂さん、ここの答え分かりますか? 」


先生に指名されて立ち上がる。


「 はい、答えはx-2(4+2y)です。 」


「 せ…… 正解です。 」


周りからは感心する声が聞こえてきました。

ゆっくりと座り少し照れくさそうにする。


いつもと変わらない学校…… 。

授業も問題なくやれている。

ですが何かいつもと違う。

集中していてもたまに手が止まってしまう。

喪失感からまだ前に進めずにいました。


( 本当に変わっちゃったなぁ…… 。

私の生活は同じ見えて帰れば、全く違う人生が待ってる。

ママとずっと一緒に居られると思ってたのに。 )


少し思い出してしまうと、暗くなり上の空になってしまいます。

生活していても楽しみを見つけるのが難しい。

考えないようにするのがやっと。

大人でもこの割りきりは難しい。


お昼になると彩芽と一緒に中庭へ。

二人はいつも一緒にお弁当を食べている。


「 萌ちゃん大丈夫??

やっぱりまだ早かったんじゃない?

上の空になるの多くて心配で…… 。 」


心配されていると思い、直ぐに笑って否定しました。


「 大丈夫、大丈夫。

私には立ち止まってなんかいられないの。

だって大学受験だってあるし、就職の為にもめそめそしてられないのよ。

ありがとう。 」


彩芽はそんな否定する姿をみて、やっぱり無理していると再確認しました。

これは時間かけて納得するしか道はないので、彩芽はもうその話をしない事にしました。

その代わりに少しでも楽しくさせて、気を紛らわそうと思いました。


二人はその後に弁当のおかず交換したり、他愛ない話に花咲かせました。

萌は愚痴の連発!


「 新しいお父さんがこれがダメダメなの。

料理は出来ないし、掃除もアイロンも何も出来ないんだから。

だから仕方なく私がやってあげてる。 」


彩芽はゲラゲラと大笑い。


「 そんなおじさんなんだね。

ダメダメだからって大掃除とか、雑誌全部捨てちゃうなんて大胆だね。

私には絶対出来ないよーー 。 」


おじさんの愚痴は止まることなく、次々と話していました。


「 凄い楽しそうだね。

僕にも聞かせてくれないかい? 」


話に夢中になりすぎて、隣に来るまで全く気づきませんでした。

ふと現れたのでびっくりしてしまう。


「 うわぁーーっ!! 吉良さん!?

いきなり…… 全然大した話でもないんです。

くだらない話ばかりで。 」


そう言い恥ずかしいので話そうとしません。

吉良は涼しげな表情を浮かべながら納得しました。


そこに他クラスの女子達がやって来ました。


「 吉良くーーんっ、勉強分からない所があるから教えてもらえませんかぁ? 」


何人もの生徒が吉良求めてやって来たのです。


「 しょうがないなぁ…… 藤堂さん、何かあったら直ぐに言うんだよ?

お弁当美味しそうだね。

また教室でね!! 」


そう言い女子達の元へ。

イケメンのモテ男は大忙し。

それを遠目に見送る。


( 吉良君優しいなぁ…… 。

イケメンで頭も良いし、本当にカッコいいな。 )


と考えてしまう。


「 吉良君の事好きなの??

あれはダメだよーーっ。

競争率高いしプライド高そうだし。 」


彩芽は萌の気持ちに気づきました。

萌も慌てて言い返しました。


「 吉良君!!? ま、ま、まさか!

私が!? ぜぜぜ…… 全然!!

私とは別世界の人間だもの。

好きになるはず…… ないでしょ。 」


必死に言い訳をしました。

好きな気持ちがバレるのは恥ずかしかったのです。


「 バレバレだよ、あははは。

萌はいつもイケメン好きだし。

俳優さんとかもイケメンに弱いしね。

隠さなくても良いのに! 」


彩芽にはバレバレでした。

昔からの幼なじみなので、好きなタイプとか嘘のつき方まで知っていました。

顔を赤らめながら飲み物を飲みました。


「 うるさい、うるさいっ!

