其の拾壱
「魔の森……?」
ヨシナリは愕然としていた。糞猿に追いかけられていたとはいえ、そんな大層な所以のある森だと思いもよらなかったためだ。
農民一団は別室へと移動させられ、今この場にはネネとお市と家臣達、そしてヨシナリのみとなっている。
「うむ。ワシのかか様はあの場所を領地とすべく軍を連れ侵攻したのだが、ついぞ帰らぬ人となった。ワシよりも強いお方だったが、それでもだ」
「遺品を回収する事も出来ませんでした」
魔物のいる森。そこにせめて遺品をと回収しに向かえば、被害が拡大して本末転倒となってしまう。そのため模索は断念されていた訳だ。
「ヨシナリよ。ほんにお主はあの森から来たのか?それが真なら道中に何かなかったか?かか様の見事な甲冑は!?命とまで言っていたお気に入りの刀は見なかったか!?ワシの送ったお守りは!?」
「吉田様!!」
「……いや、すまん。取り乱した、許せ」
「いや……心中お察しする。しかし申し訳ないが道中には刀や甲冑はおろか人に関する物が一つとしてなかった」
「一つもだと?」
「ああ。しかも情け無い事に自身は猿に追われ逃げ回っていたのもあり、見落としがあった可能性は大いにある」
糞猿から逃げていた時はゆっくりと周りを見れていない。もしその時に見落としていたのであれば。しかしヨシナリは武器となる物を常に探しながら走っていた為、その可能性は非常に少ない。
「ヨシナリが猿に遅れをとるわけがないと思うが……さる、さる……っ猿!お市!」
「はい。ヨシ殿、その猿は動きが素早くなんというかこう、アレを投げて来なかったか?」
「あ、ハイ。早いしすんごい投げてきました。なので必死で逃げました」
えんがちょは嫌なのでヨシナリは必死で逃げました。
「ヨシ殿を追いかけていた猿。それは神の類いだ」
「ファッ!?」
「古くからの伝承にある神だ。神々しい気を放つヨシ殿に引かれ寄ってきたのだろう」
「神々しい気……?」
「その神は動きが異常に早く、気に入った相手に糞を……失礼。アレを投げて来るのだとか。その神のおかげで魔物は近寄れなかったのではないだろうか」
女神により転生されたヨシナリは僅かながらの神気を纏っている。それは糞猿……失礼。アレ猿を呼び、またその猿の影響で魔物が近寄らなかったとお市は予想を立てた。
「えっと、俺神気を纏ってるの?」
「神々しい美男子であろう」
「えぇ……」
神聖魔法的な何かを期待したヨシナリだったが、それはただの見た目の話であったためにがくりと項垂れる。
それをかかと笑って見ていたネネだったが、その視線は鋭くなり剣吞なものへと変わる。
「ならばヨシナリを東の森へと連れ行けば、遺品模索が適うかもしれんという事であるな?幸い此度の農村は東の森のすぐ横。お市よ、ワシは絶対に出るぞ」
「わかりました。もう止めませぬ。しかし私もご一緒させて頂きます」
「お主も出れば誰がここを見る?」
「訳もわからないまま残された者のやるせなさは吉田様が一番お分かりかと」
「……よかろう。ヨシナリよ、そういう事になったのだが案内頼めるだろうか?礼は……そうだな。ワシの処女でもくれてやろう」
「案内承りました」
そんな話を聞かされたら一も二もなく受けるしかないだろう、とヨシナリは粛々と頷いた。
その後はてんやわんやの引き継ぎ準備が始まり、不幸があった場合の手引き書等々を書き留めていくネネとお市。
そして数日経ち出立の日。朝食を食べている時にそれは来た。
『女神降臨でござ候』
飯を食いながら最後かもしれない会話を楽しんでいた一同の前に神がその姿を現した。ヨシナリは口に含んだ味噌汁がいい所に入ったのか思いっきりむせかえっている。
「神様!?ゴホッ」
神を訝しげに家臣達は見つめ、ネネに至っては刀に手を掛けている。怪しい女が突如生えてきたのだから警戒しないほうが可笑しい。
『ヨッシーおっはーでござ候。とりま伝えときますね。あ、ござ候。吉田ネネ。あなたの母は生きていないけど生きてます。あまり深いとこまでいくと帰れなくなるから気をつけて下さいね。ヨッシー、ヒントを恵んであげましょう。起きたら1時間以内にあります。それじゃ、ござそうらえばー』
神が去った後にはポカーンとした女達と、今だ咳が微妙に止まらない男が取り残されていたのだとか。
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ヨシナリはネネの顔を立てる為(面子を潰させない為)屋敷の人間以外がいる時は基本的にネネに遜ります。身内だけの時であれば対等に話すので分かりにくいかもしれませんね……描写がムツカシイ。
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