第9話 魔力装甲《マナ・アーマー》
【
ココアは先程の失態に、いつもの元気を失くしている。
俺としてはむしろ早めに問題点の確認が出来て良かったくらいだが。
こうして歩き始めて数分後。俺達は小さな泉のある広場にたどり着いた。
「ここが目的地だ。ここを今日のキャンプ地にしよう」
ダンジョンの中には、所々にこういった水場が存在している。
モンスターが俺達普通の生物とは根本的に構造が異なる魔法生物とはいえ、水が無ければ干からびてしまう。
水場も無いようなダンジョンではヤツらも生活出来ないのだ。
「最近どこかのパーティーがキャンプをしたようだな。利用させて貰おう」
広場の壁にはテントのローブを引掛けるためのネイルペグが打ち込まれていた。
ダンジョンの床や壁は硬い岩で出来ているが、別に壊せないわけではない。
ならなぜ、誰も壁を壊してショートカットを作らないか?
実はダンジョンの壁は一定周期で元の形に戻る性質があるのだ。
つまり、せっかく苦労して穴をあけても、いつの間にか元に戻っているのである。
(今までは、「ダンジョンとはそういう物だ」と疑問にも思わなかったが、これってどういう原理なんだろうな?」
冒険者アキラの頃には疑問に思わなかった事でも、
そもそも、ほとんど教育を受けた事のないアキラとは違い、
つまりは教養が違うのだ。
俺は手早くテントを張った。
テントと言っても、元の世界でキャンプに使うような立派なものではない。
壁から床にロープを張って、そこに帆布を被せる簡易的なものだ。
ダンジョンの中にテントを張る意味があるのか? と聞かれれば、「必ずしも必要ではない」と言わざるを得ない。
だが、人間というのは不思議なもので、広い洞窟のド真ん中で寝るよりも、こうして仕切られたパーソナルスペースで寝る方が、不思議と安心出来るのだ。
冒険者同士の話で言えば、自分の荷物が他人の物と混ざらなくする、という意味もある。
(それにウチの場合は、男女混合パーティーだからな)
プライバシーの保護は、女性冒険者と一緒に行動する際のエチケットである。
勿論、そんな事を言っていられない状況になる時だってある。しかし、そんな切羽詰まった状況にでもならない限り、互いのプライバシーを守るのは円滑な人間関係を維持するために重要だった。
自分のテントを張り終えた俺は、ココアとエミリーの二人の様子を伺った。
前のパーティーのペグが残っていたのが幸いしたのだろう。二人は若干手間取りながらも無事に自分達のテントを張る事に成功した。
「じゃあ、このキャンプを中心にモンスターを狩って行こうか」
「依頼の小魔石は、今10個くらい集まっているのよね。じゃあ後70個か」
70個くらいなら、早ければ正午を回った所で集まるだろう。
どんなに手こずったとしても、今日中に達成出来ない事はないはずだ。
という訳で――
「という訳で、これからは俺のジョブの確認をメインに探索を行わせて貰いたい」
「――そういう約束だし。構わないけどさ」
ココアは少し不満そうに返事をした。
面倒臭がっているのだろうが、俺としてもここは譲る訳にはいかない。
なぜ俺がこんな余裕を持ったスケジュールを組んでいるのか? それは自分のジョブを確認するためなのだ。
ちなみに町の中で
現代日本で言えば、町中で抜身の日本刀を振り回すようなものだ。
即座に警察が――衛兵が飛んできて、問答無用で捕まってブタ箱にブチ込まれ、冒険者資格もはく奪されてしまう。
「とりあえずモンスターを探そう。最初は単独でうろついているヤツがいい」
俺達はキャンプ地に荷物を置いて身軽になると、ダンジョンの探索を開始した。
俺は手を上げて後ろの二人を止めた。
その場にジッと息をひそめていると、前方の通路からカサカサとモンスターが這いまわる音が聞こえた。
モンスターだ。
エミリーが驚いたように呟いた。
「スゴイ。本当にいた・・・」
「ああ、そうだな。多分一匹だ。申し分ない。俺のジョブを試してみるいいチャンスだ」
俺はココアに振り返った。
「大丈夫だとは思うが、もし何かがあったらフォローを頼む」
「分かったわ」
俺は鞘からサーベルを抜くと――緊張にゴクリと喉を鳴らした。
(そういえばジョブを発動させるのは初めてだった。いくら町中では許可なく
なんとも間抜けな話だが、俺は一度も
冒険者になって五年。とうとう俺もジョブを発動させる。
俺は感慨深い思いと共に、「本当にジョブが発動出来るのか?」などという無意味な不安すら感じていた。
「何を今更。みんなやってる事だろうが。――
その瞬間、俺の体が光を帯びた。
「これが・・・これが俺のジョブ。【
光が収まった時、俺の体は
色は黒い。例えて言うなら、黒い艶のあるレザー生地か?
