偽装親子

ミッシェル

第1話 思春期とおじさん


( 急な事故死…… 。

私は一人ぼっちなってしまった。 )


高校一年生の女の子。

藤堂萌とうどうもえ

気は強く頭も良く誰にでも優しく、お母さんとは二人暮らしで頑張って来ました。

飲酒運転のドライバーにより、母は二度と帰ってはきません。

父は早くに亡くなり、顔も知りません。

親戚もほとんど居なくて、天涯孤独になってしまいました。


でも泣いたりしません。

泣いていたら誰も引き取ってはくれないと思ったからです。

泣いてばかり居たら面倒で引き取りたい。

面倒で思わなくなる。

萌は亡くってからは、自分しか居ない。

強く生きる事にしていました。


「 萌ちゃん…… 大変だったね。

私達が出来る限り力になるからね。 」


( ママの親戚のおじさん。

会った事も数回…… 。

面倒だなと顔からにじみ出ている。 )


萌は人の表情から機嫌が分かる。

頭が良いのもあるのかも知れませんが、生まれつき人の顔の変化に敏感なのです。

いつのまにか喜怒哀楽を顔だけで判断出来るようになっていました。

まさにこのおじさんも…… 。


「 お母さんの事はなんと言うか…… 。

何でも言ってね? 」


( お母さんの親戚かな?

顔も全く知らない…… でも分かる。

これは社交辞令のような会話。

仕方なく言ってるだけ。 )


萌は愛想良く話してはいますが、相手の心の中が手に取るように分かっていました。

自分と言ういらないモノを、誰が引き取るか擦り付け合い。

そこに居る人達からは愛情など、1ミリも感じませんでした。


( みんな上部だけの適当な会話。

仮面を着けていて中にある本性は、誰にもバレないように必死だ。

大人になるって嘘が上手くなること?

本音では話さないのが当たり前? )


萌も顔には出しませんが、そんな大人達に吐き気が出る程でした。

お母さんの友達とかは、凄い優しくしてくれる。

同僚のおじさんやおばさんも泣きながら手を握ってくれる。


優しい人達の気持ちが良く分かる。

本当だったら泣いてしまうくらい嬉しい。

その涙も少し前に枯れ果ててしまいました…… 。


親戚達で隣の部屋では、萌の今後の話をし始めました。

あまり聞こえませんが間違いなく、みんな嫌がっているように感じる。


( こっちから願い下げよ…… 。

こんなゴミみたいな親戚。 )


萌は歯に力が入り、強く噛みしめている。


するとそこへ一人の男がやって来ました。

黒い喪服にネクタイは上手く付けられていない。

髪はボサボサの癖っ毛。

靴は見られないと思ったのか、スニーカーで場違い。


( 誰よこの人…… 頭悪そうで、一般常識すら分からなそう。

ママくらいの年なのかな? )


バカにしていました。

その男は部屋に上がって真っ直ぐ仏壇へ。


「 ぐすっ…… おっ…… うぉ…… うぉう…… 。 」


変な声が聞こえて見てみると、男は大泣きしていました。

泣きながら手を合わせて、お母さんの早い死を悲しんでくれている。

萌は不意を突かれたのか? ゆっくり涙が溢れる。


( あれ…… ? 無意識に涙が。

どうして!? )


その男はバカだったり非常識かもしれません。

でもその男の真っ直ぐ過ぎるくらいの気持ちが、痛いくらい伝わって来ました。

直ぐに涙をハンカチで拭き、バレないようにしました。

泣いていたら面倒な子だと思われるから。


その男は長い時間仏壇に向かい、何度も何度も線香を点けました。


( ん?? 線香って一人なのでは?

