第5話 自由から家族へ


アパートの住人の下心ある思いにより、萌の部屋の大掃除と大改造が開始されました。


大掃除を的確に効率良くこなす男。


久住二郎くすみじろう21歳。

三度の大学受験に失敗し、親に家から追い出されてしまい、バイトしながらこのアパートに住んでいる。

髪は癖っ毛でもじゃもじゃ頭。

メガネをかけて暇さえあれば勉強している、真面目な頭の良い浪人生。


「 汚い部屋だなぁーーっ。

僕は赤沼さんの部屋だけは入りたくなかったよ。 」


ゲホゲホと咳払いしながらも、いらない物をどんどんゴミ袋へ入れていく。


「 久住さんって頭良いんですね。

受験勉強とか凄い大変ですよね。 」


萌が一緒に掃除しながら話をかけました。

急に手を止めて、メガネを何度もかけ直す仕草を見せました。


「 まぁ大した事ないさ。

僕の目指してるのは、東京アンバシー大学さ。

何度も落ちてしまっているが、本番に弱いだけだから何も問題ないのさ。

まぁ…… 高校の勉強が分からなかったら、この僕に聞くと良いさ。

高校の勉強なんて僕には、赤子をあやすより簡単なのだからね。 」


自慢気話して一向に作業を進めないでいる。


( 大学の名前聞いても全く知らない…… 。

自慢話が好きなのかしら。

でも悪い人じゃなさそう。 )


萌は隣で自慢話を盛りあげてる中、黙々と掃除を進めていく。


そこへ大男が木材を持って入ってきました。


岩渕竜太郎いわぶちたつたろう20歳。

建築士の卵であり、まだまだ雑用をやらされている。

体格は良くて180センチは軽く越えている。

肩幅も広くてかなり大きい大男。

コミュニケーション能力は低く無愛想。


「 自分が…… ここに棚作る。 」


そう言って木材をノコギリで切ったり、部屋に丁度良くなるように計ったりして、手作りの棚を作り始めました。


「 ありがとうございます。

凄いなぁ…… 建築士の人って、簡単に棚なんか作れちゃうのかぁ。

尊敬しちゃいます! 」


あまり仕事柄、女性と接する事の少ない竜太郎は恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに次々と手作りの家具を作っていきました。


その竜太郎の行動に動揺してしまったのか、二郎も部屋の掃除を再開しました。


( チクショー…… 。

建築士って言っても半人前だろ?

何良い格好してんだよ。

僕の半分もIQない癖してよ。

一番は僕なんだから!! )


負けじと一生懸命掃除しました。

竜太郎も負けじと棚だけではなく、勉強机とかまで作り始めました。

二人は萌に気に入られようと必死に。


するとトラック運転手のトムさんが帰って来ました。


「 おいおいおいおい。

モテない男達よ、この部屋の一番の問題。

それは…… このヤニ臭さだ!! 」


そうです…… この部屋の問題。

それは染み付いてしまった、タバコの匂いが激臭でした。

壁の色が変色するくらいに。

なので業務用の空気清浄機と、新しい壁紙を買って来ました。

可愛い色のピンクやクリーム色、女の子が喜びそうな物を沢山買って大改造しに。


「 凄ぉーーいっ…… 可愛いのばっか。

このピンクの私の部屋のにしたい。 」


嬉しそうに喜んで広げました。

トムさんは男二人に歯を見せ自慢気に、腕を組みながら勝ち誇る。

二人も悔しそうに怒りに満ち溢れてしまう。


「 お前らぁーーっ いつまでやてんだいっ。

早くやりなぁ、女の子に気に入られたいからってやり過ぎなんだよ!」


大家さんからお説教が入り、三人は嫌々協力しながら壁紙を剥がし、壁の匂いを消す為に溶剤を使い雑巾とかで拭きました。

萌も汚れながらも頑張っていました。

三人の男達はその健気さに、直ぐに手を止めては後ろから見詰めてしまう。


「 萌ちゃんはね、お母さんが亡くなって行く所が無くてね…… こんなゴミみたいな所に来ちまったんだよ。

だから少しでも悲しかった分、楽しい事も増やしてやりたいんだよ。 」


大家さんはそう言いました。

男達はその生い立ちにもらい泣きしそうになるが、いたら悲しくなるのが分かっていたので、絶対に泣かないように歯を食い縛る。


「 萌ちゃん! 何かあったら俺に言いな?

