其の拾玖


「それでは講習会を行います」


 ヨシナリがそう告げると盛大な拍手が送られる。

 会場替わりである村長の家に集まっているのは全員女だった。

 ヨシナリの隣にも大和撫子と呼ぶに相応しい主と、その第一の家臣と忍が座っていた。


 何の講習会かというと、男がどうしてもできない者や狙っている男を振り向かせたい女達の集いなのである。故に男子禁制の講習会となったのだ。

 なぜ彼がこのような講習会の教師役兼受け答え役をしているかというと、それはヨシナリが男だからであろう。

 しかし、会場の女達は化粧などかけらもない者達で、ネネを除くと巨乳の者しかいない。


 彼女いない歴=年齢であるヨシナリは近代日本のラノベや漫画で培った知識、早い話が自分がやられたらドキドキしてしまう話や、したい話を赤裸々に語っているだけなのだが、やたらと受けがよろしかったらしくこのような講習会という場まで設けられた転末だ。


 自分の嗜好を繰り返し告白していかなくてはいけない事に慣れてきたせいで恥ずかしさを通り越して無我の境地に至っているのだが、そんなヨシナリの事などつゆ知らずな会場のお嬢さん方だった。


「どうしてこうなった…」



─────────────────────



 事の始まりは三日前に遡る。

 神が不具合の修正をするため離れている間は、大事を取って魔の森への出発を見送っていた。

 しかし彼等彼女等が滞在しているのは農村である。歩いて周るにしても見るモノなどほとんどなく、観光などという行為は一時間とかからず終わってしまう。ヨシナリとやたら話したがる農民と説明したがる村長につかまっていたのであれば時間を食わされていたのだろうが、それらはネネの睨み付ける攻撃で悉く不発に終わった。




 観光という名の散歩も終わり村長邸へと戻ってきた一同。相も変わらずやる事がないので、ヨシナリ達は談笑を決め込む。



「なんで『冷奴』はひややっこ と読むのに『何奴』はなにやつ なんだろう。こう暗殺にきた刺客に『なにやっこ!?』と言ってみたいんだ」


「ヨシ殿。それではこう、締まらんではないか」


「ひややつ!でもいいと言う事ですな!?こ、これは何か閃きましたぞ!」


「カエデよ、なぜお前はそれで春画が描けるのじゃ……」



 ひややつ!を題材に春画を描き始めたカエデ。個人的に内容が凄い気になる。

 その場には同じくやる事がないのかネネの家臣団も座って聞き耳を立てていた。すると一人がヨシナリの目前で突拍子もない事を言い出した。



「ヨシナリ殿!恥を忍んで申し上げます!どうすれば我らは男を捕まえられるのでしょうか!?」


「「「でしょうか!」」」



 どうやらこのネネの臣下の女性諸君は言動や行動にそぐわず草食系らしく、世話役を除き男とまともに話した事すらないようだ。

 


 散々悩んだヨシナリが「余計なお世話と知識になるかもしれんが……」と前置きをして、恋愛のいろはを教えると伝えると三者三様の反応を見せる。

 

 ネネは「くだらん」と切り捨てる言葉を投げかけてくるも「暇だからな。しょうがなかろう」とその場に残る。


 カエデは「ネタを授けていただけると…!?おおぉ!」と祈りのポーズをとって鎮座している。


 お市は苦笑いを浮かべるばかりだが座布団から腰を上げる様子はない。


 なお家臣団は皆が皆ガッツポーズをかましていた。




 肝心な最初の授業で教えたのは『壁ドン』である。



 壁際に追い立て、ドンっと手を突く事により発生するちょっとした驚きや恐怖という感情を恋愛感情だと勘違いさせる。

 普段は大人しい系の人間ならより効果的だろう。ギャップ萌えというやつだ。

 そして顔を近づけて必殺の一撃の言葉をかませる。これにより落ちない女(ここでは男だが)はいない!と何かの本に書いてあった気がする。


 ムフームフーという息遣いで「実践を!是非実践を!」というカエデの言葉に踊らされたヨシナリは、一番動揺しないであろうネネを相方に実践を行う。


 『ドンっ』


 何をするか知っていたにも関わらず、ネネはビクッと身を強張らせる。そしてどんな台詞をいうか全く決めていなかったヨシナリは、適当にそれっぽい事を口にした。



「俺の女になれ(高圧的イケボ)」



 するとどうだろう。カエデはもはや息が出来ていないとしか思えないほど、過呼吸のようにムフームフーとしているし、お市に関しては顔を真っ赤にしてオロオロとしていた。家臣達の中には「なるぅ!あなたの女になるううぅ!」と叫んでいる者までいる。落ち着け。


 そして壁ドンされた当の本人はというと


「………………………す、好きにせい」


 暫くプルプルしたかと思うと、頬を少し赤らめプイッと横を向きながら蚊の鳴いたような声をなんとか捻り出した。



「(何この生き物。めっちゃ可愛いんだけど)」



 その後、何故かヨシナリの横ほぼゼロ距離を陣取り、側面愉悦彼女面したネネとそれを羨ましいとばかりに見つめる家臣達に全く気付かないヨシナリは講義を続けたのであった。




 そしてその次の日の朝。


 ヨシナリはドンっという音と共に眠りから起こされた。


 周りを見ると畳がめくり上がって囲んでおり、先の講習を受けた家臣達がこちらを見ていた。

 眠い頭を振り何事かと聞くと、心なしか得意気だった家臣達はうやうやしく頭を下げ感謝の意を示す。


「この度は貴重な恋愛の知識をご教授頂き、ありがとうございました」

「あなた様の知識のお陰で、我らめでたく婿を取る事ができ申した」

「「「「このご恩は一生、いや子々孫々に受け継がせて頂きます」」」」


 恥ずかしいことを受け継がせないでくれと思ったヨシナリだが話を聞いてみた結果はこうだ。

 あの講習の後、すぐに実践をしたらしいこの家臣達は、めでたく意中の男(世話役)を手に入れた挙句に夜まで突っ走ったとの事だ。

 それを聞いたヨシナリは目をパチクリしていたが、それを聞いたその他の者たちも興奮してこの部屋に来たという。


「流石だ。その深い知識、感服いたした」


「お陰様で筆のノリもよく、やめられない止められない。昨日の今日で売り上げは3倍になりましたぞ!」


「いや……此奴らに呼ばれて来ただけなのだが……どうじゃ、この知識を村の者共にも授けてやるというのは。勿論金を取るがな」


 と言葉を投げかけられたが、寝起きである。働かない頭を何とか動かしたヨシナリは一言。


 「それは壁ドンじゃなくて畳ドンないし……畳返しなんだわ…」


 とツッコむ事しか出来なかった。



 因みにその講習会のおり、ヨシナリの嗜好を聞いた女達により「ヨシナリの為の太腿連合」なるモノが出来上がった。

 その組織の代表を務めるのは、どこぞの屋敷の大和撫子に仕える第一の家臣なのだが、それは口外しないように厳命する制約が第1条に定められている。




───────────────────────



フォロー等々ありがとうございますm(._.)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る