其の拾肆
「なるほど。狼か」
「はい。狼達が夜中に畑を荒らしにやってまいります」
「彼奴等は獣の軍勢であるからな、農民達では荷が重かろう。して村民の獣害はどうだ?」
「以前吉田様に頂いた爆竹等々で大方追い返せておりますが、慌てて背を見せてしまった親子が喰われてしまいました」
「ふむ…人の味を知ってしまったか」
乾杯し皆が酒を口に含みつつもネネと村長の話に耳を傾ける。ネネの前に徳利とお猪口だけをもって座る村長は、村の被害と獣の種類を詳しく説明する。
狼は恐るべし獣である。現代日本における大型犬ですら常人は倒せない。もちろん無手であればだが。その大型犬よりさらに強靭なうえ賢明で統率能力を持つ狼の群れは、この世界の人々にとっては恐怖の対象だった。
また人を食べた狼は討伐すべき対象となる。鈍臭い動きの人という肉がいるのだから狼達にとっては格好の狩場になるし、他の場所へ追い払ってもその先でまた人間という肉を求めて暴れ回るだろう。
「ワシらが村に入ったことで今日は警戒していよう。討伐は明日の夕刻に決行する。カエデ!」
「はっ!」
「明日の明るいうちに斥候をしてこい。護衛はいるか?」
「不要」
「頼もしい限りだ。だが飲み過ぎるなよ?」
「えぇ〜。吉田様はたらふく飲まれるんですよね?」
「モチのロンじゃ」
「ちぇー」
湿っていた空気が和らぎ、笑い声が生まれた。
宴もたけなわ。一部の女が褌一丁で裸踊りをしており、それを見て周りがバカ笑いをしている。何がとは言わないが、もうブルンブルンのバインバインである。
ヨシナリには目の毒なのか、見たい欲求を抑えつつネネの横顔をみる事でなんとかマイドラゴンを抑えつける。
「すまんなヨシナリ」
「吉田様?」
「前にも言ったがネネでよい。周りなぞ気にするな。主はワシのお気に入りゆえな」
「……っ」
直接そんな事を言われては恋愛経験のないヨシナリは照れてしまう。酒が入り上気したかのよう見えるネネは、それはもう魅力に溢れていた。
「狼との戦いで気は抜けん。そしてその後にワシ達は魔の森へと入るだろう?」
「はい」
「村長にもその事は通達してある。あの馬鹿騒ぎは奴らなりのワシらへの激励じゃ。またここに集まりバカ騒ぎをしようではないか、というな」
「はい……」
「おや、ヨシナリは随分と初心じゃな」
かっかと笑ったネネはヨシナリを見つめる。頬を赤く染めて下を向き、何かを誤魔化すようお猪口でチビチビ飲み始めたヨシナリ。ちなみに神はその隣で一升瓶を大事そうに抱いてイビキをかいて眠っている。
「……ワシが辛抱堪らなくなりそうじゃな……」
「ん?吉田様何か?」
「なんでもないわ。あとネネと呼べ」
その日の宴会はあまり飲めないカエデの「某は飲みたくても飲めないのにいいい!」という悲痛の叫びによりお開きになったのだとか。
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