第10話 謎の数値

 俺に発現したジョブ【七難八苦サンドバッグ】。

 ダンジョンの浅層で、俺は仮パーティーのメンバー、ココアとエミリーに強力して貰いながら、その能力を確認していた。


「魔力9か。1減っているが、魔力装甲マナ・アーマーの維持コスト――自然消費分かもしれないな」

「ああ、もう、じれったい! 武装解放トランスレーション!」


 ココアはエミリーにスモールソードをポイッと渡すと、 魔力装甲マナ・アーマーを身にまとった。


「これで一発殴れば分かるって。ほら、アキラ。盾を構えて」

「お、おい、ムチャするな!」

「軽く殴るだけだから。ていうか、私の軽い攻撃くらい止められないで、モンスターを相手にした時にどうするのさ」


 それは――確かに一理ある。

 それにしても、「ジョブさえ手に入れば」と、ずっと渇望していたものの、ジョブが発現したらしたでこの有様か。

 あの女神は俺を一体どうしたいんだ?


「じゃあ行くよ!」

「おっと。よし来い!」


 ココアは素早く踏み込むと――ドスン!


「ぐっ!」


 盾に彼女の拳が打ち付けられた。

 ズシリと腕に伝わる衝撃。

 大体、上層のモンスターの攻撃並みか。


「あ、ゴメン。思ってたより、力が入っちゃった」


 おい! ・・・まあいい。耐えられないような攻撃じゃなかったし、ついでにココアの攻撃力を知る事も出来た。


「それでどうだった?」

「いや、普通にモンスターの攻撃を防いだ時のような感じだな。盾が無いとキツかったと思う」

「ええっ?! 今の攻撃で?! このくらいならエミリーだって平気な顔してたよ?」

「コ、ココア! そこはちゃんと、武装解放トランスレーションしてた時、って言ってよ!」


 エミリーが真っ赤になってココアの服を引っ張った。

 何なんだこの可愛い生き物は。

 それはさておき。エミリーが耐えられたという事は、あまり防御力の高くない【小賢者セージ】でも耐えられる攻撃だった、という事になる。


(どういう事だ? 【七難八苦サンドバッグ】のジョブは防御特化じゃなかったのか?)

「アキラは魔力が10しかないんでしょ? 魔力が尽きて耐えられなかったんじゃない?」

「いや、魔力がなくなれば魔力装甲マナ・アーマーが解除される。実際、俺の残り魔力は9――9?! はあっ?! どういう事だ?!」


 攻撃を受ける前と受けた後、俺の魔力は全く変化がなかった。

 つまり先程の攻撃に対して、魔力装甲マナ・アーマーの防御は働いていなかった事になる。

 俺は自分の魔力装甲マナ・アーマーを確認した。


(うん。相変わらずSM的なコスチュームにしか見えんな――じゃなくて、見た目はどこも変わりはないな)


 どういう事だ? 魔力装甲マナ・アーマーに見えて魔力装甲マナ・アーマーじゃない?

 いや、そんな話は聞いた事がない。


「・・・ダメだ分からん。一度この状態でモンスターと戦ってみるしかないか」

「大丈夫? 魔力装甲マナ・アーマーの防御能力が役に立たないんでしょ?」


 俺はココアに頷いた。


「大丈夫だ。元々俺はジョブ無しで冒険者をやっていたんだからな」

「あっ・・・と。そういえばそうだっけ」


 そう。魔力装甲マナ・アーマーが頼りになろうがなるまいが、いつものように――ジョブが無かった時のように――戦えばいいだけの事である。

 むしろ体力系のステータスが上がっている分だけ、今までよりも楽に戦えるだろう。


「じゃあモンスターを探しに移動しようか」


 俺は武装解放トランスレーション状態を解除した。

 黒いSMコスチュームが姿を消す。

 それと同時に、視界の片隅に入ってた数字も――魔力やステータス値を表す数字も――消滅した。


 ――ん?


