月の子

ちきゅうにすんでいたころ、わたしのまわりは、いつもくらく、じめじめとして、だまっているとおおきなからだをしたおとこに、けとばされたりなんかして、そうしてそれがかなしいことだということもしらずに、(いまを)いきていました。ときたま、あかるいところからきたひとが、わたしにあまいみつや(であったり)、ふわふわとしたかみをわたしてくれることがありましたが、それがいったいなんなのか、なににつかうのかも、わかり(かんがえる、というとろこまで、こぎつけ)ませんでした。わたしは、こんなことがあるたびに、にんげんが、ははおやからうまれるなんてことはうそなんじゃないかとおもいました。せかいも、ものも、ひとも、そのたなにもかも、すべてをしらずに、それをさぐることもできませんでした。わたしは、ただ、ただ、くらくてじめじめしたところに、おおきなおとことふたりでいました。けとばされるときに、かならずおとこはわたしを、ちら、とみて、それからふりかえって、もといたばしょにもどっていくのです。わたしは、はじめて、(おとこをなぞにおもいました。)はじめて、かんがえることをしりました。ははからうまれたことを、しんじたのはこのときでした。わたしは、その、はじめての、かんがえる、ということを、きらきらしたものが、あたまにふってきて、そうしてわたしのあたまのなかにそれがはいってくるようにかんじました。からだがふわりとかるくなって、てさきがうごいて、こしはうなり、そのおとこを、みつめつづけ(るほかありませんでした。)ました。かんがえて、わたしははじめて、じぶんのかんがえをもちました。わたしは、わたし。わたしは、おとこじゃない、わたしは、わたし。わたしは、かんがえて、うごくということを、ここではじめてしりました。からだがふわふわして、むねがしびれました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る