其の弐拾弐


 大事を取って夜は寝て過ごす。

 朝日が登ったのを確認して一同は出発したのだが、結局何事もなく目的地へと到着した。念の為に得物を直ぐに手に取れるよう帯刀している。


 そこはヨシナリが転生した場所から一時間以内に存在すると言われていた町である。特殊能力の使い方が分からなかったヨシナリはこの町を無視してネネ達の町へと直行していたのだった。



「魔の森に町があるとは……此処にかか様がいるということか?」


「分からない。何かの手掛かりだけかもしれない。だけど神は此処に向かえと言っていた以上何かがあると思う」


「不気味なほど人の気配はありませんぞ!」


「とりあえず町に入ってみるか」



 そこはまるで霞がかかったような掴みどころのない町であった。農地は美しく並び、実際野菜が育っている上に生活用水も水路をもって引かれている。

 しかし不気味なほどに人の影がない。町の入り口だというのに衛兵すらおらず、ただただ来た者を飲み込むが如く入り口が開けている。

 『猿』はというと、この場に着く前に何かを求めて走り出して行ったので既に離脱している。




「待ちな。旅人達よ何用でここに来た?なぜ此処がわかった?………へぇ、やるじゃん」



 声が聞こえると同時。音もなく木の上から降ってきた何者かはヨシナリの首元に短剣を突きつけた。

 しかしヨシナリも黙ってはいない。声が聞こえるまで認知していなかったものの、その声と違う方から僅かに聞こえた葉擦れの音で相手を認識し、鳩尾へとカリバーンの柄先を向けている。



「はっ!只の人じゃこうはいかねえよな。坊や半分混ざってんな?」



 鼻で笑った女は音もなく跳躍し、音もなく着地をこなす。反応が遅れたネネとお市、カエデだったが臨戦態勢へと入るのが早い。直ぐに得物に手をかけその女へと威圧をするが即座に退がられた。



「お前さんらはまだまだだが、何もしない阿呆ではないみたいだな。で、どうやって何をしにここに来たんだ?」



 いきなりの襲撃をしたはずの女が短剣を鞘にしまい谷間へと収め、全くといっていいほど悪ぶらずに尋ねてくる。両手をひらひらと振ってこれ以上やる気はない意志を表明する。



「貴様っ!ヨシ殿になんたる無礼を!」


「いいよお市さん、ありがとう。で、お姉さん。ここはなんて町なんだ?」


「ぶっ!がはははは!!俺をお姉さんと呼ぶか坊や!だがまずはこっちの質問に答えろ」


「…ワシが述べる。さる御方の助言によりここに導かれた。ここへ来ればワシのかか様を弔えると聞いてな」


「さる御方とは誰だ?」


「……神じゃ」


「あー…うん、あれな。へんてこ神な」


「うむ。へんてこ神じゃ」


「こりゃー嘘は言ってねえわ。お前らもういいぞ!!」



 女が声を掛けると周りの木から人がぞろぞろと出てきた。皆が皆矢を矢筒に仕舞いながら出てくるため、全くといって感知できていなかった忍であるカエデは静かに項垂れている。




「とりあえず信用してやるよ。神をへんてこと言われて納得する人間なんかそうそういねえからな」


「この前は酒の瓶抱えて爆睡してたよ」


「あの神ならやりかねねえ」 


「長よ!この小娘の春画なかなかに良いぞ!」


「ほー?そいつぁ後でのお楽しみだな!」


 がっはっはと男らしい笑い声を上げた女について町の入り口を通る。すると女は振り返り両手を広げる。



「まだ坊やの質問に答えてなかったな。

 ようこそおいでなさっては仙人エルフの町へ」


 

 その女は長い耳をご機嫌に揺らし、ヨシナリ達にそう告げるのであった。

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