第6話 自由人の毎日


( 最近…… 俺の人生は大きく変わってしまった。

適当に仕事して責任とかとは無縁に、辞めたくなったら辞める。

誰にでも出来る清掃員。

会社のビルや飲食店の清掃。

誰にでも簡単で無気力で出来る。 )


おじさんは一人お風呂で黙々と考えている。


( 安いアパートで狭いけど、一人にしては充分な広さだ。

パチンコや競馬…… 酒にキャバクラ。

あらゆる男の快楽を鷲掴みにしていると言っても過言ではない。 )


この年になるまで本当に適当に暮らしていました。


( だがどうだろう?

あの日にお金に目がくらみ、俺の自由を脅かす存在が現れた。

ガキんちょの萌だ。 )


おじさんの不満が溜まっていました。

大金が手に入りましたが小心者の為、未だに手をつけていません。


( 部屋は大改造されてしまい、ガキんちょに部屋は取られてしまった。

居間を寝床にしているが、朝になると起こされてしまう。 )


まだ数日しか経っていないのに、不満でいっぱいになっている。

自分は自由に寝たいとき寝て、仕事前に起きたりして休みは目覚ましをかけずに寝るのが大好き。


逆に萌は規則正しく生活していて、寝る時間も起きる時間もほとんどズレが無く生活している。

全く真逆の生き方なのです。


文句をぶつぶつ言いながらも仕事場に。

いつものように作業着に着替えて仕事へ。


基本的にはゴミ交換や床清掃。

窓拭きやら汚い所を綺麗にする仕事。

誰でも出来ると言っていましたが、汚いと当然怒られてしまう。

おじさんは慣れた手つきでモップ掛けをする。


「 なんだい不機嫌そうに。

何か嫌な事でもあったのかい? 」


( 同じ職場で働いている先輩。

もうおじいさんになって定年しているが、家に居ても暇なのでここで仕事をしている。

俺から言わせたら変わりもん。 )


「 何でもないよ。

家族を持つと色々苦労するのよ。 」


「 家族?? 彼女すら居ないお前さんに、いきなり家族って何があったんだい? 」


おじさんは萌との契約の事を隠して、引き取った事だけを話しました。


「 それは可笑しい話だねい…… 。

お前さん程面倒くさがりやで、自由を満喫しているやつが子供を引き取る。

何か大きな裏があるとしか言いようがない。 」


おじいさんは長い髭を指で擦りました。

何の仕事をしていたのか、凄い勘が鋭い。

昔の人間なのでお金で引き取ったと知られたら、痛いげんこつを貰ってしまう。

新人の頃に沢山貰っている。


「 あ…… あのぉ…… あれだよ。

そのガ…… 娘があまりにも可哀想で。

俺も人の役に立ちたくてね。 」


おじいさんは疑いの眼差しで見ている。

おじさんはバレないようにと、仕事をこなして誤魔化しました。


「 そうかい…… そうかい。

もしもまた良からぬ事をしていたら…… 。

分かってるな? げんこつだぞ?

分かったな洋介!! 」


( 何故か俺にこのじいさんは厳しい。

遅刻とか無断欠勤は上のやつよりも、このじいさんの方が俺を叱ってくる。

お節介焼きのじいさんだ。 )


お節介な人と言うのは子供の頃は良く居ましたが、大人になるといつの間にか居なくなる。

お節介はその人を思ってするのです。

おじさんも心の何処かでそれが分かっていて、おじいさんの事が嫌いではありませんでした。


「 親父面しやがって…… 。

今日は帰りは居酒屋だな…… そうだ!

居酒屋に行こう。 」


大好きなお酒を飲みながらのつまみ。

最高の至福の時間を過ごしたく、帰りに寄り道しようと考えました。

ニヤニヤしながら仕事を進める。


その頃、萌はまだ学校が休みなので家でゆっくりしていました。


「 凄い綺麗になったなぁ…… 。

狭いけど充分暮らせる。

さて…… 何しようかな? 」


秀才な為、勉強を終えてから少しお腹が空きました。

冷蔵庫にはまだ食材が一切ない。

もう一人暮らしの小さな冷蔵庫から、大きな冷蔵庫に変わってからまだ使っていません。


「 よしっ!! 買い物に行こう。 」


マイバックをぶら下げてスーパーへ。

大量の食材にお菓子にアイス。

飲み物と沢山カゴに入れました。


( おじさんの部屋に空き缶沢山あったなぁ…… 。

お酒好きなんだろうな。

お酒は箱で家にあるから、料理沢山作ってあげようかな。

引き取ってくれたお礼もしてないし。 )