あまり詳しくないけど、多分そうだよ。

この人やっぱり…… 。 )


少しおバカなのでした。

それでもその男の優しさや、お母さんへの思いは伝わりました。


その後にご飯の時間になり、用意された料理を食べる事に。

大人達はお母さんの思い出を話ながら、お酒を飲みつつご飯を食べている。

お母さんの友達は悲しみながらも、少しだけ手をつけている。


萌は全く手をつけませんでした。

悲しみで食欲がないのもありますが、これからどう生きていくかが心配で、喉を通りそうにありませんでした。


あのおバカな男も席に着く。


「 あれ?? 洋介じゃない? 」


お母さんの友達がおバカに気づきました。

話を聞いているとお母さんの同級生のようです。


「 桜が亡くなったって聞いて、来ない訳がないだろうよ。 」


藤堂桜とうどうさくらはお母さんの名前。

45歳で同級生が沢山来てくれている。

男は赤沼洋介あかぬまようすけ


( ママは美人で頭が良かったから、こんな人でも優しくしていたのかな? )


勝手に関係を妄想していました。

洋介は寂しそうにビールを飲んでいる。

周りが言うにはショックで元気がないらしい。


でも萌には一つだけ強い武器がありました。

萌の通帳には1000万と言う大金がありました。

どうしてなのか?


それはまだ小学生の頃に、宝くじが当たって使わずに貯金しました。

そのお金を使っていれば、もう少しまともに暮らせていたのに、お母さんはもしものときに使いなさいと言って貯金しました。

さすがはお母さん。


( このお金があれば私を引き取りたい。

って言う奴はわんさか居るだろう…… 。

ただお金目当てだと簡単に奪われてしまって、この先の生活が不安だ。

どうやってこのお金を武器に出来るか…… 。

そこが私の頭の使い所よ。 )


萌は周りの大人を全く信じていません。

どうにか施設に入らないようにする為に、必死に趣向を凝らしている。


隣の部屋からは強い語気で、何か話し合いをしていました。


「 だからウチでは無理なんだって!! 」


その内容はやっぱり萌の事でした。

みんなで誰が引き取るか?

必死に話し合っている。

扉を閉めていますが、強い口調と大声なせいで駄々漏れになっていました。


「 そんなんだったら私も無理よ?

ウチにも受験生が二人も居るんだから!! 」


その話し合いは互いに引き取りたくない理由を、強く言い合っていました。

いきなり高校生の女の子を引き取りたい。

そんな人は居ません。

会った事だって数回くらいの人もいる。

お金もかかるので厄介事には巻き込まれたくなかったのです。


聞かないようにしてても聞こえてくる…… 。

自分の存在価値が分からなくなってきました。


( もういいや…… 。

学校は辞めなくちゃいけなくなるけど、あのお金持って一人で生きてやる。

こっちから願い下げよ!! )


立ち上がろうとすると、一人の男が立ち上がりました。


( あっ…… あのバカなおじさん。 )


そのおバカなおじさんは隣のふすまを開けました。


「 今日は葬式だろーーが!

無神経過ぎるんじゃねぇの!? 」


その瞬間に部屋中静まり返りました。

急に大声で怒るので、みんなびっくりしてしまう。


「 すいやせん…… 。

ちょっと言い過ぎました。

頭冷やして来ますわ。 」


そう言い外へ行ってしまう。

当然親戚達はおじさんの悪口を始める。


「 何だ!! あのだらしない喪服の男は! 」


一番最年長のおじさんが怒ると、チクるように教えるおばさん。


「 あれですよ、ふらふらろくな仕事もしてない貧乏人。

桜の昔からの同級生。

桜とは正反対でずっと遊んでるバカもんです。 」


とんでもない言われ方でバカにされていました。

さっきまでの仲の悪かった親戚達は、イライラの矛先をおじさんに向けてしまう。

飛び交う悪口…… 。


萌は後を追うように外へ。

部屋の中が息苦しかったのもありますが、あのおじさんが気になっていました。

外は雨…… 。

少し歩いても見つかりません。


「 あれぇ…… こっちの方に来たと思ったんだけどな。 」


そう言いながら周りを見渡すと、小さな池の側に一人立って居ました。

タバコを咥えて一人悲しそうに立っている。


「 あの…… さっきはありがとう御座います。 」


男は振り返る事なく池を見詰めている。


「 別に…… 我慢出来なくて言っただけだ。

お礼される事は何一つしてない。 」


そう言いながらずっと雨に濡れながら、池を見続けていました。


「 ガキは風邪引くから早く戻れ。

だからガキは面倒くさいんだ。 」


そう言っておじさんは家に帰って行きました。

通り過ぎる瞬間に萌はおじさんの顔を見ると、悲しそうに泣いてるように見えました。

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