其の弐拾
講習会などという娯楽を提供していたヨシナリではあったが、何も考えていなかった訳ではなかった。神の言った『小鬼が転生者だったというだけ』という言葉に頭を悩ませていたのだ。
「転生者はそこいらにいる存在なのだろうか…?しかし小鬼になってたし、もしかして人外へと変貌している?考えれば考えるだけ分からん」
ヒントもなく情報収集する腕もないヨシナリには判断するための材料が全くないのだ。神が戻ったら問うのを一番の視野に入れつつも、その時になってしまえば魔の森へと足を運ぶ日程となっているため中々に余裕がない。
「情報収集と言えば忍であるカエデさんか。しかしなぁ……頼めば動いてはくれるだろうけど、どんな情報を集めて欲しいかをしっかり決めないと集めようがないよな」
既にカエデには自身が異世界人だという事は伝えてある。そして転生者は魔のモノになっていると仮定してその情報を集めるのは、あからさまに目立った者でなければ難しいだろう。
「人であれば簡単だ、女好きな男を探って貰えばいい……と思ってそれとなく聞いてみたけど、所謂ビッチに該当する現地男も普通に存在しているらしいんだよな」
子が沢山いる男も普通にいる…というよりそうせざるを得ないのだ。女が余っている状況なため「女好きの男知らないか?」と聞いて回ったとしても「女好きかどうかは知らんがあそこの旦那さんは子供が○人いるよ」と普通に返されるくらい当たり前。種だけでもと妻も含めて押し切られて、子を成す事が多々なのだとか。つまり純愛を貫いている男の方が希である。
ちなみにビッチという言葉は神によりインスピレーションを授かった(教えてもらった)カエデの春画により結構な具合に拡散されている。クソガキまで拡散され始めているため、治安の悪い所では真に受けた女達があんな事やこんな事を起こしては捕まっているのだとか。
「複数名の女と同棲している男を調べれば良いか。だがそれはあくまで魔の森から無事帰り、神様の話を聞いてからカエデさんに頼めば良い」
まずは目前の魔の森。
抜けてきた身として注意点等を挙げてみようと唸るも猿に追いかけられた記憶ばかりが鮮明で、あまり問題を挙げられない。強いて言うならば水の管理であるが、樽は馬車に括り付けられているし川で補給する事も可能だろう。
「俺と違って皆は食べ物の水分で耐える事はできないだろうから水は本当に注意だな。あー、腹痛おこさないよう煮沸用に鍋も用意してもらわないと」
そこまで考えたヨシナリはその先を考えようとするも講習会から来る疲れからか、いつの間にやら意識を手放して眠りへと落ちていった。
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次の日の朝。いつも通り七時前に起床し顔を洗ったヨシナリは広間へと向かった。
既にネネと家臣達は座っており、朝食の配膳が終わるのを待っている状態だ。
「皆さん、お早うございます」
「ああ、お早うヨシナリ」
「「「「お早うございます!」」」」
「おっと、失礼するね」
すぐ横で御膳を運んでいた世話役に一声かけて歩き出す。
挨拶をすれば皆が挨拶を返してくれるのが当たり前。だがヨシナリの生前の会社では皆が皆挨拶のような何かをモゴモゴ言って席に着くし、誰も彼も返事をしないため気持ちの悪い環境であった。それに引き換えこうはっきりと挨拶をし合うというのはヨシナリにとってとても気持ちの良い事だった。
配膳して回っている坊の邪魔にならないよう歩き、最早定位置となってしまっているネネの横の座布団へと腰を下ろす。
「ネネさん、早く来すぎじゃないか?寝坊したかと思ったよ」
「なに、起きるのが早すぎただけじゃ気にするな。夢にて良い虫の知らせがあったのでな」
『来たぞ!』
「来た!」
「うむ」
『そこのキミ。そうそう君。適当にご飯持ってきてくれないかな?白米に梅干しだけでもいいから!ヨッシーのと交換するし!』
「……まぁ、良いですけど」
『えー朝っぱらからノリが悪いなぁ!やっぱりお味噌汁はつけてー!!』
「神よ、ここに座ってくれ」
場所的にネネの横しか空いていないため、ネネはヨシナリの座っている所と逆側をぽんぽんと叩く。その際ヨシナリ側にズイッと寄るのは仕方がない。そう仕方ない。
『時間ないし私はここでいいよネネン』
しかしあろう事か神はヨシナリの後ろを陣取る。日の丸御膳を持ってきた世話役は、またもどこに配膳すればいいのか分からず狼狽えている。
「なぜ後ろに行った…」
「神様、配膳できなくて困ってるから其方に座ってあげてー。ってネネさん近いよ!?」
横を向けばちゅっといきそう、というかもうぶっちゅうする距離である。中々に強かなネネンである。肩なんかもう触れ合ってて羨まげふんげふん。
『随分仲良くなったね。さては昨晩はお楽しみでしたか?』
「神様が下世話なんですが」
「致してたらこのカエデが見逃すはずもなく!」
とりあえずネネの横にできた場所へと移動した神。
騒がしい事この上ないが、酒の席でもなければ食事しながら喋る者はおらず、頂きますからは黙々とした時間が過ぎた。
『ふー食った食ったぁ!』
「朝から梅干し一個と味噌汁だけで丼五杯はすごいと思う」
『えへへー可愛いでしょ』
「食い過ぎだわ」
どんなおかずのペース配分やねん。
「して神よ。本日より魔の森へと向かう事ができるのか?」
『あーさっきも言ったけど時間がないんだよね。けどネネンもそろそろ痺れを切らしそうって思ったからさ。代わりにこの子連れて行ってよ』
神がすっと手をかざすと、そこには『猿』がいた。
「ぎゃあああああ!」
『この子ヨッシーのこと気に入ったみたいだよ?仲良くしてあげてねー』
『ききっ♪』
「来るなああああ!」
その『猿』は魔の森にてヨシナリに糞を投げつけて追いかけ回した、俗にいう糞猿なのであった。
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