episode14:コロラドの森に炎立ちぬ

第89話 我らのみ、見つけ得る道を

 ネブラスカ州スコッツ・ブラフからさらに南西へ向かうとコロラド州に入る。


 任務の目的地、主要な探査区域はフォート・コリンズという、東西五キロほどのさほど大きくない街――の廃墟。だが古い地図のデータをよくよく見れば、この一帯はつまり、デンバー市を経てシャイアン・マウンテンの古い地下基地などへつながるルート上にあった。


 シャイアン・マウンテンは21世紀の初めころには主要施設を他所へ移しているし、その後どういう経緯をたどったかは現在の資料からはうかがい知ることができない。

 だが、かつて行われた企業間戦争がこの地域の施設を狙ったものであることは間違いがないし、この一帯に隠蔽された多くのレーダーサイトが、何らかの秘密の施設を守っているというのは、十分に考えられることだ――



 俺と僚機のチャーリー・バザードは、フォートコリンズの北方、百キロほどの位置にある川沿いの小さな住宅地あとにCC-37で降下し、そこから旧25号線に沿ってゆっくりと南下していた。この辺りはまだ旧ワイオミング州だ。


〈まさか俺があんたの試験を見届けることになるとは、前回の護衛任務の時には想像もしなかったなあ……〉


 百メートルほど先行したチャーリーから、平文の通信が入る。


〈俺もそこそこ駆け足で上がってきた気はするんだが、あんたみたいなのは久しぶりに見たよ……まあ、その機体を見ればセンスがいいのは分かるぜ――戦車型は長時間の作戦行動に向いてる。燃料電池の消耗を抑えられるし、物資や弾薬もたくさん積めるからな〉


「素人考えであてずっぽうに組んできたんでちと不安だったが、そうでもなかったってことか……」


〈あのレダ・ハーケンがお手本なんだろ? そこは自信持ってていいんじゃないか?〉



 そう。俺は今回、GEOGRAAF製戦車型モーターグリフ「メルカトル」の脚部に、ウォーリックの「ヴァリアント」の胴部中枢ブロックを載せた構成の機体を組んで来ている。理由は大体、今チャーリーが言ったとおり。機動性が落ちるのがやや不安だが、その分は分厚い装甲でしのごうという発想だ。


 カイリー総督の話が本当なら、上空からレーザーで撃たれるような羽目にはまずなるまい。点在するレーダーサイトと、連動する件の「侵入者絶対殺すNone shall passミサイル」のおかげで、からだ。


 頭部はマッチングとセンサーの充実度を買って、やはり前回と同じくヴァリアントのものを。腕部はメイトランドのものを使用し、左肩に120ミリの折り畳み式火砲フォールディング・カノン、右肩には20ミリガトリング。


〈そのガトリング、まさか防空用じゃないよな?〉


「ああ、いや……なんとなく肩のスロットを空いたままにしとくのが不安だったんだが。まあ相手次第では役に立つだろさ」


 戦車型の機動力はさすがに低い。肩部には大口径砲を載せたが、乱戦に対応するにはそれなりの工夫がいる。


 右腕には前にも使った軽量な30ミリカービンを携行、これは取り回しが楽で、腕部による標的追尾を妨げない。

 左腕にはタングステン・カーバイド鋼を削り出した全長3メートルの槍をコイル・ガン方式で射出する「ガウス・パイク」を装備。プラズマソードよりも消費電力が少なく、十分に致命的なのが利点だが、使用局面が限られる。あくまでいよいよの時の隠し弾というやつだ。


一方のチャーリーはといえば、これまた普段とは脚部を変えてきていた。


 スカルハウンドをそのまま一回り軽量化したようなフォルムの、「スライ・ウィーゼル」をベースに、脚部をホバー機能を持つ四脚型に換装してあるのだ。

 このタイプは戦車型に続いて早期に普及した、市街地での高速展開に対応したもので、地形に応じてホバーと車輪、それに建設重機のカニクレーンについているような接地パッドを使い分ける。


 推進器スラスターで飛ぶのではない方式としては、トップクラスの移動速度を期待できるので、こういう作戦の経路確保役としてはぴったりだ。


 武装は俺と同様の30ミリカービン――状況によっては弾薬を共有して融通を効かせられる。それに省電力タイプのプラズマソードと、背部にはドウジのものに似た垂直発射式の三連小型追尾ミサイル。


「あんたの機体も、頼りになりそうだな」


 どれも一撃必殺的な破壊力はないが、高速で引っかきまわして牽制しつつ、火力担当にパスをつなぐには適した構成だった。



 履帯クロウラーを使った走行装置の欠点は、加重による破損の危険性と、構造からくる騒音だ。俺たちはだいたい10キロ前進するごとに小休止を入れて辺りを索敵し、機体のコンディションをチェックして慎重に進んでいた。

 ワイオミング州からコロラド州へ入る辺りで、チャーリーが何か気になるものを発見したらしかった――通信が飛び込んでくる。


〈サルワタリ。右手やや上方の丘。何か光った〉


「む?」


 警戒態勢に入る。頭部センサーのレンジを拡大し、重量物や金属製品の大きな反応を探すが――これと言って顕著なものはない。

 だが、指向性の高性能集音器――ネオンドールの音響センサーとはまた別系統の機器だが――を積んでいるというチャーリーのスライ・ウィーゼル、機体名「ホワイト・カース」からは、俺には感知できない何かが捉えられていた。


〈ふむ、解ったぜ。サルワタリ、ここらは野盗の縄張りの一つらしい。稜線の向こうにあるブッシュの中を、複数の足音が移動してるようだ〉


「人間、ってことか?」


〈だな。どうする?〉


「余計な消耗は避けよう。煙幕を張って逃げるぞ」


〈煙幕……効くのか?〉


 いぶかしげな反応が返って来るが、俺は構わず、発煙弾発射器スモーク・ディスチャージャーのトリガーを引いた。上空へ打ち上げられた擲弾から緑色に着色された煙が噴き出し、空気よりやや重いそれはやがてゆっくりと降りてくる。やがて俺たちの周囲半径100メートル、高さ5メートルほどに滞留する煙のカーテンが出来上がった。


〈あれ……足音が消えた〉


 半信半疑の様子だったチャーリーから、気の抜けたような声が飛んでくる。どうやらショウに聞いた狼煙の合図は効果を発揮したらしい。


「戻ってくると面倒だ。今のうちに先へ行こうぜ」


 少し先にでると旧道が幾重にもひび割れ浅い谷にかかった高架が切れて、道が途切れていた。

 俺たちは短い通話で意志を確認し合うと、貴重な推進剤を費やして30メートルばかりの落差を降り、谷あいの狭隘なルートへ入っていった――




※ 本編で登場したモーターグリフ(タンク型)のイメージ画像を以下の近況ノートで公開中です。よろしかったら。

https://kakuyomu.jp/users/seabuki/news/16817330654646361750

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