萌は冷たい態度が多かったので、感謝の気持ちを伝えようと考えました。

料理はお母さんと良くやっていたので得意。

一通りの料理は作れる。

男の人の好きそうな物を沢山買いました。


そして沢山の荷物を両手に持ちながら、ゆっくり歩いて帰りました。

手は痛くなってしまっても、喜ぶ顔が見れると思って頑張って階段を上る。


家に着いてから自分のエプロンを着けて、帰って来るまでに料理を作る。


「 さぁーー、やるぞぉ! 」


テキパキと野菜を切ったりと包丁の音が鳴る。

フライパンでお肉を焼いたりと、夕方に料理の音と匂いが外に流れていく。


すると匂いに誘われて男達がやって来ました。

こっそりと中の様子を伺っている。

いつものメンバーの三人。


「 美味そうだなぁ…… 温かい手料理。

店でしか食えないからな。 」


トムさんは食べたそうに中を伺う。


「 そうですねぇ…… 受験生には音と匂いは悪魔の囁きに近い。

少しだけでも拝見させて頂きたいものですね。 」


浪人生の二郎も眼鏡を何度もかけ直しながら、食べたそうに中を見ている。

格好つけてもただの腹ペコなだけ。


「 腹…… 減った。 」


建築士の竜太郎も真っ直ぐドアを見詰めている。


「 あんたら!! また人の家の前に。

早く帰るんだよ、このバカども! 」


大家さんが走って来てほうきで男達を叩きました。

男達は直ぐに自分たちの部屋へ帰って行きました。

大家さんにはみんな逆らえないようです。


「 全くぅ…… でも美味しそうだねぇ?

まっ、今日は二人で楽しませてあげよう。 」


と笑いながら部屋へ帰りました。


夜になりました。

テーブルには数々の肉料理や、サラダにつまみになりそうな濃い味の料理の数々。

自慢気に腰に手を当てて喜びました。


「 うん完璧! 後は帰って来るのを待つだけ。

にしても…… 遅いなぁ。

もう帰って来るのかな? 」


時刻は19:00に。

座って恋愛ドラマを見ながら待ちました。


その頃おじさんは…… ?


「 かんぷぁーーいっ! 」


おじさんは一人で居酒屋に。

ジョッキのビールを勢い良く飲みました。


「 んぐんぐっんぐ…… うめぇーーっ! 」


涙を流してしまうくらい美味い。

それに一日の疲れも吹っ飛んでしまう。


「 そこから…… 枝豆を…… パクパクパクっ!

そこにビールの駆け込み乗車ーーっ。

…… くぁーーっ、一人って幸せだぜっ。 」


一人で至福の時を噛み締める。


「 ぐるぁーーっ!! 」


後ろから勢い良く何者かに殴られてしまう。

ごつんっ!!


「 いてぇーーーっ …… 誰だよ!? 」


痛がりながら後ろを向きました。

そこにはおじいさんが立っていました。

怖い人相で…… 。


「 洋介…… 何をやっているんだ!!?

お前は父親になったのだろ?

早く家に帰らんか!! 」


もしかしたらと思い、居酒屋に来てみたら案の定。

道草していました。


「 あのですね…… その…… そう!

喉を潤してですね、少し家まで帰る為の休息をと。

あと二、三時間しましたら急いで帰ります。 」


と飲むための言い訳をしていると、おじいさんの頭に少しずつ血が上っていくのが分かってしまう。


「 バカもーーーーんっ!!

早く帰れ! 何が喉を潤すだ。

そんなの酒飲みの言い訳だっ!! 」


怒鳴られて仕方なく帰る事に。


「 あのぉ…… まだ料理とお酒が…… 。 」


名残惜しそうに言いました。

するとゆっくりその席に腰を下ろす。


「 代わりに食べておいてやる。

さぁ心置きなく帰りなさい。

支払いは忘れずにな? 」


( 何て言う悪魔なんだ…… ひでぇ。

子供じゃないんだから。 )


悔しそうにしながら仕方なく支払って帰る。


家で待ち続けていました。

何度も時計を見ては、美味しいのを食べさせたくて温め直している。

時刻は21:00に…… 。


ガンっ! ガンっ! ガンっ!!

階段を上る音が聞こえました。


ガチャっ!!

扉がゆっくり開く。


「 ただいまぁ…… 。 」


「 …… お帰り…… なさい。 」


恥ずかしそうに後ろ向きで返しました。

直ぐに沢山の料理気付く。


「 なんだこの料理は…… ?? 」


「 …… 私を引き取ってくれたし、何かしてあげたくて作ったの。

口に合うか分からないけどどうぞ。 」


素直に言えませんでしたが、頑張って言いました。

おじさんは直ぐに座って手で唐揚げを食べる。


「 うまぁーーーーいっ!! なんじゃこりゃ!?

お惣菜を越えてやがるっ。 」


慌てて食べるおじさんを笑いながら、箸を手渡しました。

そしたら勢い良く食べ始める。


「 うめぇ…… うめぇっ!

うめぇーー んだよっ。 」


勢い良く食べている。

ハムスターのように頬を膨らませながら。


「 はい、ビールもあるよ。 」


冷やしておいたビールを手渡しました。

直ぐに受け取り勢い良く飲む。


「 ごくっ…… ごくっごくっ。

うるあああぁーーっ! 最高だぜいっ。 」


下品に美味しそうに食べてるのを見ながら笑い、自分も食べることに。

おじさんは食べずに待って居た事に気付きました。


「 ありがとう…… 美味いよ。

明日も作ってくれ…… 遅くなって悪かったな。 」


申し訳なさそうに謝りつつ明日も食べたいと催促しました。

優しい一面もあるんだなぁっと感じる。


「 うん! 食費はちゃんと稼いでよね? 」


「 任せろ!! うめぇーー ! 」


その日のご飯にお酒は、いつもの一人よりも美味しかったのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る