其の弐拾漆


 洞窟に入るが真っ暗で何も見る事ができない為、ネネ達は荷物から取り出した松明に火をくべる。長の「人は暗視もできないんだったな」という揶揄いを背に、先住民が使用していたであろう壁に掛けてあった松明を見つけ、それに油を染み込ませ火を移す。


 その洞窟は外からの襲撃に備えるかの如く、うねるような道で構成されていた。そして大した広さはないのか、ごく簡単に最奥へと辿り着いた。


 そこにあったのは見事な甲冑と刀、そして石碑であった。



「これはかか様の甲冑と刀!しかし……」



 人の姿はなく、生活している様子も伺えなかった。物が無さすぎるのだ。神が言っていた「生きてはいない」という言葉が反芻される。


 生存している一縷の望みにかけてはいたネネだが、それもやむなしと心を改める。弔う事など土壇無理だと考えていたのにも関わらず、母の遺品を見つける事が出来たのだから上々だ。

 石碑には何やら文字が書かれている事に気付いたネネは松明で前方を照らしながらその文字を読む。



【すまんネネ。不甲斐なく逝く母を許せ。臣下共が犠牲になり一人生き延びはしたが、我が軍は全滅した。仙人達に頼み込めば帰還する事も叶ったとは思う。だが己が臣下達をワシが弔い偲ばずにどうする。故に帰還は叶わず。ワシの全てを叩き込んだお前がいる以上領地の心配はしておらん。御守りはワシと共に朽ち果てようぞ。すまん。そして有難う。


     愛しているぞ我が子よ。どうか達者でな】



「かか様……」



 石碑には我が子を想いつつも帰還できなかった事由がつらつらと書き示されていた。

 初めは俯きわなわなと震えて感情を押し殺していたネネであったが、突如として顔を上げる。その目は涙を堪えているのか酷く充血していた。



「ワシもかか様が大好きじゃ!あの世でまったりと待っててくれよ!」



 そう言うと涙を落としながら満面の笑みを浮かべた。故人にましてや敬愛する母に、辛気臭い顔なぞ見せるものかと精一杯の強がりを見せるネネ。

 すると石碑が応えるかのように一瞬の光を放つ。それを見て吃驚するが、母が応えてくれたような気がしてネネはふっと微笑む。花と酒、線香を供え石碑に手を合わせる。



「これで良し。かか様の刀は回収してゆく。仙人達よほんに世話になった。村につき次第帰路につく」


「吉田様……?」


「ヨシナリ、お市、カエデ。お主達がいなくてはここまで来れなかっただろう。特にヨシナリ、お主には特に世話になった。約束通りワシの処女をくれてやる」


「吉田様!!」


「何事だお市?らしくないぞ」


「石碑の内容が!!」


「石碑?」



【まだ書き込めるって言われてものう。神よ、ワシは成長したネネを見れただけで満足じゃ。まったり待ってろなどとたわけた事を抜かしおってからに!おう、お前は笑ってる時が一番じゃ。

おいネネ!その酒不味いから飲まんとワシ前言ったよな!?それ不味いんじゃ!!いやじゃぁぁぁ!大吟醸がいいのじゃああああぁぁ!

うむ。我が愛刀はネネにも使いやすかろう。持ってゆくがよいっ。

は?処女をくれてやる?気付かんかったがネネの横になんか美男子おらんか!?待て!こっちを見るな!!なんでこんな魔境に男を連れ込んでるんじゃ!?神よ一生のお願いじゃ!ワシの身嗜みを整えてくれんか!?はよう!見てる!見てるから!!……死んでるから一生もクソもない?石碑を磨けば満足なのかじゃと?……南無三。

へあ?神よ、このやり取り書き込まれてないかコレ。物凄く微妙な顔してるんだが此奴ら。

美男子がうんうん頷いてるって事は書き込まれてますねおいいいぃぃぃ!

こうなったら憑いてやるのじゃ!我が愛刀に憑いてやるのじゃぁぁぁ!致すときに母が刀から見守ってやるのじゃああああ!】



「「「「………」」」」


「……刀はヨシナリにくれてやる」


「吉田様!?」



 手に持っていた刀を無表情でヨシナリにぶん投げるネネ。すべからくも刀をしっかり掴んだヨシナリを置いて、洞窟の入り口へとずんずん足を進めるネネなのであった。






─────────────────────



 有力者の処女をくれてやる=婿入りするなら正室扱いになり、入らない場合でも衣食住+金銭の面倒を一生見てやるという意味合いになります。



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