其の拾捌


 どんちゃん騒ぎの後始末などそのままに、各々満足したら帰る者やその場で寝てしまう者が約半々。

 ヨシナリ以下魔の森へと向かう面子は、村長宅へとご機嫌なまま肩を組んでヨロヨロとした足取りで戻れたらしい。



──チュンチュン──



 小鳥の囀りで目を覚ましたヨシナリだが、何やら顔が控えめに言って天国かのように気持ちよく、そして同時に息苦しい。



「んあ?」



 顔の周りを何かに拘束されているらしく暗い上に頭が動かせないため、その何かを名残惜しくも退かそうと手を添える。



「なんだ?このすんばらしい手触りと締め付け具合は。このまま窒息しても構わんほどにすんばらしい」


「ヨシ殿…!喋らないでくれ!こそばゆいからああ!」


「うん?」



 お市の声が聞こえたが、とりあえずすんばらしいのは置いといて掛け布団を手探りで手に取りバッと捲る。隙間から光を取り戻したヨシナリの目前にはなんと褌が!



「これはっ!!」


「ちょっ!らめええぇ……」



 ヨシナリは察した。これは太腿であると。俺の顔を挟んでいるすんばらしいのは太腿だと!そして嘆いた。即座に太腿と察せなかった自分の愚かさに。その愚を再び起こさぬよう自身に刻み込む。すなわち太腿をめっちゃ触る!



「素晴らしい!!はっはっ!素晴らしいぞおおおお!」


「あっ……!」


「朝っぱらから盛ってるのはどこのどいつじゃああああ!」



 襖がスッパーン!ともの凄い勢いで開いた。青筋を立てたネネが仁王のように見下ろす。



「貴様ら。ワシの寝室の横でようやるな、ん?首を刎ねられても文句は言わせんぞ?」



 ネネの手には刀が握られている。最早問答無用である。なんとか煩悩を振り払っ……え切れなく煩悩まみれではあるが拘束を解いたヨシナリと復活したお市はネネの元へスライディング土下座をかます。



「申し訳ございません!」


「すみませんでした!お市さんの腿が素晴らしすぎて……違う!控え目に言って極楽だったのです!申し訳ない!」


「さてはお主反省しておらんな?」



 ふーっと息を吐き、なんとか落ち着いたネネは刀を鞘に収める。行為に至ったわけではないのは把握していたため、その煮湯は飲み込んだ。



「……そんなに腿が好きならワシのでもいいだろうが」


「いえ!ネネさんは腿ではなく尻に埋もれさせて頂きたいです!それはもう!尻に帰りたいくらいです!」


「尻に帰るとはなんなんだ!?」


「我々人類は尻から産まれたと言っても過言ではないかとおおおぉ!」


「お主は何をいってるのだ……?だが尻か。どれこれでどうじゃ」


 ネネが向こうを向き強調するよう手を添えるとヨシナリは「!!!ありがたやーありがたやー」と拝み始めた。横にいるお市は「え、えぇ…」とドン引きである。ネネはしたり顔をしているが拝んでいるヨシナリには顔は見えていない。

 そしてカエデの春画に○○に埋もれたい男シリーズなるものが追加され、巷の女達に衝撃を走らせたのは言うまでもないだろう。



「ヨシナリよ。そろそろいいか?」


「許されるならば永遠に」


「それは魔の森から帰ったら存分に…なんだ…帰ってこい。昨日からヤツの姿が見えないのだが何か知っておるか?」


「神様なら貯まっている仕事をしに天界に戻った。数日で戻るとの事」


「宛にならん神じゃな……」


『神降臨でござ候』


「うわっ出た!」



 噂をすればなんとやら。神がござ候なされた。なにやら不具合を直しに天界まで戻ったのだとか。



『うわっ、は中々酷い言いようだねヨッシー。不具合を直してあげてるのに』


「不具合?」


『いやぁ、昨日小鬼と遭遇したでしょ?』


「あ、はい。ゴブリンみたいの出てきましたね」


『そう、その小鬼は弱いため普通群れで過ごすわけですよ」


「うむ。一体であるはずがないとカエデ殿に探ってもらったが、あれ以外にその形跡はなかったとのことだ」


『そうそう。一体だけいるのはおかしい。しかも狼を使役するのは上位個体なわけで』


「……魔の森に何かおかしな事が?」


『え?ああ、違う違う。あの小鬼は転生者だったってだけ』


「なんだそうい……う!?」


「転生者とはなんだ?高みに至った者の事か?」


『あー。ヨッシーと同じ感じの人って事だよネネン』


「ヨシナリと?どういう事だ?あとネネンとはワシの事か?」


『あれ、言って無かったっけ?ヨッシー、教えて差し上げてよー』


「いいの?あ、はい。えっと俺はこの世界の人間じゃないというか、なんというか……」


「「だからか!!」」


『じゃ私は残りの修正してくるわーもう数日待ってねー』


「頑張ってらー」


「「だからどこかおかしいんだ!!」」


「ひ、酷い言われよう」



 何か普通の男と違うと思っていたネネとお市。その要因を知る事により大いに得心が行った二人なのである。

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