第5話 自由から家族へ
アパートの住人の下心ある思いにより、萌の部屋の大掃除と大改造が開始されました。
大掃除を的確に効率良くこなす男。
三度の大学受験に失敗し、親に家から追い出されてしまい、バイトしながらこのアパートに住んでいる。
髪は癖っ毛でもじゃもじゃ頭。
メガネをかけて暇さえあれば勉強している、真面目な頭の良い浪人生。
「 汚い部屋だなぁーーっ。
僕は赤沼さんの部屋だけは入りたくなかったよ。 」
ゲホゲホと咳払いしながらも、いらない物をどんどんゴミ袋へ入れていく。
「 久住さんって頭良いんですね。
受験勉強とか凄い大変ですよね。 」
萌が一緒に掃除しながら話をかけました。
急に手を止めて、メガネを何度もかけ直す仕草を見せました。
「 まぁ大した事ないさ。
僕の目指してるのは、東京アンバシー大学さ。
何度も落ちてしまっているが、本番に弱いだけだから何も問題ないのさ。
まぁ…… 高校の勉強が分からなかったら、この僕に聞くと良いさ。
高校の勉強なんて僕には、赤子をあやすより簡単なのだからね。 」
自慢気話して一向に作業を進めないでいる。
( 大学の名前聞いても全く知らない…… 。
自慢話が好きなのかしら。
でも悪い人じゃなさそう。 )
萌は隣で自慢話を盛りあげてる中、黙々と掃除を進めていく。
そこへ大男が木材を持って入ってきました。
建築士の卵であり、まだまだ雑用をやらされている。
体格は良くて180センチは軽く越えている。
肩幅も広くてかなり大きい大男。
コミュニケーション能力は低く無愛想。
「 自分が…… ここに棚作る。 」
そう言って木材をノコギリで切ったり、部屋に丁度良くなるように計ったりして、手作りの棚を作り始めました。
「 ありがとうございます。
凄いなぁ…… 建築士の人って、簡単に棚なんか作れちゃうのかぁ。
尊敬しちゃいます! 」
あまり仕事柄、女性と接する事の少ない竜太郎は恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに次々と手作りの家具を作っていきました。
その竜太郎の行動に動揺してしまったのか、二郎も部屋の掃除を再開しました。
( チクショー…… 。
建築士って言っても半人前だろ?
何良い格好してんだよ。
僕の半分もIQない癖してよ。
一番は僕なんだから!! )
負けじと一生懸命掃除しました。
竜太郎も負けじと棚だけではなく、勉強机とかまで作り始めました。
二人は萌に気に入られようと必死に。
するとトラック運転手のトムさんが帰って来ました。
「 おいおいおいおい。
モテない男達よ、この部屋の一番の問題。
それは…… このヤニ臭さだ!! 」
そうです…… この部屋の問題。
それは染み付いてしまった、タバコの匂いが激臭でした。
壁の色が変色するくらいに。
なので業務用の空気清浄機と、新しい壁紙を買って来ました。
可愛い色のピンクやクリーム色、女の子が喜びそうな物を沢山買って大改造しに。
「 凄ぉーーいっ…… 可愛いのばっか。
このピンクの私の部屋のにしたい。 」
嬉しそうに喜んで広げました。
トムさんは男二人に歯を見せ自慢気に、腕を組みながら勝ち誇る。
二人も悔しそうに怒りに満ち溢れてしまう。
「 お前らぁーーっ いつまでやてんだいっ。
早くやりなぁ、女の子に気に入られたいからってやり過ぎなんだよ!」
大家さんからお説教が入り、三人は嫌々協力しながら壁紙を剥がし、壁の匂いを消す為に溶剤を使い雑巾とかで拭きました。
萌も汚れながらも頑張っていました。
三人の男達はその健気さに、直ぐに手を止めては後ろから見詰めてしまう。
「 萌ちゃんはね、お母さんが亡くなって行く所が無くてね…… こんなゴミみたいな所に来ちまったんだよ。
だから少しでも悲しかった分、楽しい事も増やしてやりたいんだよ。 」
大家さんはそう言いました。
男達はその生い立ちにもらい泣きしそうになるが、いたら悲しくなるのが分かっていたので、絶対に泣かないように歯を食い縛る。
「 萌ちゃん! 何かあったら俺に言いな?
