其の弐拾肆


「ヒントくらいくれてくれてやるか。最初は『ね』だ」



 勝負というには何とも言えない戦いの火蓋が落とされた。頭文字だけ分かったところで何を理解しろというのか。

 しかしヨシナリは鑑定の特殊能力を持っている。鑑定してしまえば良い、ただそれだけの話である。

 


「ぐ……うう」



 だがしかし、簡単に答えを出してしまっても良いモノなのか?

 間違えても案内はしてもらえるし、異世界から来た男としては不特定多数のエルフ(しかもボンキュッボンのエロフ)とこう、致せる千載一遇の好機なのではないか?だが初めてはイチャイチャで交換し合いたいじゃん!?

 そんな童貞的なアレを脳内でぐるんぐるんと回しながら悩むヨシナリだが、それを名前が分からず悩み抜いていると勘違いした長が余計な一言を投げる。



「なんだ…俺らに子種くれるのがそんなに嫌か?間違えても案内するんだぞ?さっきおもっくそお姉さんの身体見てたよな!?」

 


 それはもう傷ついたと言わんばかりな表情付きであり、長は既に勝った気でいるのかそんな事を平気でのたまう。



 ヨシナリは転生前の出来事を思い出す。呼び込みに捕まり女とラブホまで行き、さぁ来たからには出陣だ!いやまてまずは身体を清めないと!と颯爽と女を置いてシャワーを浴びて部屋に戻ると、財布とスマホを没収された上で男と女がそこには待っていた。所謂美人局であり金を巻き上げられたヨシナリはスマホだけは足が付くのか返してもらったが、以降は基本的に女性不信である。歌舞○町ほんと危ない。


 長にあの時の女の面影を一瞬見てしまったヨシナリは、途端に相手方の言葉が全て嘘のように思えてしまった。

 それまでの逡巡が嘘のようになくなり相手のステータスを鑑定する。



『名前 ネイ・エル○○○  種族 仙人エルフ  年齢 1500歳

 *力  100

 *防御 100

 *速さ 100

 *運  10

 *特殊能力 ヒミツ


 ■人物 こってこての処女。蜘蛛の巣どころか苔が生えてるレベルの処女である。ここぞという場面でヘタレて毎回機会を逃している典型的な処女。彼女がいうに「嫌がってたら辞めるのが女さ」なのだそう、だが処女だ。自身の乱暴な物言いはモテないと理解しつつも、一度このキャラで行くと決めた以上折れたら負けだと思って千二百年が経過した処女。男には結構正直者な処女。町の者には処女だとバレてないと思っているがモロバレな処女。多分マグロな処女』



「おい!色々テキトーだよ!?どうなってんの!?多分つったか!?」

 

「坊やどうした!?」


「あ、いや何でもない」



 どんだけ処女推すねん。だがしかし見逃せない箇所を発見する。そうそれは誰が見ても明らかな処女であるという…いやそこではない。

 最初の文字は『ね』だと言った事。それは正しい。しかし鑑定欄ではネイの後にエル○○○と書いてある。どちらを当てるのか、はたまた全てを当てるのか。ならば聞いてしまえとヨシナリは質問を飛ばす。



「ねいさん」



 長の腰がほんの僅かにびっくと跳ねる。まさか自分の名前をこうもあっさり当てられたのかと驚愕したのだが、ヨシナリの様子を見るにお姉さんから派生した、ねいさん呼びだという希望に縋る。



「な、なんだい坊や」



 声震えてるぞ。



「上と下のどちらを当てればいいんだ?」


「え?あー…両方!そう、両方いこうか!」



 ここにきてコレである。そこはドンと構えてどちらかにすれば潔いものを欲張ってこの有様だ。非常に男らしく、いや失礼。非常に女らしくない。

 だがヨシナリも余計な事を聞いてしまった。難易度を自ら上げてしまったのだから。



「エル……と三文字?エル、エル……」


「ヨシ殿大丈夫か?」


「坊や真剣すぎやしないか?ほら難しいだろ、酒でも飲むか?なんなら答え合わせは明日でもいいんだぞ」


「負けられない戦いがここにある!」



 ご理解頂けたであろうか?これが童処を拗らせた者達の歪んだ醜い戦いである事に!



「エルフの長……エルチョー?いやそんなわけ…」



 随分な小声で呟いたが、長耳にはしっかりと聞こえていたのだろう。長は座っていた椅子からガタガタっと音を立てて立ち上がったかと思えば、いやー今日は天気良いね?と言わんばかりに当たり前に座り直す。



「へ、へへ、へー。そそそ、それで?」


「いや長よ。分かりやすすぎるんだが」


「うるさいお前はだまってろ」


「へいへい」



 それを以て確信へと変えたヨシナリは、残念な仙人エルフへと視線を向ける。



「ねぇ、エルフのちょーさん」


「な、なんだ!?」


「ネイ・エルチョー。これで合ってるか?」


「正解……何故分かった坊や。ッハ!もしやこれが運命ってやつか!?」


「ステイステイ!長落ち着け!」


「じゃかぁしい!俺と坊やの空間から出てけてめぇら!!」


「なんでいつもはヘタれるくせに今日はイケイケなんだよ!」


「無理すんな処女エロババア」


「今処女っていったやつ二百年肉抜きな」


「勝手に獲って食うからべっつにー?なあ?」


「私はめんどいし帰るわーじゃな」


「おい!!あいつ!あいつが処女エロババアって言ったんだよ長!!待てコラ!」


「待てやおまえも今しがた言ったよなゴルァ」



 ヨシナリに迫ろうとして抑えつけられていた体は自由を取り戻すが、結局暴言を吐いた仙人エルフ二人を追いかけてアイアンクローをかますお姉さんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る