第3話 2LDKと思春期


その日の夜。

二人はおじさんの家へ。

萌はダラダラ歩くおじさんの後を付いて歩く。


「 ガキんちょ、本当に狭いからな?

覚悟しとけよ! 」


何度も耳タコのように言っている。

はいはいと何度もうなずいている。


「 良いから、良いから。

男の人の家なんか結構見たことあるし。

住まわせて貰うんだから文句なんて言いませんよ。」


話ながら歩いていると、おじさんの家に着きました。

二階建ての小さなアパート。

建築されてからかなりの月日が経っていると分かるくらいに、老朽化が進んでいるアパート。

おじさんの部屋は二階。

階段を上がる度に鉄筋の階段なので、大きな足音が鳴ってしまう。


ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!


「 おいっ! 静かに上がれよ。

みんな寝てるかもしれないだろ。

ゆっくり上れよな、全くもう。 」


萌は仕方なくゆっくり上がる。

先行き不安になりそうな予感が漂ってしまう。

そして扉の前に着きました。


「 ここだ…… 俺の城だ。

足場にだけは気をつけろよ? 」


「 城?? 大袈裟な言い方ね。

期待してないから大丈夫。 」


準備が出来た所でおじさんは扉を開ける。

開けると同時にギーッ と大きな音が鳴る。

夜なので真っ暗で何も見えない。


「 お邪魔しま…… ゲホッ! ゲホッ!!

臭い…… これって。 」


ヘビースモーカーのお決まり。

部屋中はタバコの匂いが充満していて、壁もタバコのせいで変色してしまっている。

その激臭に鼻をつまみながら耐えて中へ。


「 うわぁっ!! 」


何かにつまずいてしまい前に倒れてしまう。


「 うぉーーいっ!! 何やってんだよ。 」


おじさんは言わんこっちゃないと、萌を怒鳴りつけました。

萌は倒れながらつまずいた原因を見ました。

それは山積みの雑誌の数々…… 。

更には周りを見ると足の踏み場もないくらいの、ゴミ屋敷状態に。


「 うぇっ!? これって…… ゴミ屋敷!? 」


カップ麺の空に飲み物も中途半端に残り置きっぱなしに。

新聞やお色気雑誌の数々…… 。

灰皿はタバコが山積みでテーブルに落ちている。


「 いやぁーーーーっ!! 」


綺麗好きな萌にとっては衝撃的な光景に。

おじさんは慣れたステップで奥の部屋へ。

そこには布団が敷きっぱなしになっている。

周りは当然散らかりっぱなし。


「 だから言ったろ。 汚いって。

住めば都って言うだろ? 文句言うなよ。 」


そう言って布団に横になりました。

萌は立ち上がり周りをジロジロ見てしまう。


「 男の部屋は汚いって言うけど、理想と現実は別問題よね。 」


男性の一人暮らしを甘く見ていた自分を恨みました。

仕方なくテーブルの周りだけでも少し片付ける事に。


「 うわぁ…… 汚い…… 汚い。

食べ終わった容器とか何でこんなに。 」


少し前までは綺麗な家でお母さんと楽しく暮らして居たのに、こんな地獄のような生活に。

片付けながら少し涙が出てしまう。

バレないように直ぐに拭いても、また直ぐにまた流れ落ちてきてしまう。


「 ん…… あっ。 」


おじさんは遠くから見ていたので、泣いているのが直ぐに分かってしまう。

気まずそうに目をそらしてしまう。


( だから言ったじゃないか…… 。

今更遅いからな。

この交換条件だってお前の方から申し込んできたんだからな。

俺には何の否もない…… 。 )


おじさんは罪悪感に襲われてしまっていました。

萌は片付けを終えて、テーブルの前に腰を下ろす。

何度も目を拭ってしまい、目が赤くなってしまいました。


「 ガキんちょーーっ!! だから言ったろ?

男はなぁ、自由に暮らすとみんなこんなもんだ。

我慢するんだな? あっはっはっは。 」


笑いながら食べ掛けのポテチを食べる。

バリバリ…… 。


「 うるさい…… 。 」


小さく何か囁く声が聞こえる。


「 ん? なんだって? 聞こえないなぁ。 」


すると勢い良く立ち上がる。

いきなりの事におじさんもびくっ! としてしまう。


「 うるさい、うるさい、うるさーーーーいっ! 」


不満がおじさんの煽りによって爆発!!