 数字が消える瞬間、俺は違和感を感じた。


「何だ今の数字。あんな数字さっきまでなかったはずだが・・・」

「どうかした? アキラ」

「あ、いや、何でもない」


 魔力の下に2という数字が見えた――ような気がしたのだが・・・ただの見間違いだったのかもしれない。


(まあいい。次に武装解放トランスレーションした時に確認しよう)


 俺達はモンスターを探して浅層の移動を開始したのだった。




「これで最後だ」


 俺は屍蟲にサーベルを叩き込んだ。

 魔力糸を断たれたモンスターの体が、グズグズと崩れ落ちる。

 あれから小一時間。これが五回目の戦いとなる。


「・・・まただ」


 結論から言うと、俺のジョブ【七難八苦サンドバッグ】の能力は、依然として不明なままだった。

 体力は上がっているけどそれだけ。

 攻撃力が増えた訳でも、素早さが増した訳でもない。

 試しにモンスターの攻撃を受けてみたが、防御に関しても相変わらず。

 魔力装甲マナ・アーマーは全く機能しなかった。


(当然、魔力の消費も無し・・・か)


 正確に言うと、魔力装甲マナ・アーマーを維持するために必要な魔力は消費している。

 大体、一分間に1程度。つまり、最大十分戦える計算になる。

 普通の前衛職なら、魔力が1あれば四~五分ほどは戦えるので、俺のジョブは非常に燃費が悪い事になる。


(それだけのコストを払って防御力はまるで無しか。本当にこのジョブは、一体何の役に立つんだ?)


 実は超大器晩成型で、レベルを上げて技を覚えていけば強くなる、という可能性も無くはないのかもしれないが・・・。

 

「まさか、レベル1から上がらないジョブ、とか言い出さないよな? 妙にありそうで怖いんだが」

「どうかしたの? アキラ」


 モンスターの残骸から小魔石を集めていたココアが俺の呟きに反応した。


「いや、何でもない」

「あっそ。ねえ、それより次は私達も戦わせてくれない? 早くジョブレベルを上げたいんだよね」


 モンスターとの戦闘は、その戦闘での貢献度によって入る経験値が変わって来る。

 俺に任せて見ているだけの二人には、ほとんど経験値が入っていなかった。


(正直に言えば、もう少し試してみたかったが・・・)


 しかし、パーティーを組んでダンジョンに潜っている以上、身勝手は許されない。

 俺は「じゃあ次は二人に頼む」と答えた。


「よし! 一緒に頑張ろうね、エミリー!」

「う、うん・・・」


 張り切るココアに対して、エミリーはあまり乗り気ではないようだ。

 引っ込み思案な性格だし、戦いが好きじゃないのだろう。

 だったら何で冒険者になったんだ? と思わないでもないが、彼女なりに何か思う所でもあったのかもしれない。

 もし、正式にパーティーに誘うような事になれば、その時に改めて尋ねてみるべきか。


(それにしても、今回は3か・・・)


 先程、魔力の下に現れた数字。

 あの時は何の数字か確認が出来なかったし、次に武装解放トランスレーションした時には消えて無くなっていた。

 そのため俺は、「ひょっとして見間違いだったのかも」と思っていたのだが、二度目の戦いの時、その数字は再び現れたのである。


「今度は1か」


 そう。それはモンスターの攻撃を受けた時に現れた。

 数字の1。そしてそれが何の数字だったかと言うと――


「MP? MPって、あのMPか?」


 MP。マジック・ポイント。ゲームによってはマジック・パワー。

 体力を表すHP――ヒット・ポイントと並んで、ゲームでは非常にメジャーなステータス値である。


「しかし、魔力は別に存在しているんだよな」


 そう。魔力はMPとは別の枠で表示されている。ちなみにこの時の数値は8。武装解放トランスレーションしてから二分が過ぎた所だった。


「どういう事だ? 魔力とMPは違うカテゴリーなのか?」


 訳が分からないうちにその時の戦闘は終わった。

 ちなみに戦いの後、色々と試したが、1だけ発生したMPは、何に使うものか分からなかった。

 俺は釈然としない思いのまま武装解放トランスレーションを解除した。

 その後、俺達は次のモンスターと遭遇。武装解放トランスレーションした所、MPの表記は消えていた。


(現れたり消えたり、一体何なんだ?)


 俺は謎の数値に翻弄されていた。

 そして今回の戦闘である。

 今回は試しにわざとモンスターの攻撃を何度か受けてみた。

 その結果、またもMPの数字が現れたのである。


「今回は3か。どうやら戦闘中に受けたダメージ量によって数字が変わるみたいだな」


 ココアの攻撃を受けた時は2。次の時は1。今回、わざと無防備に受けた事で3。

 おそらく、数字イコールこの戦闘で俺が受けたダメージ――ダメージ量と考えて間違いはないだろう。

 そして武装解放トランスレーションを解除すると数値は消え、リセットされる。


「だが、それを知って俺に何の意味がある? 敵の攻撃力のデータを取るのに使うとか? そんな能力が必要か? いや、待て」


 その時、俺は不意に気が付いた。

 まさか、まさかこの数字は・・・


「MPのMは、マジック、じゃない? SMのM? MPは『マゾ的な数値ポイント』を表しているのか?!」

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