第2話 プライドVSお金
家では遅くまでみんなで追悼を込めて、お母さんの思い語る者や萌についての今後を話し合う者達が居ました。
( ママの同僚さんや友達は凄い優しくしてくれる。
だからと言って引き取るかどうかは別。
他人の子供なんて育てたい訳がない。 )
萌は一人悲しそうに仏壇の前に居ました。
親戚のおじさん達はたまにこちらを見ている。
顔色を伺ったり、自分の話をしているのだろう。
するとゆっくりと近寄って来る人が。
「 萌ちゃん! ウチに来ない??
ウチなら家も広いし部屋だって余ってる。
そうしましょうよ!! 」
親戚のおばさんの一人……
お母さんのおばさんであり、約50歳以上。
子供も一人立ちして家には夫婦しかいない。
優しそうに語る姿は善人その者。
でも萌には表情である程度は分かってしまう。
( あっ…… 何か裏があるんだ。
笑っては居るけど作り笑い。
逆に作ってまで欲しい物があるんだろうな。 )
萌の秘密のお金を知っているのは、お母さんと自分だけ。
唯一あるとしたら事故死による多額の保険金。
その額は萌には知らされていない。
「 おばさん…… 少し考えさせて? 」
そう言うとおばさんは一瞬顔が引きつる。
その表情で疑惑から確信へ変わる。
この人は引き取りたいのではなく、お金目当てなのだと…… 。
直ぐにまたニコニコと表情を変えて。
「 仕方ないわよね。
少し考える時間も必要よね。
一つだけ忘れないでね?
私が一番の味方なんだからね??」
「 はい…… ありがとうございます。 」
萌は話し終わるとスタスタと歩いて外へ。
もう日も暮れて夜に……
雨も止み満天の星空が輝いている。
( はぁ…… どうしようかな。
おばさんの所しか行くとこないけど、間違いなくお金目当て…… 。
まだ子供だから何処も雇ってくれないし。
どうやって暮らそう…… 。 )
萌の頭の中はお母さんの事が離れません。
でもこれからの事も考えなければいけない。
どうしたら良いのか?
( そうだ…… 無駄に悪知恵働かなくて、私の方が知能が勝っていれば騙される事はない。
でも今の私より下の大人なんて居る訳も…… 。 )
考えながら家を見ると、タバコを吸っているおじさんが見える。
良く見るとネクタイも本当のネクタイではなくて、ネクタイ巻けない人向けのなんちゃってネクタイ。
靴はスニーカー…… 。
髪もボサボサで髭も剃っていない。
( …… 居たわ。
私より頭悪そうなの。 )
色々考えた結果、萌はおじさんの元へ。
「 おじさん…… ママのお友達??」
萌が質問すると何やら言葉に詰まってしまう。
頭をかきつつ言葉を選んでいるようでした。
「 昔のな…… 。
お前のお母さんは、すげぇ綺麗で誰にでも優しいかったんだ。
頭も良くて俺と正反対だったんだわ。 」
おじさんはしんみりしてしまったと思い、直ぐにタバコを消しました。
「 悪いな…… 俺もまだ受け入れられてない。
上手い話とかは苦手だ。
考えたり縛られるのが嫌いで、楽な道、楽な道と逃げ続けて今がある。
後悔ばかりあるんだわ。 」
( おじさんのその時の顔は、凄い悲しそうに感じた。
大人になっても大変なのは変わらないんだ。 )
萌はそう思いました。
「 つまんねぇ話ばっかしちまったな。
そんじゃあ…… 俺はそろそろ帰るかな。 」
そう言い頭を撫でて帰ろうとする。
直ぐに通り過ぎたおじさんの方に振り返る。
「 ちょっと待って!!
おじさん一人暮らし? 」
おじさんは立ち止まり振り返る。
「 あっ?? …… まあな。
それが何なんだよ。 」
萌はニコっと笑いました。
「 おじさん私を養子にしてよ! 」
突然の事におじさんの口は開きっぱなしに。
「 えっ? あっ!?
なんで俺が!!? 」
当然おじさんも何が何だかわかりません。
萌は一体どうしていきなり、こんな事を切り出したのでしょうか?
「 親戚のおじさん、おばさん達と暮らすの嫌だから頼んでるの。
お願いだから私を養子にして下さい。 」
萌は必死に訴え頭を下げました。
おじさんは頭をかきつつ近寄って来ました。
「 悪いな…… ガキの面倒見てる暇ないのよ。
ウチのアパートは狭いし、まだ独り身で子持ちは勘弁してくれ。
メリットがないんだわ。 メリットが!