その生地が、股間、そして胸元を覆っていた。
(いやいや、このデザインはどうなんだ?!)
急所を守っている、という点では何もおかしくはないだろう。
ただし、鎧ではなく、レザー素材に見えるのが問題だ。
ぶっちゃけ、黒い布製のブーメランパンツと、へそ出しのぴちぴちタンクトップ(しかもレディース)を着ているようにしか見えないのだ。
(装備の上から装甲されているからいいが、これ、もし裸に直接装甲してたら、かなりヘンタイ的過ぎないか?)
一度そういう風に見えてしまうと、もう、装備の上から無理やりSM的なコスチュームを身に付けているようにしか見えなくなってしまった。
しかし当然、そう思うのは前世の記憶のある俺だけで、ココア達は「ふうん」という顔をしながら、しげしげと俺の姿を眺めている。
それがまた何と言うか、背徳感を刺激する。
(こ、子供に見られている。このSM的なコスチュームを。これはこれで興奮してくる物が・・・いや、落ち着け。落ち着け俺。俺は仕事に趣味は持ち込まない男だ)
その時俺はハッと気が付いた。
(二人の前でこれなら、Sランク勇者パーティー『竜の涙』のメンバーの前で
【
もしも彼女達に今の俺の姿が見られたら――
(いや、その時はむしろ裸に
「アキラ?」
「・・・ゴ、ゴホン。いや、何でもない。ちょっと想像していただけだ」
「想像?」
いかんいかん。今は戦いに集中しないと。
「ふむ、どうやらこのジョブは防御力特化のようだ。これは使い辛いな。ええと、魔力は10。――じゅう?!」
あまりに衝撃的な数値に、俺はつい大声を出してしまった。
通路の向こうでモンスターが逃げ出す音がする。しかし、今の俺はそれどころではなかった。
ココアもエミリーも、驚きに目を見張っている。
エミリーに至っては、フードで顔を隠すのも忘れて俺をガン見していた。
初めてまともにエミリーの顔を見たが、目がぱっちりとして意外と可愛らしい顔立ちだったんだな。
いや、それはともかく。
「はあっ?! 魔力10って?! 私だって100はあるわよ!」
「わ、私は200」
そう。それくらいはあるのが普通だ。
前衛職は100。魔法を使う後衛職は(エミリーは純粋な後衛職とは言えないが)200はあるのが当たり前だ。
魔力とは
また、使用者が受けたダメージも肩代わりしてくれる。
その際、受けたダメージは、本人の魔力が代わりに消費される。
ゲーム風に言えば、魔力はMPとHPを合わせた数値、という訳だ。
強化魔法にMPを使い、前衛で戦うエミリーの【
「その魔力が10・・・いくら俺のジョブレベルが1だからって、こんな数字はあり得ないだろう」
俺は愕然として呟いた。
俺はココアに振り返った。
「ココア。試しに軽く俺に攻撃をしてみてくれ」
「えっ? いいの? そんな魔力じゃ防げないと思うけど」
「だから軽くで頼む。間違っても
「そ、そんな・・・」
エミリーは俺を気遣ってしり込みしているが、ここで確認しておかないと、危なくて実戦では使えない。
俺はもう一度彼女に頼み込み、どうにか納得して貰った。
「それじゃ行くよ」
「ああ。軽くだぞ。軽く」
俺は小型の盾を前に出し、防御の構えを取った。
(俺、前世でも注射とか苦手だったんだよなあ)
「やっ!」
ガチン!
「痛たた。どうだった?」
ココアはろくに剣を使った事がないようだ。剣で盾を突いた衝撃に驚き、痛そうに手を振っている。
「・・・いつもと大して変わらない感じだが。
俺の感想は、一言で言えば「普通」。
「そんなはずないと思うけど? 私の
「わ、私も」
そうは言われても・・・そうだ魔力は?
「9か。1減っている。だが、これは
俺は困惑していた。
一体何なんだ? 俺のジョブは。
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