第4話 ステータスオープンと叫べるのは転生者の特権。


 それは、10歳の誕生日。


 チートデーを迎え、久々のご馳走にマジで涙を流しながら頬張っていると、父さんがプレゼント……折りたたみ式の訓練用槍と魔法制御の教本……と共に、虹色に輝く小さな二枚組の板を束ねた、ドッグタグのようなペンダントを渡してくれた。


 その虹色のペンダントは一体なんなのかと指先が触れた瞬間、ぱちりと静電気が弾けたかのような小さな衝撃を感じた、その時だ。


 フォン、というこの場に―――いや、この世界に・・・・・そぐわない、やけに軽い電子音SEが聞こえた後、急に目の前に現れた『それ』を見て、僕は本当に目ン玉が飛び出るかと思うぐらい、驚愕することになった。




――――――――――――――――――――――――――――――

名前:ルドス・ティーツァ

種族:人間

年齢:10

性別:男


流派:―


基礎能力値


精神:28 魅力:14 技術:18

俊敏:6 筋力:16 生命:8

知性:19 体格:10 教養:23


HP:29/29

MP:23/23


所持技能


【共通語 4/10】【歴史 4/10】【経理 2/10】

【登攀 3/20】【跳躍 5/20】【隠密 4/30】

【捜索 3/20】【交渉 1/10】【諜報 5/30】

【拳 1/20】【キック 4/20】【投擲 2/20】

【魔力操作 4/20】【風魔法 3/10】【火魔法 2/20】

【槍術 5/30】【剣術 1/10】【応急手当 6/10】

【回避 2/10】【防御 2/10】【受け流し 4/30】



特殊技能


【雷魔法1/30】【現代知識 -/-】【日本語 -/-】


スキル一覧


【モンスター】【善人】【努力家】【根性】

【役割演技】【転生者】【原作知識】


技一覧


【拳】

〈ぶん殴り〉


【キック】

〈ハイキック〉〈ローキック〉〈前蹴り〉

 →【投擲】派生:〈シュート〉


【槍術】

〈突き刺し〉〈二段突き〉〈薙ぎ払い〉

 →【投擲】派生:〈投槍〉〈ピアッシングシュート〉 


【剣術】

〈振り下ろし〉


【風魔法】

〈エアブレッド〉〈エアカッター〉


【火魔法】

〈ファイアブレッド〉


【雷魔法】

〈掌雷〉



――――――――――――――――――――――――――――――




 『それ』は、前世で何度も何度も見ていた―――『FW』の「ステータス画面」が僕の目の前に浮かんでいたのだから。



・・・



 以前も説明したが『FW』というゲームは、TRPGに大きく影響を受けたゲームである。


 それ故に、ごく普通のRPGのようなキャラクターレベルは存在せず、昔の完全スキル制のMMORPGのような仕様になっており、特定のスキル―――『FW』では【技能】という名称で存在しているそれを何らかの形で習得し、【技能】の熟練度を上げていくことによって、レベルアップとは違う、リアリティのあるキャラクターの成長を表現している。


 そして『FW』では【技能】の熟練度だけでなく、基礎ステータスの上昇も行え、それらを育成していくことによって、キャラメイク時点では一般人と変わらないようなステータスのキャラクターでも、終盤では名のある英雄と肩を並べるような勇者に育成が可能であった。


 そうした自由な育成要素でキャラクターに愛着を持たせ、「自由・・」という要素により行動の選択をある程度狭める事で、より緊張感を与える役割もあった。


 そんな『FW』というゲームを語る上で絶対に外すことのできない、このゲームの根幹とも呼べる、異次元と評される程の自由な育成要素だが、これはこのゲームの一二を争うほどの個性であるが、同時に大きな欠点でもあった。


 よく考えてほしい。


 軽い気持ちで始めたゲームの難易度が異次元に高かったり、出来ることが多すぎたり、説明が複雑でよく分からなかったら、どうする?



 常人であればその時点で投げる。



 実際『FW』リリース当初……当時はフリーゲームとして遊ぶことの出来たこのゲームの評価は一律にして「よくわからんし、難しいゲーム」として、割と酷評されていた。


 ……が、そんな時、某動画サイトで「TRPGリプレイ」というものが爆裂に流行り始めた。


 それまでマイナーもマイナーであったTRPGというゲームジャンルはその瞬間、かなりの人間が認知するメジャータイトルとなり、連日様々なタイトルのTRPGリプレイ動画が投稿されることとなった。


 そんな空前のTRPGブームの中でひっそりと、だが確かに火が着き始めたゲームこそが、この『FW』だった。


 当初はプレイされることなく、ひっそりと存在していただけのそのゲームは幾人もの先駆者兄貴たちの手によって開拓され、どんどんと新規プレイヤーが参入した。


 その頃には当初の酷評から手のひらを返したように称賛されるようになったりもしたが、そんなことはどうでもいいのだ。


 重要なのは、新規参入を助けるに至った「攻略Wiki」が創設されたことである。


 これにより難解であった様々な要素も、先駆者兄貴と廃人プレイヤーにより検証と解説が行われ、漸くプレイ環境が構築されていった。


 ……さて、此処までで何が言いたかったのか、だが。


 『FW』というゲームは「攻略Wiki」を見ること……つまり、プレイヤー間での情報共有を前提としたゲームであるということだ。


 こんなもんを手探りでやろうと思ったら、それこそ一度きりの人生では足りたものではない。


 だが、自他共に認める『FW』の廃人プレイヤーである僕ならば、攻略Wikiなど見ずとも殆どの情報が頭の中に入っているし、なんなら他のプレイヤーも知らないような裏ワザじみた攻略情報も知っている。


