其の拾弍


 出発の刻。町では吉田様御一行が魔の森へ弔いに行くという噂が既に流れていたのか、町人総出でのお見送りとなる。吉田ネネの武勇とヨシナリの美男は知れ渡っており「行かないでくれ」という引き止める声が多数を占めた。



「かか様達の弔い、見事果たしてくる」



 身の回りを世話する者と家臣達は農村で帰りを待つ。魔の森にはヨシナリ、ネネ、お市、カエデの少数精鋭での特攻となる。期限内に戻らなかった場合は魔の森に呑まれたと判断し、待機組は帰路に着く計画だ。故に馬車は1つ余計に用意された。


 勇ましく告げるネネに声を上げる町人達。その声は魔の森に家族を呑まれた者達の悲願故か。はたまたネネとヨシナリの信仰家(ファン)たちの絶叫か。



「ゆくぞ皆の衆」


『しゅっぱつだー!』


「「「「お、おう!!」」」」



 馬車がネネの号令に合わせ動き出す。ネネの掛け声に皆が反応し、ついでに神様も反応を……ん?



「神様?」


『なんだねヨッシー』


「普通にいますが、それじゃござそうらへばしたのでは?」


『ヨッシーいいとこに気付きましたね』


「お、おう」


『私は気付いたんです』


「話を先へ」


『森に入る時に降臨した方がよかったのではないのかと!』ドーン!


「俺も大分フライングしてるなとは思ったんですよ」


『なので、結論として一緒に行きます』


「端折りすぎてどうしてそうなったかわからねーんだわ!」


『えー。だって神ひま……おお゛ん!貴方方は神のご加護が必要なのでしょう?加護るよ?もう張り切るよ?』


「目の前で聴くと三割り増しできったねぇ咳払いですね」


『グイグイくるねヨッシー。止まるんじゃねぇぞ』


「それ死亡フラグじゃなくて死んでるんだわ!」



 当たり前のようにヨシナリ、ネネ、お市とカエデの乗る馬車へ乗り込んできた神。車内ではネネとお市がこの得体の知れない女を警戒し威圧していた。二人は常に刀が抜けるよう柄に手を掛けていた……のだが、今となっては目を閉じて精神統一をしている。こんなに騒がしいのによく集中できるものだ。天晴れである。



「「お主らやかましいんじゃ!!!」」



 ダメだった。集中できていなかった。そりゃそうだ、目の前で漫才されては集中できるわけがない。


 もう一人の同乗者である春画のカエデは、揺れる馬車の中だというのに一心不乱に春画を描いている。この中で一番集中できているのが春画描きだという事実には目も当てれない。因みにヨシナリと神様以下、目を開けたネネとお市もその内容をチラチラと盗み見ている。このパーティ本当に大丈夫か?



『大丈夫。問題はない』


「一番良いので頼む」




 そんなこんなで農村に着いたのは出発してから3日の日が経った時だった。車内の壁という壁には出来上がった春画が張り巡らされ、人様には見せられない状況だ。



「カエデさん」


「何用ですかな?ヨシ殿」


「この戦いが終わったら、この春画を俺にくれませんか?」


「おっほぉぉ!某の春画を男子しかも美男子に欲しがられるとは!ヤラシイ……どことなくヤラシイですぞおぉ!よろしかろう好きなだけ持ってゆけい!!」


「フッ。時代がカエデさんに追いついただけですよ」


『私はコレ貰っていい?カエちー』


「主らはよ出んかい」



 外に出るとなかなかに大きな村だった。

 獣対策なのか畑の周りには杭が打ち付けられ壁のようになっている。所々に槍のように尖った杭が外に向けて配置されていた。暗闇の中を駆けてきたらグサっといく具合なのだろう。

 しかしその柵はあちらこちらで破損していた。補修が間に合っていないのか、はたまた頭脳が発達した獣なのかは村人達に聞いてみなければならない情報だ。


 村長の家はとても大きく、大きさだけであればネネの屋敷に匹敵する。しかし造りは比べるまでもなく、宿のないこの村では村長の家で一向がやっかいになるしか手はないようだ。

 敷地内入り口で村長以下が最敬礼をもってネネ達を待っていた。


「よくぞおいでなさいました、吉田様」


「うむ。やっかいになるぞ村長」


「滅相もない。ところでそちらの美男子は吉田様のお連れ様でしょうか?」


「まだ違うな」


「……なるほど」


「早まるなよ?主は失いたくないからな」


「はははっ。お戯れを」



 なんかバチバチしている雰囲気を感じたヨシナリは、夜に部屋から出ないようにしようと心に決め、村長案内の元ネネ達と家の中へと入って行ったのであった。



───────────────────


 村長は戦闘面でゲロ弱の女なのでネネとの勝負にはならないのですが、村長就任後に村をドンドン大きくして多額の税を納める稼ぎ頭です。しかし村に男子が少なく、その誰もが妻子持ちのため行き遅れそうで焦っている節もあります。



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