トラック運転手は力仕事は何でも出来るし、お土産とかも沢山買ってきてやる。 」


一歩先に前へと好感度上げするトムさん。

負けじと二人も励ましました。


「 そうです…… この二人の様なIQ低めの仕事は出来ませんが、この頭脳を使った仕事なら任せて下さい。

僕なんて親に勘当かんどうされてしまったバカ息子です。

それに比べたら幸せです。 」


「 そうです…… 力仕事は任せて下さい。

不器用ですが何でもやります。

なので連絡先でも…… 。 」


竜太郎の先走った行動に、男二人は嫉妬心剥き出しになり胸ぐらを掴み口論に。

男達は必死に喧嘩をしていましたが、萌みたいに女で一つ育てられ静かだったので、こんなに賑やかなのは初めてでした。


みんなで騒ぎながらもどんどん掃除をしました。

壁も新築のようで匂いも良好。

だらしなかった服とかは専用のクローゼットを買ってしまいました。

冷蔵庫も小さかったので、大型のを買って三人で設置。

その部屋は男の部屋から家族の部屋へ。


そして奥の部屋は萌の部屋に。

壁紙はピンクで勉強机もあり、竜太郎が余った木材で作った一人用のベッドまである。

専用のタンスに自分の服をしまって完成。


かなりの時間がかかりましたが、夕方に部屋の大リフォームが終わりました。


「 みんなありがとう。

こんなにしてくれて。 」


萌一人ではこんなに出来ませんでしたが、男達三人が居れば簡単。

その仕事ぶりは業者に頼んだら良いお値段になりそうでした。


「 いつでも頼みな! 」

「 そうです、受験生なのでほとんど居るので。 」

「 何か欲しいとき言って? 作るから。 」


男達も三人嬉しそうにしている。

萌は三人の事が好きになっていました。

何度も何度もお礼を言いました。


「 お前らぁ!! いつまで居るんだいっ!?

早く部屋に戻りな!

女の子の部屋なんだからね?? 」


そう言いながら部屋から追い出されてしまう。

そして一人で部屋の匂いを付ける為に、消臭剤やアロマをつけたりしました。


「 よし! これで決まり。

頑張ったぞぉ。 」


新しい食器に調理器具も買い、何時でも料理出来るようになりました。

お風呂もピカピカにして使えるように。

トイレも便座シートやマットを敷いて完璧!

お母さんの苦労が目に沁みました。


夜に仕事終えておじさんはゆっくり歩いていました。


( 何か色々冷たかったかも知れないな…… 。

もし帰って来てたらもう少し優しくしてやろ。

まだまだガキなんだからな。

少しくらい掃除もしてやるかな。 )


何も知らずに二人分のケーキと、ピザを持って部屋へ帰って来ました。


「 ただい…… えっ! ってえっ!!? 」


そこは男の臭い城から家族の家へ。

女の子プライバシーの為に奥は萌の部屋へ。

カーテンや壁紙…… 上の電球まで違う。


「 そそそそそ…… そんな…… 。

ここに積み重ねてあったアイドル雑誌は!?

ここの缶コーヒーの空き缶コレクションは??

パチンコ雑誌も全然ないし。 」


帰って来るなり大騒ぎ。

奥の部屋から萌が来ました。


「 住むからには綺麗にしました。

いらない物は処分しました。 」


「 処分って…… えーーっ!?

俺の部屋から女の子部屋に??

何でこんなこんな事が一人で…… 。 」


怒りよりも困惑してしまい、部屋を何度も見回す。


すると勢い良く階段を上がる音が。


ガチャっ!!

大きな扉を開ける音が。


「 邪魔するよ、鍋作って来たから食べるよ。 」


大家さん特製お鍋がやって来ました。


「 うわぁ! 鶴ちゃんありがとう。 」


萌は大喜び。

直ぐにこの部屋の変貌した理由が分かる。


「 ババァ!! お前の仕業だな?

良くも俺のお城を…… 。 」


文句を言おうとしていると男三人が勢い良く入ってきました。

海鮮類やデザートや飲み物。

大量に買い込んで来ました。

今日は歓迎会のようでした。


「 みんなで楽しむぞぉ!! 」


トムさんが勝手にリーダーシップし、お祭り状態に。

おじさんはゆっくり、ゆっくり状況が分かって来ました。


「 お前らぁ…… 早く出て行けぇーーーー ! 」


怒りながらもみんなで鍋パーティー。

萌はこんな大勢でのご飯は初めて。

沢山笑い、沢山食べて大盛り上がりに。


「 これから宜しくお願いします…… 。 」


恥ずかしそうに萌が言うと、目を合わさずにおじさんは。


「 まぁ綺麗になったし許してやる。

ご飯はお前が作れよ?? 」


二人は少しですがお互いを知る切欠に。

不器用な親子の第一歩。


そして机の上には萌とお母さんの写真立てが飾ってありました。

長い一日がゆっくり幕を下ろしました。

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