 だから、僕は思ったのだ。



 5年もあれば―――、と。



 とはいえ5年で気付けたのは不幸中の幸いであり、それからはひたすらトレーニングを行い、自身の「育成」に全力を注いできたわけだが……。


 やはりゲーム的にステータスが確認できない状態だったため、闇雲に自分を鍛え続けることしか出来なかったため、周囲からの評価は散々なものになってしまったが、こんな少年期を送ってきた報いはあった、というわけだ。


 因みにステータスを表示してくれたこの虹色のドッグタグは「解欄板」と言うらしく、初めてその名前を聞いた時―――



「え?これってお隣さんに回さなきゃいけないの?」



 と思ったが、この世界には「回覧版」はないし、別にこの「解欄板」もお隣さんに回さなきゃいけないわけでもない。


 いや、本来はかなり貴重なもので村とか町に一つ保管しておくようなレベルの貴重品で、使い回すのが基本らしい……あれ?これ回覧版じゃね……?


 ま、まぁ。ということで、個人で私有しているのはなかなか無いらしい。


 そんなもんガキにほいほい渡していいのかと思わなくはないが、父さん曰く―――



「日頃の努力が見えたほうがいいだろう?」



 ……多分、これも遠回しに僕を気遣ってくれてのことだったんだろうが、僕はまんまと父さんの思惑にハマり、ダイエットを止めるに至った、という訳である。


 とはいえ、止めたのは食事制限と糖質制限だけで、トレーニングは継続しているのだが、家族とのコミュニケーションが増えたのもあって、以前よりは大分落ち着いた日常を過ごしている。


 そんな僕が次に行おうとしていたのは、好感度の荒稼ぎ……もとい、同年代との交流であった。



===



 『FW』には数多くのマスクデータが存在していた。


 マスクデータとは、プレイヤーに直接開示されることのない情報のことであり、その種類はカルマ値、健康値、経験値、熟練度、相乗効果シナジー……etc。


 寧ろ見えているデータのほうが少ないんじゃないかと言われるぐらい、とんでもない数のマスクデータがあり、その数多あるマスクデータの中の一つに「好感度」というものがあった。


 『FW』ではプレイヤーキャラが「探索者」として活動していく内に、様々なNPCと関わりを持つことになるのだが、この好感度は読んで字の如く、そのNPCとの関係値を表すモノで、±100の間で内部数値が増減し、マイナスになれば嫌われ、プラスであれば好意的に思われているという、割とありがちな要素である。


 だが『FW』の好感度システムはやはり他とは一線を画するものだった。


 キャラ毎に設定された「性格」や、〈来歴〉等による細かすぎる基準と判定により、プレイヤーの一挙手一投足……小さな行動一つでさえ乱高下する。


 大きなリターンを求め大きく動けば一気に地獄を見ることになることはしばしばであり、特に恋人関係に至るまでの期間は「デイト恋愛ゲーム」と比喩されるほどで、その好感度管理の難しさに一生ぼっちを貫き通すソロプレイヤーは数知れない。


 だがそれはあくまでも「恋愛」という要素に傾倒した時のみの難易度であり、本来はそこまで意識するほどでもない要素であり、精々が「倫理観や常識に反したことは慎もうね」というぐらいで、普通にしていれば好感度がマイナスにいくことなんてそうそう無いわけだ。


 ……では、此処でこれまで僕がしてきた行動を振り返ってみよう。


 楽しげに遊ぶ同年代の子ども達の横を鬼気迫る表情で全力疾走し、河原で水切りに勤しむ子どもたちの横でメジャーリーガーもかくやという速度で投擲された石は水面を切り裂き、大げさな擬音を口にしながら行われているチャンバラの横で訓練用の鉄槍を豪快に振り回した。


 その結果―――



「う、うわぁ~!?モンスターが来たぞぉ~!?」


「にげろぉ~!?」


「―――そういう何気なく言った言葉が一番人を傷つけているという事実を知れた事に感謝しろよクソガキどもォッ!!!」



 ………………まぁ当然、こうなる訳だ。


 いや、違うんだよ。


 ちょっとすごい感じを演出して「すげー!」って言われて、ちょっと頼れるガキ大将的なリーダー的ポジに落ち着くとかありがちな展開だろう?


 正直、今考えてみればあれらの行動とこの思考は非常に短絡的かつ、知性に欠けた自分にだけ都合のいい思い込みでしかなかったと反省はしているのだ。


 だが、転生者たる僕には同年代の子ども達との感性に合わせるのは不可能であり、柔軟性に欠けた僕が導き出したアピールポイントはパワーにて理解らせることだったわけだ。


 結局そんな思惑は当然、失敗に終わることとなり、寧ろ以前よりも関係性は悪化したと言えるだろう。


 そんな僕に出来ることといえば、わきゃー!と蜘蛛の子を散らすように逃げていくガキどもに大人の怖さを理解らせてやることぐらいである。


 決して子ども特有の純粋な感想に効いて反論しているとかそういうわけではないし、絶対に負け惜しみではないと言い切れるし、寧ろ勝ったと言っていいレベル。


 ホント、敗北を知りたいわぁ。



 ……いや、ホント、泣いてないからね?


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