大声で怒鳴りました。

おじさんは急な事にびっくりして正座に。


「 私だって覚悟してたのよ!

どんな事だって耐えるって決めたのよ!

でも…… だからってこんな…… 。

酷すぎるのよ、この部屋は! 」


半泣きでおじさんに訴えつけました。

その真剣過ぎる眼差しで見られたら、心が苦しくなりました。

おじさんは黙ってしまい、何も言い返せなくなりました。


「 だから面倒くさいんだよ…… 。

嫌ならいつでも出ていけよ!! 」


そう言い外に出掛けてしまいました。

扉を強く閉めると衝撃が、家中に伝わってしまう。

萌は仕方なく横になりました。


「 何よ…… 怒りたいのはこっちよ。

ママ…… 寂しいよ。 」


頭ではとっくに理解していても、まだ認めるには時間のかかる問題。

思春期の女の子にはあまりにも大き過ぎました。

お母さんの写真を片手に寝てしまう。


外を意味もなくふらふら歩き続けている。

コンビニに寄ったり、タバコを吸ったり。

いきなりの事に戸惑っているのは、おじさんも同じでした。


( 何で引き受けちまうかね…… 。

大金貰えるから仕方ねぇか。 )


通帳を眺めては何に使うか?

いきなりの大金に実感は沸かず、ただ戸惑いの連続でした。


「 小腹が空いたな…… 。

何か買ってくかな。 」


そう言いコンビニへ。

店内でつまみやおにぎり、お酒へと手を伸ばす。


「 そう言えばガキんちょも居たんだった。

何か買ってやるか。 」


悪い事したと思い、自分とは無縁だったお菓子コーナーへ向かいました。

見てみると最近のお菓子は、パッケージは綺麗で目移りしてしまう程の種類。

チョコだけでも何十種類も存在している。


「 なんじゃこりゃあ…… 。

すげぇ種類…… タバコみたい。 」


迷ってしまい何を買えば良いか分からなくなる。

適当にカゴヘ入れて飲み物も買い、家に帰る事にしました。


その手には大量のお菓子が入った袋を持っていました。

結局ほとんど買ってしまう。

ゆっくりとビールを飲みながら、家にふらふらしながら帰って行く。

その日は綺麗な月夜でした。


「 ただいまぁ。 」


ゆっくり入るとリビングで、静かに横になり眠っていました。


「 ガキは直ぐに寝ちまうのね。

はいはい、おやすみなさいませ。 」


寝室に行こうと跨いで通ろうとする。

すると一枚の写真が手にあるのを気づきました。

ゆっくりと手から取りました。


「 あぁ…… お母さんの写真ね。 」


それは高校入学式のときの萌と、お母さんの記念写真でした。

おじさんはその写真を見ながらビールを飲む。


「 洋介君。 私達はいつまでも親友だよ。

困った時はいつでも言ってね?

力になるからさ! 」


高校生の頃に記憶が蘇りました。


「 バカかよ…… おめぇみたいな奴の力借りる事はねぇよ! 」


高校生の頃はバリバリの不良。

髪は金髪のリーゼント。

単ランにボンタン。

ルールを破りまくりのヤンキー全盛期。


「 そうかなぁ? 強がらないの!

ならさぁ…… 私が困ったり何かあったら、助けてくれる? 」


洋介に怖がらずに顔を覗き込むように話す萌のお母さん桜。

恥ずかしそうに直ぐに目を反らしてしまう。


「 暇だったらな…… 。

覚えてたら助けてやらない事もない。 」


照れくさそうに話すと、桜は嬉しそうに笑いました。


「 本当に!? 約束だよ。 」


その笑顔がおじさんの脳裏を過りました。

そしてゆっくり写真を手に戻しました。


「 桜…… 早すぎるんだわ。

死ぬなら死ぬって言えよ…… 。

俺は…… 俺は聞いてねぇぞ。 」


布団の上でビールを一気に飲み、現実を受け入れられずに眠りにつく。

萌には風邪引かないように掛け布団がかかっていました。


まだ二人は桜の死から立ち直れずに、静かに眠りにつきました。

少しでも傷の痛みを癒すように…… 。

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