可哀想だが俺なんかより、おじさんおばさんの家で暮らす方が何倍も幸せだ。
だから早く帰れ。 」
当然断られてしまう。
そしてタバコをまた咥える。
「 そう…… 。 」
萌は落ち込みながら下を向く。
おじさんは納得したと思い、一安心してため息をつく。
「 分かってくれたかね?
うんうん…… それで良いのだよ。
子供は何も考えず大人の言う通りにしてなさい。
それが一番! ハードボイルドの俺に、ガキの面倒なんか合わないのさ…… 。 」
格好つけながら偉そうに語りました。
満足そうにゆっくりまた帰ろうとする。
「 ねぇ…… これ見て?? 」
そう言いおじさんにある物を手渡す。
怪しそうに思いながら受けとる。
「 通帳?? これがドゥーしたんだよ。 」
子供だからとバカにした態度…… 。
萌はイライラしてくる。
「 それで私を家に置いてよ!
親子なんてのは肩書きだけで良いから。
私はあんな親戚とは暮らしたくない。
置いてもらう為の部屋代にして?
私の養育費としてさ。 」
そう言って家に走って行きました。
おじさんはタバコを吸いながら、起きている事態を把握出来ないでいる。
通帳が気になり軽く開いてみる。
( どうせガキんちょの貯金なんてたかが知れてるってのよ。
一…… 十…… 百、千…… 万。
一万円が…… えっと…… 千枚!!?
1000万!! あの1000万!? )
テレビドラマや映画だけの空想の物と思っていた1000万円…… 。
おじさんは腰を抜かしてしまう。
あまりの大金で無理もありません。
( 待て待て待て…… 落ち着くんだ。
あの子の面倒見てれば1000万??
でも俺の安息の地にガキんちょが…… 。
しかも男のプライドが折れてしまう。
責任…… ? 俺には重すぎる。 )
自分の中で数々のデメリットによって葛藤している。
お金なんて単純な物に心動かされてしまうのか?
もしこのお金なんかで動いてしまったら、あのガキんちょに間違いなく嘗められてしまう。
「 クソォーーーーっ!! 」
髪をぐしゃぐしゃにしながら悩みました。
男は一人プライドと金欲の間で迷い続ける。
家では萌の養子を名乗り出ていたおばさんが、里親になる事に話は進んでいました。
「 萌ちゃん!! 聞いて?
私が引き取る事になったから。
これからは私がお母さんだからね。 」
おばさんの顔は満面の笑顔に。
萌にはその表情が気に入りませんでした。
このおばさんに任せてしまったら、良いように全てを動かす主導権を握られるのが嫌で仕方がありませんでした。
それに比べてあのおじさんなら、単純なのでどうにでも誘導する事が出来る。
( ヤバイ…… そろそろタイムリミット。
あんな自由人ならお金に釣られない訳ないのに。 )
萌は自分の考えが間違っていたのだろうか?
と頭の中がぐるぐるの回り続けてしまう。
「 さぁ…… 行こうか!! 」
そう言いながら手を伸ばされる。
( もうダメだ…… おしまいだ。 )
諦めて目をつぶってしまう。
全ての計画が崩れさろうとしていた時。
ガチャっ!!
家の扉が激しく開く。
みんなの目線も扉へ。
入って来たのは勿論おじさん。
「 ちょっと待ってくれーー いっ! 」
話の仲裁に入ってきました。
「 何の用なのよ洋介君。
もうウチで引き取る事にしたのよ。
誰も意義や反論はないから。 」
おばさんはもう萌の里親になった気持ちでした。
なので間に入るおじさんを疎ましく思いました。
「 いいや…… それはあんたが決めた事。
本人の意思を聞いたのか?
俺はそこが気になる!! 」
強気で抗議しました。
周りも唖然としてしまう。
あのだらしない自由人が、一人の女の子の為に真剣に物申しているのだから。
「 あんた…… 血縁関係でもないだろ?
そんなあんたに言われたくないわ。 」
おばさんが強く反論しました。
「 血なんか関係あるか!!
俺が…… 俺が育てるんだよっ! 」
おじさんも負けずに言い返しました。
萌は立ち上がり。
「 私もこのおじさんと暮らしたい…… 。 」
この発言に周りも仰天してしまう。
おじさんもニッコリ。
その日、二人は親子になりました。
そのとき萌はやっと少し笑顔になりました。
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