其の拾伍
夜が明け、雲一つない快晴。ヨシナリは布団から身体を起こし厠へと向かう。
その途中にて草履をキュッと締めて出立の準備を終えたカエデと出会した。その横にはいつの間にやら起きていたのか、ネネの家臣一同がカエデに労いの言葉を掛けている。
「ヨシ殿、お早うございます!このカエデ見事役目を全うしてきますぞ!」
「皆さんお早うございます。カエデさん、無理だけはしないで下さいね」
「はっはっ!其は隠密と逃げ足が武器なのでな!犬畜生なぞでは追いつけないですぞぉぉ!」
「それは頼もしい限り」
「うむ!無事役目果たした暁には某の頬に接吻でもくれていいのですぞ?」
「そんなモノでいいならいくらでも」
「ふぇっ!?」
ヨシナリの予想外の言葉に狼狽えるカエデ以下家臣達。身を寄せ合いヒソヒソ話をし始め「……あれが神のおっしゃっていた『ゔぃっち』なるものか」や「……いやいや『くそがき』というやつやもしれん」やら好き勝手に言っている。
ヨシナリには全て聞こえているため、やっちまったと一人で反省していると、後ろから肩をガッと掴まれた。
「朝っぱらから楽しそうじゃのう?随分とゆっくりしているがカエデよ、斥候は終わったのか?」
「お早うございます吉田様!!只今より行ってまいります!」
「ああ、お早う。命を第一に考えるのだぞカエデ」
「……はっ!行ってまいります!」
カエデはそう言うと背筋をピンと伸ばし、広縁から素早い動きで出立した。
「カエデさん速いな」
「そうだろう。やつは忍の末裔ゆえ情報収集と隠密に長けている。まぁその情報も下のネタに偏ってはいるのだがな」
「忍が下ネタ集め……ん!?カエデさんは忍!?」
「そう言っておろう。どこぞの馬鹿城主からワシの暗殺を任命されたのだが、返り討ちにしたらこの通り春画描きの忍へとなりおったわ」
「春画描くために情報収集する忍www」
無駄に洗練された限りなく無駄のない無駄である。
「あれ?お市さんの姿が見当たらないけどネネさんご存知か?」
「……うむ、やはりヨシナリにネネと呼ばれるのは良いのう。お市ならそこの襖を開けた所にいるであろう」
スーっとふすまを開けて中を見ると、布団を身体に巻き付けあーあー言いながら縦横無尽に転がり回るお市の姿と、それを見てニョッニョッと笑っている神の姿。笑い方の癖よ。
ヨシナリは襖を静かに閉めて自分の部屋へと戻ろうとしたが、ニョッおばさんに捕まり介護をしなくてはいけなくなるのであった。
「あだまがいだい!」
「お市さん、飲み過ぎですよ」
『そーそー。あんまり飲めなかったカエちーに怒られるよ?』
「速攻で寝落ちたニョッおばさ……ニョッ神様は黙ってもらって」
おばさんと言おうとしたら得もしれぬ寒気に襲われ言い直したヨシナリ。ずっとニッコニコの神様が非常に恐ろしい。
『堕とすぞゴルァ』
「ニッコニコのまま言わないで下さいほんと調子乗ってました本当に申し訳ございません許して下さい神のご加護を」
『私が神なんですけど』
「そうですね」
『そっか』
「はい……」
『そっか……』
「あだまガガガガが」
「『朝ごはんまだか!?』」
なんか噛み合わなかったらしく朝ごはんに逃げる一人と一柱。お市は放って置かれた。
カエデが出てから約二時間が経過し、朝飯も片付けが終わっていた。
お市を放っておいてしまった罪悪感からか、朝食時ヨシナリはお市の横に座り粥を食べさせていた。対面に座っていた村長が「あぁ私も二日酔いが…チラッチラッ…私も粥で良いからなぁ!言わなくても分かるだろぉ!?……あぁ2日酔いがぁ……チラッ」と見つめまくっていたがヨシナリは華麗にスルーを決めた。
各々荷物や武器の点検をしようと解散しかけた時、大広間へとカエデが入室した。
「吉田様。カエデ只今帰りました」
「うむ。ご苦労である。してどうだった?」
「はっ!約四十匹からなる狼とは思えない規模の群れとなっておりました。内十匹ほどは其が仕掛けた罠と毒により負傷または中毒状態になっておりますぞ」
「見事だが無理はするなと言ったであろう。お主はなんともないのだな?」
「隠密に至っては其を見抜いたのは吉田様以外には存在いたしません。それは獣畜生に至ってでも」
「わかった。流石は羽生一族であるな」
『羽生だってええぇ!?』
「神!知っているのか?」
『知らん』
「……カエデよ。この神殴ってよいかの?」
「カー様は仮にも神様なんだから殴っちゃだめですぞ吉田様!殴るなら狼にしときましょう!」
「狼だってええぇ!?」
『ヨシナリ!知っているのか?』
「おう!」
「……そこな二名、ワシの前で正座せい」
この後、メチャクチャ怒られた。
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