トラック運転手は力仕事は何でも出来るし、お土産とかも沢山買ってきてやる。 」
一歩先に前へと好感度上げするトムさん。
負けじと二人も励ましました。
「 そうです…… この二人の様なIQ低めの仕事は出来ませんが、この頭脳を使った仕事なら任せて下さい。
僕なんて親に
それに比べたら幸せです。 」
「 そうです…… 力仕事は任せて下さい。
不器用ですが何でもやります。
なので連絡先でも…… 。 」
竜太郎の先走った行動に、男二人は嫉妬心剥き出しになり胸ぐらを掴み口論に。
男達は必死に喧嘩をしていましたが、萌みたいに女で一つ育てられ静かだったので、こんなに賑やかなのは初めてでした。
みんなで騒ぎながらもどんどん掃除をしました。
壁も新築のようで匂いも良好。
だらしなかった服とかは専用のクローゼットを買ってしまいました。
冷蔵庫も小さかったので、大型のを買って三人で設置。
その部屋は男の部屋から家族の部屋へ。
そして奥の部屋は萌の部屋に。
壁紙はピンクで勉強机もあり、竜太郎が余った木材で作った一人用のベッドまである。
専用のタンスに自分の服をしまって完成。
かなりの時間がかかりましたが、夕方に部屋の大リフォームが終わりました。
「 みんなありがとう。
こんなにしてくれて。 」
萌一人ではこんなに出来ませんでしたが、男達三人が居れば簡単。
その仕事ぶりは業者に頼んだら良いお値段になりそうでした。
「 いつでも頼みな! 」
「 そうです、受験生なのでほとんど居るので。 」
「 何か欲しいとき言って? 作るから。 」
男達も三人嬉しそうにしている。
萌は三人の事が好きになっていました。
何度も何度もお礼を言いました。
「 お前らぁ!! いつまで居るんだいっ!?
早く部屋に戻りな!
女の子の部屋なんだからね?? 」
そう言いながら部屋から追い出されてしまう。
そして一人で部屋の匂いを付ける為に、消臭剤やアロマをつけたりしました。
「 よし! これで決まり。
頑張ったぞぉ。 」
新しい食器に調理器具も買い、何時でも料理出来るようになりました。
お風呂もピカピカにして使えるように。
トイレも便座シートやマットを敷いて完璧!
お母さんの苦労が目に沁みました。
夜に仕事終えておじさんはゆっくり歩いていました。
( 何か色々冷たかったかも知れないな…… 。
もし帰って来てたらもう少し優しくしてやろ。
まだまだガキなんだからな。
少しくらい掃除もしてやるかな。 )
何も知らずに二人分のケーキと、ピザを持って部屋へ帰って来ました。
「 ただい…… えっ! ってえっ!!? 」
そこは男の臭い城から家族の家へ。
女の子プライバシーの為に奥は萌の部屋へ。
カーテンや壁紙…… 上の電球まで違う。
「 そそそそそ…… そんな…… 。
ここに積み重ねてあったアイドル雑誌は!?
ここの缶コーヒーの空き缶コレクションは??
パチンコ雑誌も全然ないし。 」
帰って来るなり大騒ぎ。
奥の部屋から萌が来ました。
「 住むからには綺麗にしました。
いらない物は処分しました。 」
「 処分って…… えーーっ!?
俺の部屋から女の子部屋に??
何でこんなこんな事が一人で…… 。 」
怒りよりも困惑してしまい、部屋を何度も見回す。
すると勢い良く階段を上がる音が。
ガチャっ!!
大きな扉を開ける音が。
「 邪魔するよ、鍋作って来たから食べるよ。 」
大家さん特製お鍋がやって来ました。
「 うわぁ! 鶴ちゃんありがとう。 」
萌は大喜び。
直ぐにこの部屋の変貌した理由が分かる。
「 ババァ!! お前の仕業だな?
良くも俺のお城を…… 。 」
文句を言おうとしていると男三人が勢い良く入ってきました。
海鮮類やデザートや飲み物。
大量に買い込んで来ました。
今日は歓迎会のようでした。
「 みんなで楽しむぞぉ!! 」
トムさんが勝手にリーダーシップし、お祭り状態に。
おじさんはゆっくり、ゆっくり状況が分かって来ました。
「 お前らぁ…… 早く出て行けぇーーーー ! 」
怒りながらもみんなで鍋パーティー。
萌はこんな大勢でのご飯は初めて。
沢山笑い、沢山食べて大盛り上がりに。
「 これから宜しくお願いします…… 。 」
恥ずかしそうに萌が言うと、目を合わさずにおじさんは。
「 まぁ綺麗になったし許してやる。
ご飯はお前が作れよ?? 」
二人は少しですがお互いを知る切欠に。
不器用な親子の第一歩。
そして机の上には萌とお母さんの写真立てが飾ってありました。
長い一日がゆっくり幕を下ろしました。
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