破滅の詩Ⅱ

〈Ⅰ.難しい問題ですね、みなさんはどうお考えですか?〉

どんなに最低で極悪で残酷な意見でも

自己主張をするなら思考停止よりずっと良い


少なくとも話ができるから

会話になるから

あるいは糾弾ができるから

もしかしたら、次のステップに進めるかもしれない


“人それぞれ”でまとめないで

多様性とはその上で取り組むもの


難しい問題ですね、皆さんはどうお考えですか?

考えるのはあくまであなたたちの仕事です


私の主張はさておき


〈Ⅱ.世の中とは複雑にできているものである……〉

例えばあなたの子供がゲイだったとして、

あるいはその子の友達がゲイだったとして、

はたまたその子の同級生がゲイで、

もしもあなたの子がいじめに加担してたとして、

つまりあなたの子供に何らかのトラブルが発生してたとしたら

あなたはどういう教育を我が子にするつもりなの?

どうもゲイを単なるネタだと思ってるようだけど


世の中とは複雑にできているものである……

嗚呼正しい答えなどこの世に存在しない……

別にあなたが子供たちに

異常者に救済は必要ないんだよ、と教育するつもりなら

つまり“あなた”は“そう思っている”というわけで

それがあなたにとっての“正しい答え”なんじゃないの


〈Ⅲ.おれバカだから難しいことわかんない〉

楽しい話を楽しく 穏やかな話を穏やかに

ただそれだけで ただただそれだけで

面倒な話、重い話、難しい話はしたくない

てかわかってもらおうなんて思わない方がいい

それじゃあ傷つくばかりだよ


“わかってもらおうなんて思わない方がいい”

いや、だとしたらあなたに用はないんだが

単にあなたにわかる努力をする気がないだけさ

自分が何もする気がないから相手もしてくれなくて構わない、と


まあそういう人は無視して

話し相手はちゃんと選ばなきゃということなら

それは納得なのだけど


〈Ⅳ.でも、それでもみんなでがんばっていこうよ!〉

批判と非難と否定と誹謗の区別がまるでついていない

あるいは“ノー”と言うこと、を悪いことだと思ってる

問題に真正面から向き合って誠実に取り組んで

そういうのは“意識高い系ウザい”感じ


自分で思ってるよりも遥かにあなたは“傷つかない”

俺なら絶縁を考えるレベルでもあなたは“考えない”

とっても優しい分、他人を傷つけることに無頓着

したがってあなたは誰のことも傷つけてない“つもり”

“お前が勝手に傷ついただけで俺が傷つけたわけじゃない”


あなたみたいに生きられたら人生楽なんだろうな

自分が優しくしたいように優しくする“だけ”だから


でも、それでもみんなで頑張っていこうよ!

別に法の下の平等が達成されていなくても

たとえ誰かが誰かを殺していても

そういうのはどうでもいいから、とにかくみんな違ってみんないい!


〈Ⅴ.わたしは一般市民なので〉

馬鹿にされるなんて許せない

勝手に思考停止だなんてナメるな

そもそもお前の視野が狭いんだ

お前が馬鹿だからお前の周囲に

お前と似たような馬鹿が集まってるだけだ

つまりお前が悪いんだ


そんな馬鹿で悪いお前の

“なぜこの年代から世の中はこういう性質になったのか?”

なんて許さない

馬鹿め、馬鹿め、お前は間違ってるんだ、お前が間違ってるんだ


でも俺は追及するけど俺の追及はしてこないで

私は一般市民なので


〈Ⅵ.これでみんなが考えるきっかけになればいいなと思います〉

“それ”についてどう思う?

“人それぞれだから好きにすればいい、ただし押し付けは良くない”

“いろんな人がいるからね”

“どっちにも言い分があるから誰が悪いかは一概に言えない”

思考の痕跡が、ない


“あなたはどう思うのか”を訊いているのに

“人それぞれ”、その上で話がしたいのに


自分の意見がないのか、はたまた言えないのか

どんな反応が来るかわからないから、怖いから

でも、これでみんなが考えるきっかけになればいいなと思います

私の主張はともかく


〈Ⅶ.解放の呪文〉

それにしてもあなたたちは絶対に折れないね

自分と異なる意見、正反対の主張に

“そういう考え方もあるんですね!”

とは絶対にならないね 絶対に変わらない


それって議論の余地があるのかしら

それとももしや一連の作業が終わった後、

“さっきはああ言いましたけどすごいなと思いましたよ!”

とかってなってたりするのかしら


人は普通、普通の日々を普通に生きてれば

“それは面白い考え方だ!”とか

“そういう発想はなかった!”とか

なるはずでしょ なるはずなのに 絶対に折れない


だから例えば思想の右左でいうと

自分のことをどう思っていようが

みんな極右で極左の極端な人たちで

要はあんま参考にならない


“自分はこの発想を絶対にやめるわけにはいかない”

というふうに自分は思っているんだ、ということに

あなたは気づくべきだ

そうしてから、話を聞きたい

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