其の弐拾参


「勝手に動き回るような事はしてくれるなよ?ここは人にはなかなかにキツイ仙力が漂ってるからな。まぁ死にたいなら止めはしねぇが」



 長は、彼方此方に視線を飛ばしているネネ達に警告する。この町の仙力は非常に濃く、それを認知できない人間が特濃の場所へと行こうものなら頭がおかしくなり変死するのだという。


 仙人エルフを見てみると、どこそこのラノベよろしく美形揃いで耳が長い。しかし長は圧倒的に長いが、他の者達は人間よりは多少長い程度だ。

 そしてスタイルはロリフではなくエロフである。ボンキュッボンという擬音がまさにピッタリなスタイルであり、やたら露出が多い巫女装飾?を着ているため目のやり場に非常に困る。



「……着る方が恥ずかしい服って本当にあったんだな」


「がははは!おいお前ら坊やは初心で助平だぞ!ほれほれどうしたい?お姉さんに言ってみんかい!」


「長!あんたお姉さんなんてそんな歳じゃねえだろ!」


「エロババアが順当」


「無理すんなBBA」


「長がお姉さんなら私は幼女だな」


「てめぇら後で締める」


「「「「いってぇ!もう殴ってんじゃん!!」」」」



 ヨシナリは大分小さな声で呟いたはずが丸聞こえだったようだ。長はそれを拾ってだっちゅーの(死語)をキメるが、他の仙人エルフ達に揶揄われたと思ったら一瞬で移動してぶん殴っていた。それを見ていた町人達が大いに笑っている。


 その時にネネ一向は心を全く同じくしていた。

 顔は極上だが中身は山賊みたいな奴等だな……と。




 案内され、たどり着いたのは長の家だ。この町で一番仙力が薄いらしいその家は人が泊まるのに最適であるのだとか。



「この町に外から人が来るのは稀なんでな。もてなし方なぞわからん。好きにやってくれ」


「……そうか。ちなみに前回に人が来たのは何年前だったのだ?」


「ん?あーいつだったか?おい!」


「そんくらい覚えとけよ長。ほんの少し前だっただろ」


「忘れたな」


「ほらあの弱いくせにメシが美味かったやつ来ただろ」


「あー、んー?ああ、十年くらい前に来た黒髪か」


「十年前の黒髪じゃと!?」



 十年前。それはネネの母が遠征を行った年度であり、黒髪の人間など世界広しといえどもそうそうに見つからない。故に答えを導き出すのは至極簡単だ。



「かか様じゃ!かか様がこの町に来たのじゃ!!」


「吉田様!落ち着いて下さい!」



 吠えるネネ。興奮を収めるようお市が苦言するが、当のネネは興奮冷めやらない様子で引き続き捲し立てる。



「どこに行けば会える!?いや、まだ存命なのか!?」


「落ち着きな嬢ちゃん」


「ぐ…う。すまん」



 嗜まれ興奮から冷めるネネ。自分より強者である者に睨みつけられては冷静さを取り戻した。その強者の視線は冷たく鋭い。



「そうだな、一つ勝負で勝てたら明日連れて行ってやる。今日はやめとけ。仙気が濃くなる気がする」


「長の勘は当たる。お前ら人が特濃の中を歩けば死ぬぞ?そこの坊っちゃんは大丈夫だろうがな」



 ヨシナリをスッと指刺す。ネネはヨシナリに期待するような視線を飛ばすが、ヨシナリは顔を横に振り拒否を現す。



「ネネさん、ここはこの方達の町だ。勝手をするなと最初に警告もされている。ネネさんの町に来た人がそれをしたら貴方はどう対応する?」


「ああ……そうよな。その通りだ。そんな輩は尻を引っ叩いて斬り伏せて摘み出す」


「そうだろうそうだろう。だが気持ちはよく分かる。しかし立場を忘れんじゃねえぞ嬢ちゃん」


「ネネじゃ。ワシの名は吉田ネネじゃ!」



 嬢ちゃん呼びは気に入らないのか、普段であれば相手が名乗らない限り名を伝える事は絶対にない立場なのだが、そんな矜持はクソ喰らえと言わんばかりに名乗るネネ。


「私はお市という」


「某は春画描きのカエデ!」


「ヨシナリだ」


「おうおう、覚えらんねえよ。俺の名は……ああ、良いことを思いついた」



 名案を思いついたと長はニチャリと笑う。その笑顔は造形の整った顔だというのに中々に人を不安たらしめる。



「よ、よさ……ヨシか……ん?…坊や、お前が答えろ」


「ヨシナリだ」


「俺の名前を当ててみなヨシナシ。これが勝負内容だ。当たれば明日は逐一丁寧にご案内してやろう」


「……負けた場合は?あとヨシナリ」


「その場合も連れて行ってはやるが、ヨシナリを貰う」


「「「「は?」」」」


「町の男の精が枯れててな。種を貰うって言ってんだ。俺もそろそろガキが欲しいし……そうだな最低でも二十人ほど孕ませれば帰っていいぞ」


「「「へぁ?」」」



 負ければ種馬だぞと言われたヨシナリとネネ一同は呆けた声を出して呆然としていた。

 いや、ただ一人「これは!」と言いながら新ジャンル『くっ殺』を見事描き上げる忍がいたのだが、彼らには春画描きに意識を向ける気概などなかったのであった。




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