いつも人の事勝手に決めつけて。

彩芽は私の事知りすぎなのよ。 」


「 はいはい、私にだけは秘密に出来ないのだ。

あははっはは。 」


控え目な彩芽も萌の前でだけは、思い切りの笑顔になる。

信用しているからの素顔。

萌はそんな彩芽も大好きでした。

お昼を二人で楽しみました。


放課後…… 。

久しぶりの学校で少し気疲れしてしまい、軽くストレッチ代わりに両手を力いっぱい伸ばしました。


「 彩芽、一緒に帰ろう! 」


「 …… うん、帰ろう。 」


途中までですが二人は仲良く帰りました。

歩いている途中で、彩芽は立ち止まる。


「 彩芽どうしたの?? 」


「 萌…… 少し寄り道しない?

一緒に買い物…… 行きたくて…… 。 」


彩芽はもじもじしていました。

色々あったから切り出しにくかったけど、勇気を出して言いました。


( 彩芽…… 気をつかってるな…… 。

全然気にしなくて良いのに。 )


お母さんが亡くなって、少しでも元気づけようと気にかけてくれたのが直ぐに分かりました。


「 行こう! 久しぶりに何か食べたりしよ!

買い物も付き合ってあげる。 」


彩芽はその返答を聞き喜びました。


「 うんっ! 駅前にパスタのお店も出来たの。

そこ凄い美味しいんだってさ。

行ってみよ。 」


そうして駅前に向かう事に。

二人は楽しみで笑ってしまう。

久しぶりの遊びに心を踊らせました。


夕方になり、おじさんは仕事を終えてゆっくり歩いていました。


( お腹減ったなぁ…… 今日は何かと疲れた。

ご飯は何かなぁ?? )


お腹をぐうぐう鳴かせながら歩いている。


( あいつの料理美味いからなぁ。

ビールが進む、進む。

たまには色んなビールで楽しむかな? )


そう思いながらスーパーへ行きました。

その足はいつもより軽く、軽快に店内を歩き回る。

向かうはお酒コーナー。


「 喉を潤したいぜ…… 。 」


見ているだけでよだれが出そうに。

色々種類があるので悩んでしまう。

お金はある程度はある。

更には萌から貰った通帳もある。


「 外国のビールも良いなぁ…… 。

日本人として生まれたからには、日本酒も味わわなければいけないな。

日本から他国まで入れた、大お酒品評会にしようではないか!

がっはっはっは!! それにしよ! 」


独り言を言いながらカゴに大量にお酒を入れる。

おじさんの晩酌はいつもより豪勢になっていく。

でもおじさんは通帳を当てにしてはいません。

何故か使う事に罪悪感みたいな、変な気持ちがあったからです。

自分の少ない給料で好きなだけ飲む。

重いカゴをレジに持っていく。


「 自由を失った代償はあまりにもデカい。

だからこその晩酌…… 楽しみだぜぇいっ!! 」


「 …… お会計は11800円になります。 」


いつの間にか独り言は漏れていて、店員さんはドン引きしている。

おじさんはぼろぼろの財布から、レジに支払いました。


そして40代が見せてはいけないくらいの、軽快なスキップで家に帰っていく。


女の子二人はお買い物したりして、人気の行列の出来る黄金パスタ屋に来ていました。

ここの金色に輝くカルボナーラは、ネットで話題となり並ばなければ食べられない。

食べた者は二度と市販のカルボナーラは食べれなくなるとの噂。


「 やっと食べれるね。 楽しみだね。 」


萌も最近のもやもやを少しでも紛らわさたくて、存分に楽しんでいる。


「 うん…… あまりにも普通だったら、レビュー付けに行こうね。 」


控え目にも厳しい事を言う彩芽。

そしてパスタが出されて食べようとする。


「 いただきまーーすっ!! 」

「 いただきます。 」


二人は大きく一口…… 。


「 何よこれっ!? 美味すぎ! 」


美味しくて感動する萌。


「 本当に美味しいね。

麺の食感とパスタソースが良く絡んでる。

凄い美味しい。 」


彩芽も喜んで食べていました。

二人共大満足!!


「 良かったぁ…… 笑ってくれて。

凄い心配してたの…… 今日はありがとう。

付き合ってくれて。 」


彩芽はお礼を言いました。

逆にお礼を言うのはこっちでした。


「 えっ、えっ? 心配してくれてありがとう。

親友でしょ? いつでも買い物行こう! 」


「 うん…… ありがとう。 」


そう言い笑ってご飯を食べる。

本当に美味しくて楽しいひとときでした。


その頃家では?


「 …… 遅い。 」


テーブルにお酒を出して待つ男が、寂しそうに待ち続けるのでした。

萌がこの事に気づくのは2時間後の事…… 。

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